HRC総監督・石井勉レポート


2007年シーズンのMotoGPも14戦を終了し、今週末はいよいよ第15戦日本GPを迎える。サマーブレイク後のレースでは、レプソル・ホンダ・チームのニッキー・ヘイデンとダニ・ペドロサは、ともにキレのいい走りを見せてフロントローの常連になり、決勝レースでも本来のポテンシャルを発揮して表彰台に立つ活躍を見せる。一方で、偶然の不運に泣かされて予選結果を生かせず、表彰台を狙えるレースであっけなく走行を終えてしまうこともあった。 今回は、波瀾に満ちた後半戦で着実に進歩を続けるHonda戦士たちの戦いをHRC総監督石井勉が総括し、レプソル・ホンダ・チーム監督田中誠がツインリンクもてぎで開催されるホームグランプリに向けた意気込みを語ります。

■ HRC総監督石井勉 [ 総括 ]

石井「サマーブレイク直後のブルノは、ニッキーが予選2番手でダニが3番手。決勝レースではニッキーが3位表彰台、ダニは4位フィニッシュでした。結果だけを眺めると、そこそこ上向きになってきたようにも見えますが、内容的には、またもやタイヤパフォーマンスの差が歴然と出てしまったレースです。レプソルの2台は予選も悪くありませんでしたし、決勝でもいけそうな期待はあったんですが、最終的にタイヤを含めたセッティングで、ライバル陣営のほうがさらに上まわっていた、という状況です。最終的なトータルタイムで10秒以上も離されてしまったのは、コンマ5秒程度の差を毎周回ごとに積み上げられていった結果で、今シーズンのレースで何回も繰り返されてきた構図です」

−そういえば、このレースからサテライトチーム全体にエボリューションパーツがいき渡るようになりました。

石井「排気系やリアサスペンションのリンクなど、投入したパーツは一目瞭然でハッキリわかるものばかりです。見えない部分では、エンジンパフォーマンスも向上させています。ライダーたちのコメントは概してよい反応ばかりで、フィーリングは改善されているのですが、結果はそれに反して、我々の陣営は下の方に溜まっているようなリザルトでした。あまりタイヤのせいばかりにもしたくないのですが、ミシュラン勢とブリヂストン(BS)勢という枠で見ると、BSのほうがアドバンテージがあったというレースです。ただ、我々のBS陣営はというと、ホンダ・グレッシーニのマルコが、過去の転倒などの影響もあってヘルニアを発症して決勝レースを欠場しました。チームメートのトニは、大たい骨骨折から復帰して11位フィニッシュ。復帰といっても、歩行には松葉杖が必要な状態だったので、よくがんばってくれたと思います。一方、カルロス・チェカが10位で、中野君は14位。相変わらず、チャター(振動)に悩まされているようでした」

−チャターに関してですが、ほかのライダーは同じような問題を訴えていないのですか?

石井「ライダーによりますね。気になる人はとことん気になるようだし、そうかと思うと、乗れているときは症状が出ていても気にしないという人もいます。あと、概していえるのはマシンとのマッチング。Hondaのフレームにハイグリップタイヤを入れるとチャターが出やすい、という傾向はあるのかもしれません。それを吸収するか、しないかというのは、車体の剛性に負うところもありますが、サスペンションセッティングも影響してきます。そういう意味では、中野君の場合は自分のフィーリングにぴったりくる理想のようなものがあって、ほかを犠牲にしてでも、そこさえ解消すればきれいに乗れるのかもしれない。問題解決のためには、チーフメカニックとのコミュニケーションやライダー自身からの積極的なコメントが重要な要素になりますが、タイヤという要因も影響してくるでしょうから、一概にどこが問題、ともいいきれない。当事者以外にはわからない部分はどうしても残ってしまうのかも知れません。いずれにせよ、ブルノはよくも悪くもタイヤに尽きるレースでした」

−では、翌戦のミサノはどうでしょう。

石井「このレースは、アクシデントに尽きます(苦笑)。1周目2コーナーでレースが終わってしまいましたからね。金曜の豪雨の影響で、土曜のフリー走行が2時間に延長されて、そのときの内容はあまりよくなかったのですが、決勝日のウオームアップセッションで、視点を変えて変更してみたセッティングがすごくよく、レースに向けて期待が高まっていたのですが……、しようがないですね。巷間よく言われるように、これもレース、です。不運なレースでしたが、逆にライバル陣営は、運まで巻き込んで絶好調、といった様子でした。しかしまあ、勝っているときというのは概してそういうものです。運や勢いも全部引き込んで、うまく回っていきますからね。
 ミサノといえば、250ccクラスでアンドレア・ドヴィツィオーゾがリタイア。地元レースで気合いが入っていただけに、かわいそうなことをしてしまいました。じつはあるコーナーで、フィーリングの気に入らない部分があって、そこのパーシャルをレース前にさらに詰めたんです。ライダーのフィーリングはそれで非常によくなったのですが、実はそこがセッティング面の薄い部分で、結果的にエンジントラブルにつながってしまった。勝負をかけた結果とはいえ、精いっぱいやってくれたライダーに報いることができず、本当に申し訳ない思いです。とはいえ、2ストロークはそれくらい繊細なエンジンで、たとえばピストンのバッククリアランスを何ミクロン詰めるかというシビアな勝負の世界に入っていくのですが、逆にいうとそのくらい攻めないといいパフォーマンスを出さない、ともいえる。その意味で、ライバル陣営のほうがポテンシャルがあるということになるわけですから、我々はさらに気を引き締めて、ライダーの思いに報いるマシン作りをしなければならない、との思いを強くしています」

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