07シーズンは全18レースの折り返し地点を過ぎ、7月には2週連続で第10戦と第11戦が開催された。第10戦ドイツGPではレプソル・ホンダ・チームのダニ・ペドロサが優勝、チームメートのニッキー・ヘイデンも14番グリッドから追い上げを見せて3位フィニッシュと、ともに表彰台を獲得する素晴らしいレースを見せた。続く第11戦では、ニッキーがホームグランプリ3連覇を狙ったものの、オープニングラップのアクシデントが原因で不運にもリタイア、2番グリッドからスタートしたペドロサも5位でレースを終え、ミシュラン勢は総じて苦戦を強いられた。
今回は、HRC総監督石井勉とレプソル・ホンダ・チーム監督田中誠が、明暗の分かれた両レースを振り返り、シーズン後半戦に向けた展望を語る。
石井「ザクセンリンク(ドイツGP)はレプソルチームの1、3位フィニッシュ。2位にはライバル陣営でブリヂストンタイヤ(BS)を装着した選手が入っています。このレースについては、ミシュランとBSのどちらかのタイヤが特によかったということではなく、ライバル陣営の中にもタイヤ選択を誤ってしまった選手がいた、ということなのでしょう」
田中「ミシュラン勢は総じて悪くはなかった、とはいえますが、実際のところ、金曜日のセッションではそれほど順調でもなかったんです。午前と午後ではかなりコンディションが違い、『午後になって気温が上がらないと、タイヤの温度が上がらないから厳しいぞ』なんて言っていたのが実情で、あまり順調に進んでいたわけではありません。ただ、土曜になると天気も安定して、予選もうまく運んだ。その結果、決勝日のレースでダニが圧倒的なペースで優勝を飾ってくれた、という流れです」
石井「ダニは、今季初優勝ということもあって、とても喜んでいましたね。ニッキーも、その前のレースでは13番グリッドからスタートして3位、今回も14番手から3位、と調子づいてきた。ニッキーの調子がよくなってきたのはカタルニア事後テストからで、ドニントンも本来ならばよかったはずなんですが……」
田中「ドニントンでは、これから追い上げるぞ、というときにフロントから転倒してしまい、残念ながら結果を残せませんでした」
石井「マシンの仕様は、あそこから大きく変わってはいない」
田中「そうですね。ワークスですから、毎戦細かい部分でのアップデートはありますが」
−ザクセンのレースでは、カルロス・チェカもフリープラクティスからいいパフォーマンスを披露していました。
田中「彼はこのレースから、ワークスと同じ仕様のリアサスペンションを使っています。その効果もあって、少しずつ彼が求めている方向に近づいてきた、ということです。残念ながら決勝レースでは転倒してしまい、いい結果には結びつきませんでしたが」
−また、リタイアに終わった中野真矢選手ですが、リアタイヤがロックするような症状が発生した、とコメントしていたようですが。
石井「エンジン本体には物理的に問題はなかったものの、ロックに似た症状が出てしまうところがあったんです。実はこの症状は、大小の差はありましたが何件か発生したのですが、条件がいくつか重なったときにだけに現れる事象だった」
田中「ザクセン特有のああいうコースレイアウトで、低速ギアだけど高回転で走らなきゃいけない場合にエンジンが不調になる領域があったんです。800ccになって日本国内や、環太平洋のセパンサーキット、フィリップアイランドなどで行った事前テストでは発症しなかったのですが、今回、そのようなテストでつかみきれなかった事象がレースで起きてしまった。マルコやダニには出なかったのですが、実はニッキーにも少しこの症状が出ていました。彼の場合、レース展開の中でトラフィックがクリアになって、症状が治まったというのが実際のところです。結果的に中野選手にはかわいそうなことになってしまいましたが、現在は原因も究明して対策を済ませています」
−サテライトチームは残念な結果だったとしても、ワークスチームはそろって表彰台でした。
田中「反撃ののろし、かと思ったんですけどね。ひさびさにチーム2台とも表彰台で、次もいくぞ、と思ったんですが」
−第11戦のラグナセカは、BS勢が圧倒的でした。
田中「逆に言うと、ミシュランもがんばって準備をしてくれましたが、それ以上にBSの準備が勝っていた、ということでしょう。決勝日に気温がぐっと上がるという我々にとっての天の助けもなく、さらに午前のウオームアップでライバル勢の選手がさらに記録を更新するようなラップタイムをマークしたのを見せつけられ、この段階ですでには勝負があった、という感もあります。ダニは一縷の望みを託してトップグループを追いかけたけれども、長続きしなかった。ニッキーも地元だから最後までやる気を見せてがんばってくれましたが、まさか自分の真後ろにつけた選手が2コーナー進入で接触してきて転倒するとは、思ってもいなかった展開になってしまった」
石井「コース路面に関しては、去年よりもずっとよくなっていました。従って、この敗因は温度レンジだけではなく、いろんなファクターが混在していると思います。路面温度もそこそこで、トラクションする状態だったわけですから」
田中「タイヤの中身はまさに我々にとってはブラックボックスの部分もありますので、我々だけのがんばりではどうにもならないところがあります。ライダーはもちろん、タイヤメーカーの努力に報いるために勝てるマシンを用意するのが私たちの責務だと常に考えているので、他責にするのはまったく私の主義ではないのですが、今回のレースに関する限り、さすがに我々にはどうしようもない領域があったと考えています。もちろん彼らも今回の結果を受けて全力でがんばってくれているので、今後に期待しています」
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