HRC総監督・石井勉レポート


 第8戦イギリスと第9戦オランダは、天候が不安定な地理的条件とも相まって、ともにコンディション変化に翻弄されるレースとなった。第8戦では、フリープラクティスや予選がヘビーレインに見舞われたが、そんな中でもレプソル・ホンダ・チームのダニ・ペドロサはウエットコンディションへの着実な適応を見せ、ディフェンディング・チャンピオンのニッキー・ヘイデンも復活への手応えをつかんだ。ここで示した両選手の好感触は、第9戦でのヘイデン3位、ペドロサ4位というリザルトに結びつく。優勝争いの条件をそろえつつある両選手は、シーズン後半戦に向けてさらなる飛躍を狙う。

「ニッキーの復調に関しては、素直に喜べると思います。しかし、レースの展開・構図はレースによってトップ2台が入れ替わるくらいで、Honda勢が後れをとっているところはまだ変わっていない。とはいうものの、ワークスチームには復調の兆しがあるので、これ以降は2人でワンツーを取る勢いでいって欲しいと思います。ダニは最低でも表彰台で、さらに上を狙わなきゃいけないし、ニッキーもそれは同様。この2台が毎戦優勝を争う勢いで攻めなければ、シーズンも折り返しを迎えた現状では相当に厳しい、という状況です」

−ニッキーは、カタルニアの事後テストでいい感触を得た、と言っていました。やはり、そこがターニングポイントになったのでしょうか。

「前も話したように、ニッキーは彼の好みに合わせた高回転高出力に味付けしたエンジンを試し、一方のダニは排気系を改良して音量を下げ、よりリニアリティを狙った仕様を試してきました。それをドッキングし、フレームについては両者に共通する要望を実現させた仕様をカタルニアの事後テストで投入しました。その結果、ドニントンでニッキーは調子を取り戻し、翌戦のアッセンで表彰台を獲得しました。ライダーのモチベーションも高く、ハード面もまとまってきた、という状況です」

−ドニントンといえば、苦手だった雨を克服したダニの走りも印象的でした。

「かつてはニッキーも雨を苦手にしていた時期がありましたが、徹底的に走り込むことでタイヤを含めた車の特性をつかみ、ウエットコンディションでもうまく走れるように自分のライディングスタイルを適応させてきました。ダニも、比較的早い段階からこの課題に取り組んできたので、今では雨の苦手意識はほとんどありません。ただ、ドニントンのレースに関しては、レインタイヤの中でも比較的軟らかいものを選んだことが敗因につながってしまいました。じつは決勝レースに臨む直前にマシンを2号車に乗り換えたのですが、そのときにタイヤを少しソフトなほうへ振ったんです。マシンの変更は特にシリアスな問題でもなく、クラッチに微妙な違和感を感じたため、念のため大事をとって2号車へ変えた、ということなんですが、レース中のコンディション変化に対する結果論からいうと、選択したタイヤは軟らかめになってしまった、ということです」

−タイヤで見ると、ブリヂストンを履くグレシーニの2台も天候に翻弄されたようです。

「このレースでは、HondaのBS勢もやや苦戦気味でした。ただ、彼らの場合は路面が乾いてきた終盤にどんどん追い上げはじめてタイムを更新し、最終的にはトニ(エリアス)がファステストでマルコ(メランドリ)が2番手タイム、とラップタイムではワンツーを記録しています。そういう意味でも、あのようなコンディションでのタイヤ選択の難しさを痛感しましたね」

−250ccクラスでは、アンドレア・ドビツィオーゾが優勝しました。

「彼はレインタイヤでも気に入ったものがあったので、レース前からかなり自信があったようです。青山周平君は、雨の中でフロントのセッティングがうまく出せなかったと言っていますが、それでもリザルトは今季ベストの5位。高橋裕紀君も同じく自己ベストで4位フィニッシュ。ともによくがんばったと思います。総じて、両クラスとも気象条件とタイヤ選択が大きく結果を左右したレースでした。
 また、MotoGPクラスに関しては、気象条件とも相まってタイヤの影響力が990cc時代よりも大きくなっていることを実感しました。怒とうの馬力を制御しながら走っていたころに比べ、今は馬力が落ちたことで、少しのミスでもリカバリーがより困難になっています。マシンパワーとタイヤのトラクションのバランスを考えたときに、パワーのあるほうが修正がききやすく楽だったのかもしれません。だから、今はタイヤの選び方やライディングスタイル、そして車のセッティングがホントにうまく噛みあわないと速く走れない。そのうちのひとつに微妙なミスがあると、大きく遅れてしまう。
 その前提でアッセンのレースを見たときに、ずば抜けた速さを持っているように見えるライバル勢でも、レース後半になって燃料をセーブしなければいけない状況になり、マシンが燃費モードに入ってしまえばつけ込む余地は充分にある、というヒントになりました。より速いペースで周回して相手を追い込んでいき、燃費モードに入れてしまえば、あとはこっちのもの、ということです。ただ、そのためには、自陣営がより優れた燃費と旋回性を備えていることが必要になりますが」

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