HRC総監督・石井勉レポート

 

−その新フレームは、どういった特性向上を狙ったものなんでしょうか。

「主に旋回性です。ニッキー、ダニの両名が指摘していたポイントですが、剛性バランスを見直して旋回性を向上させました。ライダーからもポジティブなフィードバックを得ています。ダニは、この車体で決勝レースを走りました」

−カタルニアでのダニは最後の最後までトップグループで争い、僅差の3位でした。ムジェロよりも順位は一つ下でしたが、レース内容は前進しているように見えます。

「とは言っても、基本的な構図は変わっていません。ストレートで一気に抜かれ、その分、減速で頑張ってもその手前でさらに前に出られてしまう。では、それだけ深く突っ込めばついて行けるのかというと、極端なくらいバンクして曲がっていくライバルに対して、現状ダニたちのラインははらみ気味になってしまう。レース後に本人も言っていましたが、あれ以上プッシュすると、もっとはらむか転倒するかという状態だったので、あれ以上は攻められませんでした。だから、開幕時と比べると差は縮まってきているかもしれないけれども、基本的な構図は変わっていないんです。今回で言うと、前でフィニッシュしたライバル2台を抜くには、やはり必要なものがまだふたつほどある」

−ふたつ、とは?

「ひとつは、ストレートで充分に余裕を持って勝負できるくらいのトップスピード、馬力。ただ、それだけのトップスピードを獲得できたとしても、その速度から本当に曲げていくことができるのか、という意味では、旋回性も非常に重要になります。また、ひとくちに旋回性といっても、ブレーキ性能やタイヤも含めたコーナリング性能等、様々な角度から検討する必要があるでしょう。ライバル陣営の走りを見ていると、マシンの特性とタイヤの性能が相俟って、ものすごくトラクションして曲がっていくように見えます。この構図を変えていくためには、トップスピードと旋回性の両面をさらに改善しなければなりませんね」

−ところで、250ccクラスと125ccクラスはどうでしたか。

「ドビツィオーゾが4位と3位。ムジェロでは天候不順な中、ドライの走行が金曜と土曜で計30分程度しかなかったためにタイヤの見極めが難しかったのは事実です。そんな状態でのレーススタートとなり、後半はグリップが低下して徐々に離されてしまいました。カタルニアではエンジンに少し手を入れて、自己のレースタイムで見ると優勝した昨年よりも26秒タイムアップしているのですが、全体が早かったので残念ながらついていけませんでした。青山周平君は、ムジェロで予選3番手からスタートし、健闘して6位。また、高橋裕紀君はあの腕の怪我の状態にもかかわらず、よく走りきったと思います。フリアン・シモンは地元のカタルニアで、つい力みすぎてしまったのか、右腕が上がってしまったようで10位。125ccクラスのブラッドリー・スミスも、安定して上位を走るようになってきましたが、あともう一息、といったところですね。総じて厳しい状況ですが、開発陣も、彼らの頑張りに応えることができるように、不眠不休で作業を進めています」

−次の2戦、ドニントン、アッセンで、シーズンは折り返し地点を迎えます。

「とにかく、現状の構図から一刻も早く脱却しなければいけません。去年はドニントンでダニが独走優勝し、アッセンはニッキーが表彰台の頂点に立ちました。その結果から見るかぎり、両レースともホンダ勢にとって良いイメージのサーキットと言えると思います。だから、何としても昨年と同じリザルトを得て、ダニはチャンピオン争いをより有利に進め、ニッキーはホームグランプリのラグナセカに向けて弾みをつけてほしいところです。ここまでは厳しい戦いが続いていますが、我々はけっして諦めていません。マシン開発をもっと進め、ライダーたちの努力に報いる結果を呼び込めるよう、日夜全力を尽くしています。シーズンはこれからが正念場です。今後とも、応援を宜しくお願いいたします」

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