HRC総監督・石井勉レポート


 シーズン前半戦最大の山場を迎えた第6戦イタリアGP(ムジェロサーキット)と第7戦カタルニアGP。イタリア、スペインともにモータースポーツは隆盛を極めているだけあって、膨大な数の観客がサーキットに押し寄せた。そんな目の肥えたファンの前で、レプソル・ホンダ・チームのダニ・ペドロサは両レースともに熾烈なバトルを繰り広げて連続表彰台を獲得し、ポイントランキングでも安定して3番手につけている。

「ムジェロではミシュラン勢がトップを占めましたが、ダニは結局2位で終わってしまいました。ニッキーは10位。レース直後には、フロントが巻き込み気味でリアもスピニング気味だった、とのコメントでしたが、ニッキー自身は『言い訳はしない』と言っています。彼にとっても、我々にとっても辛いレースでした。ダニは、レース中盤から急激にグリップが低下し、ペースを維持できなくなった、とのことでしたが、前の選手を精一杯追っていたため、レース終盤になってエンジンセッティングを調整するモードスイッチの切り替えも使わなかったようですね。我々開発側から見れば、それだけ彼に余裕のない走りをさせてしまった、と言うこともできるかと思います。上位2台のあとは、ブリヂストン(BS)勢がずらりと占拠する恰好になりましたが、そのBSを履いているマルコは、リアのトラクションがなくなり、フロントは振動が出て切れ込んできた、というコメントでした。やはりレース序盤から一所懸命走るあまり、タイヤを温存できなかったのでしょう。今年のレギュレーションでは、あらかじめタイヤメーカーさんが用意したバリエーションの中から各チームやライダーが自分たちの使用するものを選択しているので、BS勢もミシュラン勢も、チーム毎にさほど大きな差はないはずです。だとすれば、その選択した中でのタイヤ選びやセットアップの進め方等、レースウィークの組み立てや戦略が重要になってくるのだと思います」

−今シーズンからタイヤが登録制になったことは、やはりチーム戦略に大きな影響を与えているのでしょうか。

「これは一般論ですが、タイヤの適応範囲がピンポイントの場合は、当たるときには抜群の性能を発揮しますが、気象変化等で温度レンジが急に変わったりすると、一気にはずれてしまう。だから、タイヤメーカーさんも、これまで以上に予測技術を研ぎ澄ませながら、より広いレンジで対応できるようなタイヤ製作、という方向に進んでいるんだと思います。我々ユーザー側も、レースウィークの天候や路面温度を考え、タイヤメーカーさんとも相談しながら、このくらいのレンジのこういうタイヤを何本、と選んでいくわけです。当初の予想よりも寒くなったり暖かくなったりすることもあるわけですから、それをカバーできるようにあらかじめ考慮しておくという意味では、タイヤ選びはやはり重要です。ただ、BSでもミシュランでも、現状のホンダ勢は一所懸命走ってしまうあまり、なかなか最後までタイヤの性能を温存できないという傾向があることは否めません」

−マシンの特性上、タイヤに負担を強いてしまう、ということでしょうか。

「ライダーの特性や乗り方、エンジン特性等を含めて、前を走る速いマシンを追いかけると、序盤から突っ込みがきつくなり、それを繰り返しているとレース終盤でタイヤが厳しくなってしまう、という要素はあると思います。本来なら、ダニのようにうまく車速を乗せることができる、タイヤに優しい走りのライダーは普通に走っていても温存できるのですが、相手が速いと自分もブレーキングをぎりぎりまで遅らせてコーナー進入で張り合ってしまい、その結果、摩耗を早めてしまう。ムジェロでは、チェカは10周目の4コーナーでオーバースピード気味で進入して転倒リタイア、中野真矢君も終盤にタイヤを使い切ってしまったようで13位。おしなべて、ホンダ勢のライダーには苦しい戦いを強いることになってしまいました」

−ムジェロのレースではダニのマシンに新パーツは投入されていたのですか?

「ルマンで投入した新しい排気系の耐久性を更にアップさせたものを採用しています。次のカタルーニャでは、その排気系をさらに進化させました。左側サイレンサーの形状を変更しただけではなく、そこに至るエキゾーストパイプのスペックも変えることで、出力特性はさらにリニアリティ向上を実現しています。カタルーニャでは、新たなフレームも試しています」

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