HRC総監督・石井勉レポート

 

−事後テストでニッキーが試したというパーツとは、それのことですか。

「そうです。具体的に言うと、リアサペンションのリンクです。まだ途中段階でまだまだ進化させなければいけませんが、我々としては方向性を絞りこんでいて、その性能を発揮させるための具体的な方法に取り組んでいるところです」

−ヘレスでは、マルコがややナーバスなようにも見えました。

「彼の場合もニッキーと同じような傾向なのかどうか、さらに探っていく必要がありますね。彼のチームだけ他とはタイヤメーカーが違いますが、チームメートのトニ・エリアスは最後まで前を追い上げて走り切っています。そう考えると、単純にどこに課題がある、と一点で語れないところがある。見方を変えれば、同じマシンでもワークスやサテライトがあって、その中でもライダー毎に仕様やタイヤやセッティングもそれぞれ違っている中で、よかったり悪かったりする選手がいる。だから、これは技術陣にとって大きなヒントになるし、実際に開発の焦点を当てやすくなっていると思うんです。逆にライダーの立場に立ってみれば、言い訳はできなくなるわけですから、自分の走り方やスタイルを考えてみるいい機会にもなる」

−中野選手も、開幕2戦を見る限りではやや試行錯誤中のようです。

「彼の話を聞いていると、フロントについてのコメントが多いので、形は違うけれど、ニッキーに似た傾向なのかもしれません。ひとつ気がついたのは、トニとチェカの2人は、フロントフォークのセッティングがほかのライダーとは違うんですよ。多くの選手がフロントの信頼性を訴えているなかで、トニが4位、チェカが6位で走り終えているところからすると、サスペンションやタイヤを含めてそのあたりに何かヒントがあるのかもしれないし、そうであるなら、フレーム剛性やヘッドパイプまわりなども見直す必要があるのかもしれません。ただ、見直すといっても、1カ所を変更するとそれでがらりとすべてがよくなるようなことはなかなかなくて、ある部分を動かせば、いいところも出るけど逆に悪い部分もでてきてしまう。そこを、どうバランスさせていくのか。そして、その状態をベースにして、悪くはないけどもっとよくしたい、となったときに、いいバランスを保ったままさらに発展させていく余地があるのかどうか。そういった課題をクリアしてしかなければならないんです。現状のマシンでもコースによっては充分勝てると思いますが、それではチャンピオンは獲れない。どのサーキットでもライバル勢と同等以上のポテンシャルを備えていて、すべてのコースでも優勝を狙うとなれば、そこは当然克服しなければならない。そうじゃないと、チャンピオンにはなれませんからね」

−それにしても、チェカとトニが同じようなフロントのセッティング内容、というのは面白い事実ですね。

「彼らはサテライト体制ですから、アセンブリでモノを交換するというわけにはいきません。そこで、要求の大きかったトニに、あるセッティングのアイデアを実施してみたんです。たまたま時を同じくして、チェカからも同じような要求があったので、こちらにもやってみた。すると、2人ともそこそこのタイムで走れていたという結果ですから、次からはこれを水平展開していこうかな、とも考えています」

−250ccクラスに目を向けると、ドヴィツィオーゾ選手が3位に入り表彰台を獲得しました。

「序盤は先頭を走っていたんですが、だんだんついていけなくなってしまいましたね。チームメートの高橋裕紀君は昨年のケガが完治しておらず、右足裏の感覚が戻っていない状態にもかかわらず決勝を走り切ってランキング5位ですから、すばらしいと思います。今年でスカラシップ2年目の青山周平君も、開幕2戦では思ったような結果を出せなくて、やや焦れているようですが、我々も最大限のサジェスチョンや相談に乗っているので、あせらず着実にいい結果に結びつけていってほしいですね」

−次からの2戦は、トルコ〜中国、とシーズン前にテストをしてないサーキットが続きます。

「両コースとも、距離も長いしストレートも長い高速サーキットです。とすると、今度はエンジンパワーに焦点が当たる展開になってくるかもしれません。特にトルコは、990ccの昨年は表彰台を独占して、マシン的にも相性のいいコースでした。今年も引き続きいい結果を出せるよう、さらにエンジンのポテンシャルアップを狙った準備も進めています。我々の目的は、とりあえず表彰台に上ることではなく、チャンピオンを獲得することです。ライダーたちが100%の力を発揮できるようにどんどん開発を進め、皆さんの期待に一刻も早く応えたいと思っています。次の2戦こそファンの方々に喜んでいただけるように、我々は全力で立ち向かいます。応援をよろしくお願いいたします」

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