HRC総監督・石井勉レポート


 いよいよ、2007年シーズンのMotoGPが幕を開ける。今季から、マシンのエンジン排気量は990ccから800ccへ、燃料タンク容量も22Lから21Lへと縮小される。また、タイヤの使用本数にも制限が加えられるなど、レギュレーションの多くの面で変更が加えられることになった。Hondaは、この新レギュレーションに対応すべく新たに開発したRC212Vで、精力的にプレシーズンテストを行ってきた。3月10日の開幕戦カタールGPを目前に、HRC総監督・石井勉がHonda各チームの仕上がりと今シーズンに向けた抱負を語る。

「昨シーズン終了直後から続けてきたテストで、マシンは常にアップデートしてきました。が、テストを重ねるほどやりたいことも山のように出てくる、というのが実感です。去年までの990ccから排気量が減少しているぶん、パワーもそれに応じて落ちているのは当然の話なんですが、ラップタイムを見ると去年と差がない状態で、場所によっては既に昨年の記録を上回っています。ただ、“パワー”といっても、単純に回転数や馬力があればいいわけではなくて、パワーデリバリーや出力特性、レスポンス、といったエンジンの素性や性格が重要になるのですが、そういったところを踏まえて、これから一年を戦っていくことを考えると、まだ決して完ぺきではありません。ワークスチームのレプソル・ホンダ・チームを見ると、ロングランのアベレージでも一発タイムでも、それなりのところには来ていますが、全体を見ると詰めていかなければならないところはたくさんあります。我々のRC212Vは、エンジンも車体も、全部ゼロからのスタートで設計してきましたから、その分だけやるべきことも多い、ということもいえるかと思います」

−では、レプソルの2人の仕上がりについては、まずまず、といったところでしょうか。

「ニッキーは、新しいマシンに自分の乗り方をアジャストしていっています。乗りやすさという面では、リアのトラクションやフロントの接地感のバランスをもう少し研ぎ澄ませたい、という希望を持っています。彼はチャンピオンを獲ったことで精神的にも成長していて、自分の気になる部分は昨年以上にハッキリとリクエストしてきます。チャンピオンを獲得した自信の表れだと思うんですが、そうやってストレートに表現して言うべきことを明快に言ってくれたほうが、実は我々としてもやりやすいところがあります。それをどう技術的に解決していくか、我々には大きなプレッシャーでもありますが」

−そういえば、先日のIRTAテストでは彼だけが大きいリアのブレーキディスクを採用しているように見えました。

「ニッキーはリアブレーキの使用頻度がもともと高いほうですから、マシンやコースに応じてセッティングの範疇で最適なものを選んでいくということです。開幕戦を控えてスタートの仕様はほぼ固まっているんですが、リアディスクについていえば、彼の場合はケースバイケースですね」

−チームメイトのダニはどうですか?

「彼の順応性はすごいですよ。ステップアップしてきた去年もそうでしたが、マシンのポテンシャルをうまく引き出しながら自分のライディングスタイルに合わせてタイムを出せる器用なライダーですね。そういう彼でもやはり要求はあって、どちらかというと自分の感性に訴える感覚やフィーリングといった部分のプライオリティが高いですね」

−IRTAテスト3日目のタイムアタックでは、すばらしい走りを披露しました。

「ラップタイム自体もそうですが、タイムアタックの段取りまで含めて、まずまずの内容だったと思っています。これから始まるシーズンを考えれば、あれくらいの段取りでソツなく進めることができていれば悪くはない。あのパフォーマンスを見ると、やはり今年もダニはしっかりとトップ争いに絡んでくる、という印象を強くしましたね。そういう意味では、レプソル・ホンダ・チームの2人のライダーはシーズンを通じて当然のように優勝争いをしてくれるものと期待しています」

−去年のテーマだった“強いワークス”ができあがった、と見ていいのでしょうか。

「できつつある、と思います。ただ、まだ少し歯痒い部分もあって、ライダーの要求に対して、技術開発陣がさらにタイムリーに反応できれば、ライダーのモチベーションはもっと上がるだろうし、もっと安定して速くなると思うんですよ。だから、私としては、もう少し開発側にハッパをかけたい、というのが本音ですね。ライダーのモチベーションやスキルは充分に高いので、彼らの要求に対して間髪入れずに応えてあげれば、その結果も間髪入れずに出てくるに違いありません」

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