HondaモータースポーツMotoGPHRC総監督・石井勉レポート
HRC総監督・石井勉レポート


 バルセロナ郊外カタルニアサーキットで開催されたMotoGP第7戦。オープニングラップ1コーナーで発生した多重クラッシュに巻き込まれたマルコ・メランドリ選手は、病院に搬送され、検査の結果、骨折などの重傷は負っていないことが判明。ダニ・ペドロサ選手もこのクラッシュに巻き込まれたがケガはなく、赤旗中断後はスペアマシンで臨んだものの、最後は無念のリタイアを喫した。レースはニッキー・ヘイデン選手が2位に入ってランキングトップを維持、KR211Vのケニー・ロバーツJr.選手が3位に入る大健闘を見せた。250ccでは、アンドレア・ドヴィツィオーゾ選手が念願のクラス初優勝を飾った。

−1周目1コーナーで発生した多重クラッシュが、再開後のレースも含め、この日のMotoGPクラスのすべてを左右してしまいました。

「あのアクシデントは誰かに責任があるようなものでもないし、起こってしまったことは仕方ないと思います。ただ、やはりスタート位置が悪いと、そういう出来事に絡む可能性はどうしても高くなってしまう。だから、まず反省すべきは、なぜ予選で前のグリッドをとれなかったのか、ということ。ダニの場合でいうと、予選最後のタイムアタックでタイミングを逸したことからすべてが始まっている。ピットアウトするタイミングに失敗してクリアラップをとれないと、渋滞に引っかかるし、いいタイムを出せない。結果としてグリッドも後ろの方に下がり、前の方でアクシデントが発生すると自分もそれに巻き込まれてしまう。そして、転倒してスペアマシンに乗り換えざるをえなくなる。すると多少のフィーリングの違いが気になり、結果として転倒する、という一連の流れにつながっていくわけですよ。もとをただせば、前の方のグリッドに並んでいれば状況はまるで違っていたはずです。そんな中でも、ニッキーはなんとか食い下がってくれました。先頭集団が必死に争う中を、ロッシは必要最低限のペースアップで1台ずつかわして行きました。そんな中でもニッキーは、冷静に追撃した。それでもタイヤの温存についてはロッシの方がわずかに上で、終盤はあれ以上のアタックはできませんでした。精一杯やってくれているニッキーに報いることができるように、マシンをさらに良くしなければ、と痛感しています」

−ニッキーに続き、今回はKR211Vのケニー・ロバーツJr.が3位に入りました。この初表彰台は、HRCだけではなくグランプリ界にとって特筆すべき出来事だったのではないでしょうか。

「そうですね。本当にそのとおりだと思います。ケニーはフリープラクティスから非常に安定していて、予選も3番グリッドでしたから、ライダーの技倆に加えて、あのコースと彼らの車体の作り方がマッチしていたということでしょうね」

−開発の方向性が明確になってきた、ということですか。

「実は第4戦の上海あたりで一度、HRCの技術者が提案をしているんですよ。提案といっても、我々が尊重しているのは彼らのオリジナリティだし、彼らもRC211Vのコピーを作ろうとしているわけではないので、『Hondaのエンジンで彼らのフレームや足周りを活かすならこういう方向はどうでしょうか』というアドバイスですが。それを少しずつ具現化させて方向性を見極め、いい方向に進んでいるんでしょうね。彼らのすごいところは、Honda以外に他社のエンジンやフレームなど、多彩な知識を持っていることです。そんな中で、Hondaのエンジンを使うとすると、足りない部分はこれだ、ということが明確になってきたんでしょう。だから、逆に我々は、なぜ彼らのマシンが安定していたのかというところをしっかり考えなければいけないと思います」

−そういう意味では、今回のKR211Vの表彰台は、Hondaにとって一面では厳しい結果とも言えるのではないでしょうか。

「なぜ、あのコースでKR211Vが速かったのか。それを謙虚に考えて分析すればいいんだと思います。どのメーカーにも長所と短所はあります。なぜこのコースはよかったんだろうか、なぜこのコースはだめだったんだろうか。なぜいいところが活かせなかったのか、なぜ悪いところが出てしまったのか。そういったことをひとつひとつ、謙虚に考えていかなければならない。前回もお話ししたように、Hondaの中でライダーたちは切磋琢磨して刺激しあういい関係になっているんですが、チームの面でもチーム・ロバーツの存在は我々にとっていい刺激になりつつある。それは充分に利用すべきだと思います。ライダーの技倆と車がよくマッチしたのか、車の特性とコースがマッチしたのか、いろいろな可能性があると思うので、そこは謙虚に解析したいと思っています。そういう意味では、今回はいろいろと考えさせられることが多いレースでしたね。たとえば、ダニ、ケーシー(・ストーナー)、トニ(・エリアス)と皆転んだ。全員、フロントが切れ込んでいるから、そこにはきっと何かあるはずだと考えなければならない。メーカーによって得意なコースやそうじゃないコースがあるとは思いますが、良くても悪くても、そこには必ず何かヒントがあるわけですから」

−250ccクラスでは、セバスチャン・ポルト選手が引退を発表しましたが…。

「木曜の夕方に記者会見を行いましたが、なぜそういう決断に至ったのかという本当の真相は、結局は本人にしかわからないことだと思います」

−その記者会見では、2週間前に引退を決断した、と言っていました。

「開幕前から、思うように乗れないことに悩んでいたんです。だから、MotoGPクラスでマルコが試したように、昨年の最終仕様、250ccの場合はチャンピオンマシンと乗り比べることもやってみたのですが、それでもしっくりこない様子でした。Hondaと合わないだけなのか、よそにいけば速く走れるのか、それは本人が一番よくわかっていたんだと思います。もうレースから離れたい、という結論を下したわけですから、そこにはどういう思いがあったのか。我々には推し量る以外に術がありません」

−レースに目を向けると、ドヴィツィオーゾ選手の勝ちっぷりは実に見事でした。

「パーフェクトですね。観客の方々にもわかったと思いますが、ブレーキングポイントが他の選手とは全然違っていました。あのレースはアンドレアが完全に支配していた、という印象があります。いいレースでしたね。250ccクラスはタイヤは皆同じだし、マシン差もそれぞれ短所や長所がありながらトータルでの大差はない。そんな中で勝てるのは、やはり頭で考えて、戦略的な駆け引きができているからです。連続表彰台を獲得しながらもずっと勝てない状態の中でがんばってきたアンドレアがついにやってくれたこの結果が、クラスを越えてHonda全体にいい雰囲気を与えてほしいと思いますね」

−次のレース、第8戦の舞台アッセンは前半部分に大きなコース改修が施されています。印象はどうですか。

「レース前に歩いてみましたが、かなり小さく回り込んでますね。しかも、意外と複合コーナーになっている。それが果たしてHonda勢にどう出るのか。どこのメーカーにとっても条件は同じですが、今回はオランダ独特のめまぐるしく変わる天候という要素もあります。それだけに、まったく予測がつかない、というのが正直なところです。ご期待と応援をよろしくお願いします」

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