HondaモータースポーツMotoGPHRC総監督・石井勉レポート
HRC総監督・石井勉レポート


 今年で2回目の開催となったトルコGP。東西文化の要衝イスタンブールを舞台に繰り広げられた戦いは、最終ラップの最終コーナーまでHonda勢4台による手に汗握る攻防が続いた。トップでチェッカーを受けたのは、昨年に続きトルコGP2連勝を飾ったマルコ・メランドリ。2位にケーシー・ストーナー、3位にはニッキー・ヘイデンと、Honda勢が表彰台を独占する快挙を達成した。

「去年初優勝を飾ったサーキットで再び勝つことができて、マルコは精神的にもセッティング的にも吹っ切れたと思います。この勝利は、今後大きな自信に繋がっていくでしょう。序盤2戦で、マシンのフィーリングがどうもしっくり来ないと悩んでいたことも払拭されたと見ていいと思いますね」

−最終ラップ最終セクションのブレーキングでオーバーテイクするという、自分の持ち味を存分に発揮した勝ち方でした。

「その直前まで前を走っていたケーシーは、仕掛けてくるならあそこだろうと読んでいたようだから、マルコのイメージどおりのレース展開ができたという意味でも、かなり復活してきたな、という印象があります。逆にケーシーの立場にしてみれば、冷静に予測をしているし、その場合の対応も考えていたようですが、あれ以上の無理はできなかった。そういうところでは、経験の差があらわれたかもしれないですね」

−レースの醍醐味が満喫できるトップ争いで、本当に最初から最後まで実にスリリングでした。

「おかげさまで、内外からそういう感想をたくさんいただきました。我々も、モータースポーツファンとして見ていれば、きっとすごく楽しかっただろうなという気がします(笑)。若いライダーが活躍してくれてHondaが表彰台を独占するのは喜ばしいことなのですが、でも、やはり本来ならワークスが一番強い存在であるべきですから、正直なところ、ちょっと複雑な心境だし、まだまだ反省の余地もあります。たとえば、ダニ(・ペドロサ)が最終ラップで転んでしまった原因は、ただ単にタイヤを消耗してフロントが切れ込んだというだけではない。ケーシーが前にいたことでいつも以上に闘争心を燃やしてしまったという要因が確かにあったと思う。再スタートして最終的に2ポイントを取りましたが、シーズンを通じてチャンピオンを狙うなら、一戦一戦を無駄にせずいかに上手くポイントを獲得していくか、ということが大事になります。悔しい思いをした本人が、それは一番よくわかっていることなんですが」

−ニッキーも、レース終盤に少し離れてしまいました。ブレーキディスクに何かが張り付くトラブルで充分にコントロールできる状態ではなかったようですが……。

「本人もコメントしているとおり、タイヤを早く温めたいということで、ふだんやらないことをやって失敗してしまった。これは彼らの反省材料です。これまで3位、2位と来て、今回は1位を狙って万全を期してチーム一丸となってやったけれども、結果的にはそういうところでミスが出てしまった。前回のレースでクラッチに少し問題を抱えていたので、今回はそこに改良を加えて上手く行っていたんですが、全然関係ないところが原因で取りこぼしてしまった。それもレースなのでしょうが、痛恨の思いです」

−ただ、ニッキーについては、雨の予選での素晴らしいパフォーマンスも印象的でした。

「誰も走らないような雨の中でも一生懸命走って経験を積み、授業料を払ってきてますからね。去年のままのニッキーなら、今のマシンでも最後はずるずる下がっていたかもしれません。その部分については、かなり成長していますね」

−ニッキーの順応と同時に、雨でも安定して走れるマシンの効果も大きいのでは。

「マシンが変わったから、ということではないと思いますよ。今までと同じことをやっていてもハードがカバーしてくれているということではなくて、ニッキーがその特性に合わせた乗り方に変えてきている。それが結果としていい方向にいった。たとえば、他のライダーが乗ってもああいう結果になるかというと、そうは言えないと思うんですね。やっぱり、彼らはプロですから道具は慣れたものが一番いい。シーズンオフからあのマシンにずっと乗ってきたからこその結果だし、あえて苦手意識を払拭するために雨の中を一生懸命走ってきたというトレーニングの効果も大きい。そういったことが形として出てきたんだと思います」

−ところで、今回のレースでは5位でフィニッシュしたトニ(・エリアス)がファステストを記録しました。

「ファステストは全22周の21周目だから、タンクが軽くなったときのトランスファー(前後の荷重バランス)が彼の感覚に合っているんでしょうね。とはいっても、最初からタンクを空にして走るわけにもいかないから、そこはやはりセッティングだと思うんですよ。車の状態がどういうときに一番速く走れるかわかってきたんだから、あとは『じゃあ、最初からそういう状態を作るためには、どこをどうすればいいのか』を探り出していけばいいということです」

−玉田選手の調子はどうでしょうか。

「大丈夫だと思いますよ。何かヒントをつかめれば、あっという間に立ち直ってくるでしょう。今回の事後テストでフロントタイヤを何本かテストして、しっくり来るものがあったみたいだから、次は期待できると思います。彼の性格や乗り方からすると、いいフロントを見つけたら、あとはそれにあわせて全体をセッティングしていくとかなり気持ちよく乗れると思うんですよ。そういう意味では、今回いいものが見つかったと言ってますから、いい兆候です。彼は日本のファンも多いから、そろそろいいところに来てほしいですね」

−250ccクラスでは、アンドレア・ドヴィツィオーソが開幕から3戦連続表彰台で、ランキングトップに立ちました。

「今回、新しいパーツを入れて、立ち上がりから低中速域のパワー感はかなり改善されました。それでもまだ、パワー感、と言っているので良く聞いてみると、どうやらトップエンドの伸びが足りない、ということのようです。低中速を太らせると上が詰まるし、かといってここ(低中速)を落とすと、上は伸びるけど今度はトルク感がなくなる。そのバランスが2ストロークの難しいところですね。もうひとつ難しいのは、ライダーのマシンへの要求を100パーセント満足させてあげるよりも、ちょっと不満があるくらいのほうがモチベーションが上がるという部分もあると思うんです。そのあたりのマネージメントは、微妙なところですね」

−ところで、今回は青山博一選手が優勝しました。今シーズンからKTMへ移籍しましたが、Hondaスカラシップで2年がんばってきた選手が一人前のグランプリライダーとして活躍しはじめた姿を見て、どんな印象を持ちましたか。

「嬉しいですね。会いに行って握手したかったくらいです。でも、それは博一君が日本人だからというようなことではないと思うんですよ。スカラシップは日本で戦う選手を対象にしていますが、イタリア人でもスペイン人でも同じです。Hondaで育った選手が独り立ちし、よそのチームで活躍して勝つ姿を見るのは、やっぱり嬉しい、いいものですね。でも、そこはレースだから、我々も対抗して勝っていかなければいけないんですが」

−次のレースは上海です。

「土曜まで雨で決勝が晴れ、という予報ですね。でも、いいんじゃないですか。去年は雨のレースで失敗しているから、二度と同じ失敗は繰り返しません。大丈夫ですよ」


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