HondaモータースポーツMotoGPHRC総監督・石井勉レポート
HRC総監督・石井勉レポート


 MotoGP第2戦の舞台はカタール、周囲を砂漠に囲まれたロサイルサーキットで開催された。10月上旬に行われた過去2年のレースでは、40℃にも達する気温や路面を覆う砂といった厳しい環境との戦いも強いられた。今年は比較的涼しい4月の開催で決勝は26℃であったが、そこで繰り広げられた戦いは例年以上に熱く激しいものだった。Honda勢は木曜のフリープラクティスからケーシー・ストーナーがトップタイムをマークしてポールポジションにつき、決勝レースではニッキー・ヘイデンが最後まで優勝を争う息詰まるバトルの末に、開幕戦に引き続き表彰台を獲得した。

「ニッキーはよくがんばってくれました。昨年の終盤からずっと調子が良く、これで6戦連続表彰台です。走り方や精神力も含めて、ずいぶん成長したことを今回は実感できました。途中でパスされるとそのまま離されてしまうことがかってはよくありましたが、今回は最後まで優勝を争うことができました。そういうレースができるようになったのは、気力や精神力が強くなってきたからでしょう。ただ、結果を見るとわかるとおり、それ以上に相手のほうが一枚も二枚も役者が上だった。ああいう負け方が、個人的には一番悔しいですね」

 
 

−ニッキーにとっても、勝てなかったことは非常に悔しかったようです。

「最後まで緊迫した展開が続くのは、モータースポーツファンの方々には面白いレースだったと思うんですよ。でも、一度はトップに立ちながら最後の最後にもう一度パスされて勝たれてしまう展開は、ニッキー本人も当然悔しいし、私たちもやはり悔しさでいっぱいです。ニッキーの成長は素晴らしいと思いますが、今後更に人間とマシン両方のレベルをもっとあげていかなければなりませんね」

−開幕戦でいきなり2位に入ったダニは、今回6位。スタートの失敗が大きく影響してしまったんでしょうか。

「本人も言っているとおり、確かにそれもあります。もうひとつは、前を走っていたマシンの噴いたオイルを主にシールドにかぶってしまったこと。視野が悪くなり、また周りのペースも落ちたため、なかなかペースをあげることができませんでした。そこからの巻き返しで、最後にはマルコ(・メランドリ)と絡み、彼をパスして終わっているんですが、序盤から前に出ていればオイルを浴びることもなかったし、もっと早い段階で自分のペースも上げて行けたでしょう。また、マルコとのバトルにしても、同じHondaだからといって譲ってくれるわけではありませんからね。とはいえ、あれはあれでレースのひとつの形でしょう。終盤にかけて追い上げ続ける展開でチェッカーを受けているので、いいイメージで次のレースにつなぐことができたと思います」

−ダニのひとつ前、5位で終わったケーシーは、飛行機の遅延で初日のフリープラクティス直前にサーキットに滑り込んだにもかかわらず絶好調で、予選でもポールポジション獲得、と今回最も注目を集めたライダーでした。

「とにかく彼に驚かされるのは、いつもぶっつけ本番なのにああいう結果を出してしまう、ところですね(笑)。元気のいいライダーだから、予選のトップタイムはいいとして、あとはレース展開の経験をもう少し積んで学んでいけば、将来的なポテンシャルは充分にあると思います」

−それにしても、いきなりトップタイムを出したのには本当に驚きました。

「コーナリングスピードを稼ぐ250cc独特の乗り方で、上手くマシンを操ってます。直線区間はスロットルを開ければパワーでなんとかなるんですが、コーナーをスムーズに走れると、スムーズに加速して車速を乗せていけるからトータルの速さにもつながっていく。スロットルワークも丁寧で、上手に走らせていますよ。ダニにも言えることですが、250ccのライディングスタイルでも、今年のRC211Vはうまくスピードを乗せていける、ということだと思います」

−しかし一般的には、250cc的な乗り方からもっと加減速のメリハリのきいたスタイルにしないとMotoGPではタイムを出せない、と言われていましたが。

「タイヤも毎年進化して、エッジグリップが向上してきているという要素も大きいと思うんですよ。だとしたら、倒して乗った方がいいのか、できるだけ倒さずに走ったほうがいいのか、それは時と場合によって変わってくるでしょう。ただ、他の陣営で250ccからステップアップしてきたライダーが必ずしもいい結果を出していないところを見ると、マシンとライダーのマッチングという要素も大きいはずです。だから、あとはレース展開をもっと勉強していけば、ダニやケーシーの成績はもっと安定するでしょう。そのためにも、我々はいい資質を持ったライダーと同様に、マシンもどんどん育てて良くしていかなければならないと痛感しています」

−もうひとつ驚いたことといえば、ケニー・ロバーツJrです。フリープラクティス2回目でトップタイムを記録しました。

「たしかにあれは驚異的でしたね。エンジンはHonda製とはいえ、シャシーはチーム・ロバーツのオリジナルですから、HRC開発陣はドキッとしたと思います。逆に、ケニー・ロバーツ・シニアは大喜びで、『いいエンジンをありがとう』とすごく喜んでもらえました」

−エンジンがHonda製ということは、彼らはエンジンマネージメントの面でもHondaのプログラム等を採用しているのですか?

「チーム・ロバーツがHondaエンジンを使用しているといっても、エアクリーナーやダクトの位置等の吸入系はRC211Vと異なるので、例えばFIのマッピングは、こちらから最初のベースとなるものを渡しています。そこから先の各コースに応じた調整は、彼らが独自にやっています。また、何か困ったことがあれば、現場でHRCスタッフが相談に乗れるような体制を取っています」

 
 

−250ccクラスでは、アンドレア・ドヴィツィオーゾが惜しいところで2位に終わりました。

「開幕戦ではあまり元気がありませんでしたが、今回のレースではそれを乗り越えてきました。レースは惜しいところで勝てませんでしたが、トップスピードは相手陣営のほうが伸びていて、アンドレアもその面でややフラストレーションをためていただけに、決勝日に風が強かったのはHondaにとって有利に働いたと思います。また、前回のレースで途中リタイアしたセバスチャン(・ポルト)は今回は05年仕様と06年仕様を乗り比べて、今まで何に違和感を感じているのかを洗い出すことができました」

−日本人選手ふたりはどうですか?

「高橋裕紀君はフロントのセッティングに悩んでいましたね。決勝直前にいいものが見つかったようですが、そこからではもう時間がなかった。青山周平君は、コースに慣れることで精一杯。彼もフロントに問題を抱えていたようですが、レースで勝つためにはコースに慣れながら、同時に短時間でセッティングを詰めていかなくてはならない、ということを認識できたようです」

−第3戦の舞台はイスタンブール。昨年マルコがMotoGP初優勝を挙げたコースです。

「Hondaにとって不得意なコースではないし、カタールよりもトラクションがいいので、タイヤとマシンのいいセッティングを見つければ、速いライダーはさらに速く走れるでしょう。レースは始まってみないとわからないとはいえ、きっといい結果が期待できると思いますよ」

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