HondaモータースポーツMotoGPHRC総監督・石井勉レポート
HRC総監督・石井勉レポート


 13万人を超す大観衆を集めた2006年シーズンの開幕戦。期待の新星、ダニ・ペドロサがMotoGPデビューながらトップ争いをする展開で、ファンを熱狂させた。他のHondaライダーも総じて好調な滑り出しで、2位から6位をHonda勢が独占する結果に終わり、250ccクラスでも若く勢いのいいHonda勢が活躍した。HRC総監督・石井勉が、そんな開幕戦に隠されたインサイドストーリーを、明らかにする。

−今回のレースで最も注目され、話題を集めたのは、MotoGPデビューのダニの2位表彰台でした。

「最初のレースであの順位ですからね。これからも引き続き、がんばってほしいと思います。ただ、レース終盤はフロントタイヤがかなりきつそうでした。あとでマシンをチェックすると、リアはまだ綺麗だったので、今回は無理をせずに2位で終えた、ということでしょう。また、彼は体が小さいこともあって、前を走る選手の後ろについてパスするときに、タービュランス(乱気流)で挙動が乱れる傾向があるようです。だから、できればカウルをもっと小さくしたいという要望が出ています。意のままのライン取りを既にできるようになっているからこそ、そんなリクエストが早速出てくるんでしょうね」

−石井さんの評価では今回の2位という結果は?

「上々ですね。他にも、同じ若手ではケーシー(・ストーナー)がぶっつけ本番で6位という結果を出してくれたことに驚きました。怪我のため、バルセロナとヘレスのIRTAテストを欠場してこの結果ですから、本人が一番驚いているんじゃないですか(笑)。でも、もっと驚いたのはトニ(・エリアス)ですよ。オープニングラップのアクシデントで13番手に沈んだのに、後半はトップ2台と変わらない素晴らしいラップタイムを連発して追い上げ、3位と僅差の4位ですから。最初からノートラブルで走っていれば表彰台を狙えたかもしれませんね」

−そういう意味では、ニッキー(・ヘイデン)にとっては少し辛い展開だったかもしれません。

「そうですね。ニッキーはセッティング面でトラクションに若干の不満を抱えたままレースを迎えてしまったのですが、3位でチェッカーを受けたとはいっても、本人はかなり不本意なようでした。でも、その悔しさを月曜から行った事後テストにぶつけて精力的に走り込み、問題を解消してトップタイムで終えていますから、いい雰囲気で次戦につなげることができたと思っています」

−不本意といえば、マルコ(・メランドリ)の不調が気になります。

「納得できるセッティングが見つからないのか、昨シーズン終盤に連勝したときのフィーリングを取り戻せず、ずっと悩んでいました。05年仕様のほうがフィーリングがいい、と言っていたんです。そんなマルコの気持ちをすっきりさせるため、ファウスト・グレシーニ監督と相談し、私の判断で今回限りの特別措置として、1台だけ05年仕様を用意したんです。このマシンにマルコが乗って、もし06年仕様よりもいいタイムが出るようなら、それは技術陣に課題があるということが判明する。タイムが変わらないのなら、マルコの悩みが解決できる。先のない05年仕様よりも、これからどんどん進化していく06年仕様でセッティングや乗り方を工夫をしていったほうが絶対的に勝てる可能性が高いということを納得できるじゃないですか。05年仕様を一度ひっぱり出すことで、いずれの結果が出るにしても得るものはあると判断したので、今回に限りそのような対応をしました。
 結局、フィーリングがいいと本人が言っていた05年仕様に乗ってみても、06年仕様で走ったときとタイムは変わりませんでした。しかも、トニやケーシーは同じ06年仕様のマシンでガンガンいいタイムを出している。つまり、気持ちの問題が大きいんと言えるんですよ。今回、そこをはっきりさせることができたので、あとはセッティングでちょっとした微妙な味付けを工夫し、納得できるフィーリングに仕上がれば、次のレースからまた切れ味鋭いマルコの走りが復活するはずです」

−あと、MotoGPクラスでは、玉田誠選手も悩んでいるように見えます。

「彼も、フィーリングが左右するところがあったのかもしれません。事後テストでは彼は主にタイヤを中心に取り組んでいたんですが、規定のマイレージを走ったエンジンを交換したとたんにレースでは出せなかった1分41秒台に入った。気持ちの切り替えができれば気持ちのよい走りが戻ってくるはずです」

−250ccクラスはどうでしょう。

「高橋裕紀君がいいですね。予選からずっと順調で、決勝レースでも最後までいい勝負をしましたが、惜しいところで表彰台を逃してしまいました。今シーズンの彼は、去年までの経験を生かして表彰台に絡むレースを繰り広げてくれるに違いありません。チームメイトのアンドレア・ドヴィツィオーゾは、なんとか決勝で持ち直した。彼もメンタル面に左右されていたようですが、シーズンが開幕してようやく切り替わってきたということでしょうね。
 青山周平君も、予選からいい感じできていたんですが、決勝では早々に転んでしまいました。前向きで楽観的な性格だから精神的に引きずらないだろうし、経験を積めば自分自身をコントロールする方法も覚えるでしょうから、今後も臆せず元気のいい走りを期待しています」

−総じて、開幕戦を振り返ると?

「優勝こそ逃してしまいましたが、最初の滑り出しとしては悪くはないです。ただ、もちろん満足はしていませんし、油断もできません。今回の結果はライバル陣営の不調もあったからで、決して安心材料があるわけではありません」

−次のレースはコンディションの厳しいカタールです。

「厳しいレースになるでしょうね。開幕前にたくさんテストをしたチームや、テストチームが乗り込んで自信有りと表明しているチームや、他チームののいい話はたくさん聞こえてきます。しかし、Honda勢もいいですよ。テストでは調子の悪かったヘレスでこれだけの結果を出せたということと、精神的に悩んでいたライダーも開幕戦を終えて気持ちをすっきりさせることができたことがよかった。今は皆が上向きの波に乗っていますから、この調子で進んでいけばきっといい勝負ができるでしょう」

 

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