HondaモータースポーツMotoGPHRC総監督・石井勉レポート
HRC総監督・石井勉レポート


 激動の2006年シーズンを回顧する暇もなく、来年に向けた戦いはすでに始まっている。レギュレーションが新しくなる2007年シーズンを目前に、Honda陣営の各チームは12月のテスト禁止期間直前まで精力的にテストを実施した。マレーシア・セパンサーキット(11月15日〜17日)とスペイン・ヘレスサーキット(11月28日〜30日)の2組に分かれ、2度に渡って行われたテストは、来季に備えたフレッシュな新体制下での初走行となり、それぞれに確かな手応えを感じた内容で一年を締めくくった。

「セパンテストは、1日目が雨でほとんど走行できませんでしたが、残り2日は好天に恵まれて、絶好のテスト日和になりました。テスト後のニッキー(・ヘイデン)のコメントは『もっとパワーがほしい、スピードがほしい』というものだったんですが、そのいわんとする意味は『エンジン出力特性がRC211Vと異なっていたため、改善してほしい』というもの。実際、ヘレステストに参加したライダーたちのコメントも同じような方向で、もっとリニア(直線的)な特性のほうが望ましいということでした。課題は明確になったので、今後はそこを重点的に見直していくつもりです」

−セパンでは、グレシーニのチーム(現フォルトゥナ・ホンダ)がブリヂストンタイヤ(以下BSタイヤ)とRC212Vの組み合わせでの初走行になりました。

「トニ・エリアスですね。特別な違和感もなく好感触の様子でした。それ以上に、彼にとっては新しいマシンが自分にぴったり合った大きさとポジションだったようで、その事実に120%よろこんでいます。確かにコンパクトに作り上げたマシンですから、体格の小さいライダーにはフィットしやすく操作性がいい印象があるのですが、その一方では、大きなライダーはやや窮屈さを感じているようです。(カルロス・)チェカやニッキーは、もう少し自由度が欲しいと言っていますね」

チェカは確かにやや窮屈そうに見えました。トニはコースサイドから見ていても、コーナリングスピードの速さが印象的でした。

「さきにふれた現状の出力特性では、コーナーの進入や脱出時にやや苦労するところがあるのですが、加速タイムで見るとそんなに遅くはないし、コーナーに入ると速いですね」

−ヘレスでは、マルコ(・メランドリ)がBSタイヤで走行しました。マシンとのマッチングはどうだったのでしょうか。

「マシンのセッティングに際し、最初は少し振動が出たようですが、いくつかのタイヤを試して問題は収まり、タイヤの傾向や今のマシンとのマッチングを見ることができました。マルコ自身は、ヘレスでの3日間のテストでサスセッティングなどにもじっくりと取り組んでいます。彼は来季に向けていろんなチャレンジを考えていて、BSタイヤを選択したのもそのひとつです。グレシーニとマルコのチャレンジ精神と志は、チーム同士をもっと刺激させたいという私の考えとも合致します。相変わらずレプソル・ホンダ・チームが強ければ強いほど彼らは燃えるだろうし、BS勢のマルコの調子がすごくよくなれば、今度はニッキーやダニ(・ペドロサ)の刺激にもなる。Honda内での競争が激しくなればなるほど、実は私たちマネージメントサイドが苦しくなるという側面もあるんですが(笑)、そうやって刺激し合い切磋琢磨していくのは、とてもわくわくすることですからね」

−刺激という意味では、中野真矢選手の加入は大きな効果だと思います。彼への期待も非常に大きくふくらんでいます。

「我々も期待していますよ。彼のモチベーションは非常に高く、Hondaと一緒にやりたいという気持がかなり強く、高いモチベーションの持ち主の一人です。仕事の進め方は、性格的に着実にこなしていくタイプじゃないですか。初めてHondaのマシンに乗ったヘレステストでも、ファーストインプレッションは前向きなコメントばかりでした。近くで見ていて、期待がさらに大きくなりましたね」

−ヘレステストいえば、ニッキーがテストを欠席して肩の手術をしました。術後の経過はどんな様子ですか?

「鎖骨に入っているプレートに歪みが出たのと、固定しているボルトが弛みかけていて痛みが時々出る、という話だったので、このオフを利用して手術をすることにしました。当初の診断では、事と次第によっては2カ月程度休養する必要があるかもしれないという話だったのですが、手術も経過も順調で、術後2週間もすればすぐにリハビリを開始できるという状態です。1月のセパンテストには、問題なく参加できるでしょう」

−ニッキーが欠席したそのヘレステストで、3日目についにダニがトップタイムをマークしました。

「ただ、タイムアタックを見ていても、コーナー進入でマシンが落ち着かなかったり、立ち上がりでスムーズじゃなかったり、ライダーはまだまだいけるのに現状のマシンバランスではこれが限界かな、というところが散見されました。だから、全体の完成度はまだまだ足りないという印象があります。最初にもいった、エンジン出力特性を改良するという部分はかなり明確になってきましたが、バイクは全体のバランスが重要な乗り物なので、そこを変えると今度は剛性バランスやジオメトリーが変わってくる可能性もある。我々は技術者だから、充分に予測をして対応しますが、中には実際に走ってみないと明らかになってこないこともありますからね。とはいえ、最初に手をつけなければならないのはエンジン出力特性なので、その意味では問題点は明確になっています」

−ということは、1月のテスト開始までに課題は山積みですね。

「世間ではクリスマスも正月もあるんですけどね(笑)。でも、この2回のテストでいい洗い出しができたと思います。開発もレースの内ですから、スタートがよければその分だけ先にいける。課題が明確になったらあとは限られた時間の中でどんどんやるしかない。今年も最後までしっかりとやりきったんだから、来年に向けても、必ずできると思います。来シーズンから800ccになることで気持ち的にも物理的にもリセットされるから、ある意味ではむしろ今年よりもやりやすいかもしれない。振り返ってみると今年は非常にエキサイティングなシーズンでしたが、これでMotoGPやHondaファンが増えてくれていたのならうれしいですね。そうなると来年はもっとやりがいがあるし、期待もできますからね」

★MotoGPファンの皆さんへ、来シーズンも力強い応援をよろしくお願いいたします。改めて今シーズンは多くの暖かい応援、ありがとうございました。最高の結果が得られました。そして、皆さんよいクリスマスと新年をお迎えください。来年も頑張ります!

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