HondaモータースポーツMotoGPHRC総監督・石井勉レポート
HRC総監督・石井勉レポート


 波瀾万丈の展開が続いた2006年シーズン。し烈を極めたチャンピオン争いの決着は、最終戦までもつれ込んだ。緊迫感が最高潮に達した決勝日、サーキットに押し寄せた12万9446人の観客が見守る中、2列目5番グリッドからスタートしたニッキー・ヘイデンは、終始安定した走りで3位表彰台を獲得し、ライダーズタイトルを獲得した。チームメートのダニ・ペドロサも4位でフィニッシュし、ランキング5位につけた。

「今年も苦しい一年でしたが、ようやく結果を出すことができました。ずっと応援してくださったファンの皆様や、我々を信じてサポートしてくれたスポンサーの方々、そして、支えてくれた内外の関係者全員の気持ちがライダーに伝わった結果だと思います。本当にありがとうございました」

−前評判では、ポイントランキングで逆転されたHondaは不利、という見方が圧倒的に強かったようです。

「最終戦のワンチャンスしかないところで逆転してトップが入れ替わったわけですから、気持ちの余裕や勢いという意味では、確かにライバルに分があったと思います。しかし、前戦で発生した不幸なアクシデントが逆にバネになって、レプソル・ホンダ・チームだけではなく、Hondaライダー全員が状況を理解して自発的に結束し、皆が精一杯、前へ前へと走ってくれました。レース直前には、ニッキーとダニがそれぞれのチームメカニックを入れて4人で自発的に話をし、握手を交わしてピットから出て行きました。こちらから彼らに対して何も指示を出していないので、彼らがどんなことを話しあったのかは、わかりません。私たちは、自分たちにできることをすべてやってレースに備えました。今回のレースでは、万全を期して、ニッキーのエンジンに通常よりもプラス500回転余裕のある仕様を入れています。朝のウオームアップでは決勝用タイヤの準備をし、『Hondaの7台が1位から7位を独占するつもりで、全員でがんばれば必ずチャンスは来る。そのつもりでがんばりましょう』と声をかけ、いつものように着々と準備を進めていきました。そして、決勝レースでチャンピオンを獲得できたのですから、本当にうれしいです」

−前戦でアクシデントがあった後、チームオーダーを出さないHondaの姿勢に対して批判的な意見もありました。

「いろんな考え方があって当然です。でも、我々には信念がある。人間はそんなに強いものではないから、惑わされそうになることもあるかもしれませんが、そんなときに判断基準になるのが、今まで継承されてきた揺るぎない理念で、最後はそこにたち戻ってくるんです」

−ライダー、コンストラクター、チームという3つのタイトルを、今年は全部奪還しました。去年と今年の大きな違いはどこにあったのでしょうか。

「ご存じの通り、今シーズンは2種類のハードを用意しました。ダニには初年度で、新しいモノを多く望む性格ではないこともあって、現行マシンのポテンシャルを充分に引き出す方向で進みました。4年目のニッキーは、新しい目標に挑戦したいという本人の意志を尊重したので、ふたりのハードを分けてでもその方向で進もうと決めました。その意味で、ハード的な大きな変更についてはニッキーのマシンに一極集中できた、という側面があります。また、私自身については、総監督就任1年目の昨年に諸問題を抽出・検証し、今年につなげることができたとも思っています」

−「強いワークスチームの復活」が今年のテーマでしたが、今シーズンを経て、それはどの程度達成できたでしょうか。

「初年度に問題を抽出し、2年目にそれを解決する。そして3年目で目標を達成する、という一般的な3年計画で考えるなら、当初に想定していたものより20〜30パーセント程度、いい方向に進んでいると思います。今年はニッキーでチャンピオンを獲得できました。来年はそのニッキーと、今シーズン初頭からいい成績を出していたダニとの間でチャンピオン争いができれば、強いレプソルが戻ってきた、と胸を張って言うことができると思います。ただ、来シーズンはすべてがブランニューの年。マシンが800ccに変わるので、そう簡単にはいかないでしょうね」

−ブランニューといえば、レース後の月曜には正式にRC212Vが発表になりました。

「事後テストでは、ワークスチームのふたりが正式に乗っています。ダニは日本GPの事後でも乗っているので今回が2回目のテストですが、自分のライディングパターンにフィットするようでかなり気に入っていますね。990ccにステップアップしてきた当初も、パワーを抑える方向で乗った方がタイムが出ていたくらいで、パワースライドというよりもトラクションさせて走る乗り方ですから、ダニにはかなりとっつきやすいのではないでしょうか。ニッキーも、見た目がかっこいいし旋回性能も今よりいい、というコメントで、やはり気に入っている様子です。ニューマシンはRC211Vと比べて小さいという声もよく聞きますが、じつはホイールベースは同じなんですよ。特にシートカウルが小さいから全体的にコンパクトに見えるんでしょうが、300km/hを出すマシンですから、タイヤ径やホイールベースが極端に小さくなるようなことはないんです。現に、ラップタイムも990ccとほとんど同じところまで来ています。ストレートでは、バレンシアの場合、RC211Vが320km/hほど出ているのに対してRC212Vは300km/hそこそこですから、その分、コーナリングスピードで稼ぐような乗り方になる、ということですね」

−来年のチーム体制も、大枠が発表になりました。

「来シーズンも今年と同じく、ポテンシャルのある若いライダーにどんどん力を発揮してもらいたいという基本路線に変わりはありません。ですが、新しいマシンで1年目を戦っていくには、経験豊富な選手の力も必要になるんです。その意味で、来シーズンに加入するカルロス・チェカ選手や中野真矢選手は、我々にとって非常に心強い戦力です。両選手から、Hondaと一緒に戦うんだという高いモチベーションが伝わってきます。一方、新たなチャレンジと夢に向かって挑戦を開始した玉田誠選手とケーシー・ストーナー選手ですが、来年からは我々のライバルになります。お互いに正々堂々と、全力を尽くして戦いたいと思います」

−250ccクラスでは、青山周平選手がランキング8位で1年を終え、高橋裕紀選手は2度の優勝でランキング6位でした。

「周平君は、1年目の成績としては悪くないと思います。彼のレポートを見ていても、何が失敗でそれに対して何をすればいいか、と自分で理解や整理ができているので、2年目の来年は期待できるでしょう。裕紀君は最終戦のフリー走行で骨折してしまいました。スタッフが何人か交替で見舞いに行きましたが、医師の腕がよかったこともあり、思った以上に元気で安心しました。来季の開幕には間に合うでしょうし、彼は性格も明るいから、引き続き期待しています。このシーズンオフはじっくりと治療に専念してほしいですね。

 最終戦終了後に800ccのテストを実施し、来シーズンに向けた戦いはすでに始まっています。我々は興奮している余裕もない状態ですが、ファンの皆様や内外関係者の今年1年の応援には本当に感謝しています。来シーズンも引き続き応援していただけるよう、これからも全力を尽くします」

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