HondaモータースポーツMotoGPHRC総監督・石井勉レポート
HRC総監督・石井勉レポート


−波乱が続いた2レースを経て、三連戦の締めくくり、ホームグランプリのツインリンクもてぎに帰ってきました。

「ダニの怪我の状態などもあり、なかなか難しい状況でしたね。HRC総監督という私の立場からいうと、Honda全体として考えたときに、元気のいい選手にさらにがんばってほしいという気持ちがありました。だから、マルコ・メランドリに新パーツを投入しました」

−それは、マルコがフィリップで優勝した事実を踏まえた対応ですか?

「そうではなくて、ブルノのレースが終わったときに、彼自身が私のところに来たんですよ。『明らかに、ワークスマシンと僕のマシンには違うところがある』、そう言って、ある制御関係のパーツを自分にも与えてくれたらもっと活躍できる、と直訴に来たんです。『それを与えてもらうのは難しいことなのか、それとも不可能なのか』と訊ねてきた。ハード的には、確かにECU(エンジンコントロールユニット)を渡せと言われれば渡せるんですが、そのためにはプログラミングが要るわけです。そこにずっと張り付いている超スペシャリストが、ワークスチーム、プラスアルファでもうひとり必要になる。でも、そんな専門家は限られているから、余ってなどいない。私はできない約束はしたくないから、『マルコ、申し訳ないけど、それは不可能のほうなんだ』と言って説明をしました。でも、実は裏では開発陣に対して、『何とかできるようにしてやってくれないか』と対応を依頼していたんです。で、できるという見通しが立ったから、もてぎの前にマルコに対して『対応できるめどが立ったので投入しましょう、もてぎ以後のレースでも対応していきましょう』という話をした、というわけです」

−もてぎでは、ニッキーの二年契約更改も発表になりました。

「ニッキーのサインが、もてぎのレースと重なるタイミングになるとは予測していませんでしたが、レース後には800ccマシンのテストも控えていたので、その前には契約を完了させておきたいとは思っていました。でも、契約を更改しても、雨のために800ccには乗れなかったという事実もあるんですが(笑)。月曜からのテストは、二回続けて失敗したスタートのクリアが大きな課題でしたので、そちらを優先し、最後に800ccに乗るというメニューを組んでいたんですが、雨が降ってきてしまい、結局乗れなかった。ダニはああいう足の状態なので早めに800ccの確認を済ませ、特に大きな課題がなければ休養する、とまったく逆のカリキュラムを組んでいました」

−一般公開、シェイクダウンとしてまずは上々、というところでしょうか?

「自陣営だけを考えればそうかもしれませんが、ライバル勢もいますからね。それを見ればまだまだやるべきことは山積みです。今回、我々が一番確認したかったのは、マシン全体の方向性が来年の800ccのレースに適するのか適さないのか、方向性が間違っているなら早く修正しないといけない、というところだったんです。方向性が間違っていないことは確認できたので、最初の目標は達成しました。あとは、全体の動力性能含めて課題ははっきりしている。それをシーズンオフに向かってやっていけばいい、ということですね」

−あと、もうひとつの話題として、Hondaのコンストラクターズタイトルが決定しました。

「我々が目指してきたのはライダータイトルだし、その目標は達成しなければならない。そのためには何をしないといけないか、ということに、皆が一所懸命取り組んでいます。私自身にも、強いワークスチームを作り上げたいという希望がありますし、最終目標はやはりライダータイトルです。そこを目標にしている限り、コンストラクターズは当然ついてくるものだと思います。だからこそ、Repsol Honda Teamは圧倒的に強いワークスチームであるべきだし、ポテンシャルのある若いライダーたちから『絶対にあそこのマシンに乗りたい』と思ってもらえるチームを作るために、日々、取り組んでいるんです」

−そのライダータイトルに向けて、残りは2 戦。ポイントも僅差です。

「勝った選手がチャンピオン、というような点差ですね。ニッキーは契約も落ち着いたことだし、プロの一流ライダーとして吹っ切れた走りを見せてくれるでしょう。マシン面でも、クラッチという課題は明確なんだから、そこを徹底的にやっていきます。ダニのコンディションについては、次のエストリルには全然心配ない、ということでした。また、マルコも残りの2戦に向けて、相当な気合いが入ってると思いますよ。彼もまた、チャンピオンが射程圏内に入ってきたわけだし、念願のニューパーツも手に入れたわけですから。彼らがどんなレースをしてくれるのか、楽しみですね」

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