HondaモータースポーツMotoGPHRC総監督・石井勉レポート
HRC総監督・石井勉レポート


 いよいよ目前に迫ったMotoGP第15戦日本GP。順位が二転三転する激しいバトルの続く今シーズンは、ツインリンクもてぎで佳境に入ろうとしている。チャンピオンシップにとって文字どおり天王山となる9月24日の決勝を前に、HRC総監督石井勉と、Repsol Honda Team監督田中誠が、今季のここまでの戦いを振り返るとともに、日本GPに向けた意気込みを語る。

−今シーズンここまでの展開を振り返ると、まずは順調に進んできたといってもいいのでしょうか。

田中「開幕戦は、(ロリス・)カピロッシ選手に負けてしまったのは悔しかったけれど、ダニ(・ペドロサ)が早くも2位に入ってくれて驚きました。やってくれるだろうと予想はしていましたけどね。また、ダニの上海GPでの初優勝は圧倒的な差をつけた誇らしい勝利で、Hondaとして胸を張ることのできるレースだったと思います。一方、ニッキー(・ヘイデン)も連続表彰台でほかのチームにプレッシャーをかけ続けたので、レースをこなせばこなすほど、レプソルが戦闘的なチームになってきたという手応えがありました。ニッキーに多くの新しいものを投入し、ここ3年の中ではありえなかったフル体制で戦っています。ニッキーの地元のアメリカGPでは完ぺきなレース運びで去年に引き続き2連勝を決め、しかもHondaが1−2−3フィニッシュ。我々のやってきたことは間違いじゃなかったんだ、と証明しつつあると思っています。じゃあ順調に進んできたのかというと、決してそんなことはない。楽に勝てたことなど一度もありませんから」

石井「田中監督の言うとおり、決して安泰ではなかったし、これからも安泰ではないと思います。ただ、総監督の立場から違った視点で言うと、今シーズンはうれしい誤算がいくつかありました。ひとつは若手ライダー。今年は将来を見据えて若手中心のラインナップを組んだのですが、彼らがフルに実力を発揮するまでには2、3年くらいはかかるだろうと予想していたのに、意外や意外、早速頭角を現してきていますよね。ダニしかり、ケーシー(・ストーナー)しかり。私の一番の目的は、同じHondaファミリーの中でもワークスチームであるRepsol Honda Teamをものすごく強い、憧れの存在にしたい、ということ。他チームのライダーにHondaのワークスに乗りたいと思われるようなチームにしたいし、全員が自信を持ってやっていきたいんです。そのためにどういうことをやればいいのかと考えてきたのですが、ライダーもチームもHRCもいい感じで刺激しあいながらいい結果が出ています。ただ、それは決して楽して出た結果じゃない。ライダーたちも精いっぱい、開発サイドも必死に取り組んでいるという状況です。あと、レースを見ているファンの方々の立場からすると、今年はものすごく面白いレースになっている、ということも、ある意味では誤算といえるかもしれません。私たちはそれを意図してラインナップをそろえたわけでもないんですが、結果的にいい組み合わせになって刺激しあっている、というところはありますね」

田中「確かにそうですね。例えば家かグランドスタンドで一ロードレースファンとして観戦することができたらもっと楽しいだろうなというレースが、今年はいっぱいありますね。特に逆転に次ぐ逆転の展開でニッキーが優勝したオランダGPなんて、『やった!』『あ、また抜かれた』と、思わず手を握るというか。それに、今年はライダー同士がフェアに戦っているじゃないですか。そういうところは非常にうれしく思います。自分はいいときに現場にいるな、とつくづく感じますね。もてぎを含め、残りの3戦でもシビアな展開はあると思いますが」

石井「話していくうちに、だんだん今年の特徴が見えてきました。いわゆる『パッケージ』なんですね。ライダーとマシンの組み合わせや、マシンとタイヤの組み合わせが重要なことはいうまでもありません。同じチーム内でもチームメイトが誰かという組み合わせも重要です。また、チームの『パッケージ』という意味では、ライダーだけではなくてそこにまつわるチーメカやスタッフも重要で、あともうひとつ、そこにいる監督、マネージメントする人も『パッケージ』には重要な要素になる。自分でいうのも口幅ったいですが、去年から組んでいる私と田中監督は、過去Hondaが圧倒的に強かった頃の総監督や監督とはかなり違っていて、みなの主体性や意見を尊重しながらコントロールしていくタイプだと思っているんです。意見の相違はあってもそれを『違い』ではなく『スタイル』ととらえています。その我々を含めた『パッケージ』、という意味では、チーフ・クルーのアルベルト・プーチが連れてきたスタッフの存在は非常に刺激になっていますね。これはHRCのスタッフに対してもそうです」

田中「プーチの話はシンプル。無理な事を言わないし、HRCの私たちの立場もよくわかってくれている。むしろ逆に、ああ、ありがたいなと思いますよ。現場でてきぱきと判断して決めていくことがいかに重要かということを再認識させられる事は多いですね」

石井「彼のやりかたや考え方を見てると、レースってもともとシンプルなものなんだ、ということをなんとなく思い出させてくれる。たとえばうまく物事が進まないときはいろんな人の思いや意見をまとめるのが大変なんですが、彼には迷いがないから、スパッと核心をついてくる。それはスタッフみんなにも刺激になっていると思います。戦績や、ライダー、プーチの存在などもあって、今年はピット内の雰囲気と緊張感が違うんです」

−ここまでの経緯を踏まえ、日本GPとシーズン終盤への展望をお願いします。

石井「最初にも言いましたが、安心材料はないですよ。タイヤ面でもライバル勢のアベレージは上がってきているし、昨年のチャンピオンチームのパッケージもリカバリーは早いから、まだまだ安心できない。我々は、取りこぼしは絶対にできない、という思いでいます」

田中「ここから先の戦いは、ある意味で神経戦になっていきます。ニッキーはまだノンタイトルのチャレンジャーだということを忘れず、挑戦していく気持ちで向かっていくことが大切です。彼にはワークスライダーの自負があるし、今年はチャンピオンを獲るチャンスだとわかってるから、いい意味での欲が出ていますよ。自信を持ってもてぎでもいいレースができるでしょう。ダニは走れば走るほど習熟しています。今まさにミシュランタイヤやマシンを理解してきて、乗れている状態ですよね。セパンでケガをしたのは少しハンデでしょうが、もてぎでは願わくばこのふたりがいい戦いをしていい結果を残し、強いHondaを見せたいです。その意味では、マレーシア−オーストラリア−日本、と続くこの3連戦はまさに天王山です」

石井「ダニは精神面でも自信をつけてきてモチベーションも最高だから、このままの流れで大丈夫でしょう。ニッキーは、今が一番アドレナリンが出ている状態です。彼はチャレンジが大好きだから、目の前のビッグチャンスに燃えないはずがない。それをダニがよく刺激して、ぜひともレプソルのワン・ツー・フィニッシュで決めてほしいですね」

田中「そうですね。あとはそのふたりに絡んでくるのが玉田選手なら最高です。やはり日本GPでは日本人ライダーにがんばって欲しいですから」

石井「一昨年優勝、昨年3位という今までの実績を考えれば、十分に可能性はあるでしょう。日本は、彼にとって特別なレースだと思いますよ」

田中「日本という特別な場所でのレース、というのは私たちにとっても同じです。どの日本のメーカーも勝ちたいと思っているでしょうが、それは我々も一緒。ここは絶対に勝って大きくアピールしたい。一年のここまでの結果をリセットして、もてぎから新たにシーズンがスタートするというくらいの気持ちで臨みたいですね」

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