Honda 〉モータースポーツ 〉MotoGP 〉HRC総監督・石井勉レポート |
![]() ![]() |
「ダニの3位は、順位からすれば悔しい結果ですが、レース展開からすると本人もかなり自信を持てた内容だったと思います。終了直後こそかなり悔しがっていましたが、チームの反省会が終わってから、私が『素晴らしいレースだった。いいところを見せてくれてありがとう』と話しかけると、彼は満面の笑顔を浮かべていました。かなり手応えをつかんだんだと思いますよ。チームも、『絶対に来年は前を走らせない』という勢いで結束していました。『来年といわず、次のレースからでもいいよ』と私は言ったんですけどね(笑)。ただ、全体の展開や優勝した選手を見ると、タイヤとマシンのマッチングがいかに重要か、ということがはっきりと現れた内容のレースでした。その意味では、ニッキーが非常に対照的な結果になってしまいました」 −ニッキーは右側をしきりに気にしていたようですが、右コーナーの乗り方かタイヤの右側に問題を抱えていたんでしょうか。 「確かにニッキーが気にしていたのは、右側ですね。前日までにロングランをかけて確認をとったタイヤで決勝に臨んでいますから、あそこまで急激な落ち方はないと思っていたのですが、蓋を開けてみるとああいう結果になってしまった。全体を通しても、7ラップ目からトラクションが落ちてきて、最後の5ラップはもうほとんどグリップしなかった、と言っています」 −その原因は? 「いろんなファクターが考えられるので、現在はそれを究明している最中です。最初の7ラップあたりまでは非常によかったのに、そこからトラクションが急激に落ちてきた、というコメントは全体的に多く、例えばマルコ(・メランドリ)は一番の敗因はタイヤのトラクションと言っています。ケーシー(・ストーナー)も同じで、スピニングが多くてトラクションしなかった、と言っていました。そのような事象が序盤から起こっていたのなら、タイヤにもきついだろうしタイムも出ないでしょう。これは単純にタイヤの問題というわけではなくて、セッティングや、あるいは条件が変わってきつい乗り方になり、最後にそういう状態になってしまった、ということも考えられるでしょう」 −彼らがバトルをしていた4番手グループでいうと、ケニー(・ロバーツJr.)がトップでフィニッシュし、2戦連続で4位に入りました。 「前にも言いましたが、本人がとても気に入っているフレームが1本あるんですよ。だから、多少コースが変わったり、条件が変わっても、結局はそのとき持ってきた新しいものよりも自分が気に入ったフレームに戻って、それでタイムも出る。実は、彼だけはセッティングの範疇で減速制御を少しいじってるんです。この制御だと他のライダーは違和感を感じるようだから、彼に特異の減速フィーリングなんでしょうね。いずれにせよ、このケニーのがんばりは、他ライダーと開発技術陣の両方に対して、うまい具合に刺激になっている。目の前に彼の実績という題材があるわけですから、それをしっかりと認めて自分たちはどうすればいいかを考えれば、ものすごいヒントになるはずなんです。目の前にそういうものがあって、何もしない手はない」 −250ccクラスは、アンドレア・ドヴィツィオーゾ選手が2位、青山周平選手が6位でした。 「周平君は、序盤にペースが上がりにくいという課題が相変わらずありますが、彼自身もこの問題には努力して取り組んでいます。事後テストでも積極的にそこをやっていたんじゃないかな。チーフ・クルーのアルベルト・プーチからアドバイスを受け、さらにそれを実践しながらきっかけを掴んでほしい。頭で考えているだけでは難しいでしょうが、周平君は自分でしっかり認識しながら取り組んでいるので、早く克服してほしいところですね」 −チャンピオン争いでは、ドヴィツィオーゾ選手がトップと7ポイント差です。 「アンドレア自身が『まだまだ諦めてはいない』と言っているから、勝負はこれからでしょう。ただ、彼は少しナーバスなところがあるので、精神力をもう少し鍛えてほしいという希望はあります。いつも安定して表彰台に乗っていても、だからといって必ずしもそれだけでチャンピオンになれるわけではありませんからね。やはり、得意なコースは絶対に落とさないという戦略を練り、自分でレースを組み立ててコントロールしていかなければならない。ハードでかなわないのなら自分の力でなんとかするしかない、という強さを持ってほしいんです。現に、そうやって勝ってきたダニというチャンピオンライダーのお手本があるわけですから」 −さて、月曜からの事後テストですが、ニッキーは新しいフレームにトライしたのですか。 「ドニントンで使おうとしたフレームを、今回は徹底的にやりました。完ぺきではありませんが、いいところも多く、ネガティブな部分もリカバーできそうなので、期待できそうだなという感触です。また、タイヤについては、レースで発生したことの検証を最初に行いました。ダニは、タイヤテストを中心に取り組んで月曜中で終了しました」 −ダニは、シーズン初頭に3つのリクエストがあってそこに絞っているという話でしたが、それは今でも変わらない? 「同じです。マシン面で彼らの求めているものが3つあり、それには対応しています。もし、ダニがチャンピオン争いに絡んでいないなら、来年のためのテストもいろいろとできたのかもしれませんが、既にシーズンの早い段階からチャンピオン争いに絡んでいるので、最初の方針は変えていません。今の戦況を考えるとレースに集中したい、というのがチーム側の考えです。そのほうがモチベーションも高まるし、結果にもつながるでしょうから。あるいは、よほど画期的なパーツがあって、それを使えば実戦でも格段によくなる、というものがあれば使うかもしれません。ですが、たとえ格段によくなるとしても、それはライダーの乗り方やコース、状況に合わせたセッティングを煮詰めていかなければモノにならない。そんなふうに煮詰めていく時間の余裕があるのか、あるいは今の状態で集中したほうがいいのか。それを天秤にかけると、新しいものがきてセッティングに時間を費やすよりは、今あるものに集中したほうがいい、という考え方なんです」 −次戦からはいよいよシーズンの大詰め、マレーシアGP−オーストラリアGP−日本GPと続く3週連続開催です。 「ライバル陣営はいずれも調子を上げてきており、いずれもトップ争いに絡んでくると考えられます。当然ながら、我々は絶対に前を譲らないつもりでここから先のレースに臨みます。今後も開発の手は緩めません。さっきも言ったとおり、フレームはかなり期待できそうです。次のセパンは、ぜひともそれを実証するレースにしたいですね」
|
![]() |
Honda 〉モータースポーツ 〉MotoGP 〉HRC総監督・石井勉レポート |