HondaモータースポーツMotoGPHRC総監督・石井勉レポート
HRC総監督・石井勉レポート


 今年で29回目の開催となった「鈴鹿8耐」、FIM2006世界耐久選手権シリーズ第5戦“コカ・コーラ”鈴鹿8時間耐久ロードレースは、今年は7万3000人という大観衆を集めた。Honda陣営にとっては10連覇がかかった今年の8耐で、「#11 セブンスター ホンダ 11」(岡田忠之選手/出口修選手)が4位、「#7 セブンスター ホンダ 7」(清成龍一選手/玉田誠選手)も序盤のトラブルをくぐり抜け5位に入る健闘を見せた。レースは、「#778 F.C.C. TSR ZIP-FM Racing Team」(辻村猛選手/伊藤真一選手)が初優勝を遂げ、Honda陣営の10連覇を飾った。

−レース序盤には清成選手が予定外のピットインをせざるをえなかったトラブルにも見舞われてしまいました。

「あそこで起こった事象が想定内だったか想定外だったかという話で行くと、まず、フロントからのジャダ(異常振動)で清成選手がピットに入ってきたこと自体は想定外の出来事です。なぜそれが起こったのかということをレースを進めながら究明していきました。まずタイヤだけ変えてみたけれども、改善はされなかった。次にブレーキディスクを交換すると、よくなった。それは、タイヤの交換とあいまって、全体のバランスとしてかなりよくなってきたということが考えられます。
 岡田/出口組の11号車にしても、午後3時までの時間帯は思ったほど加速せず、車速が乗りませんでした。ただ、3時を過ぎて路面温度が落ちてきたら、同じライダーとマシンのパッケージで最高のパフォーマンスを出せたので、ポテンシャルはあったということ。温度を予測し、セッティングさえ決めていれば、温度が上がろうが下がろうが、いい走りができたということです。それができなかったから、負けた。レースのプロ集団が集まってそこまで予測できなかったのは、テストのやりかたがまずかったのか、それとも判断が甘かったのか、いろいろなことが考えられるでしょう。
 勝った場合には、『総合力』と周りは評価してくれます。じゃあ『総合力』って具体的に何なのか、と考えると、私にもはっきり言えませんが、今回は負けたわけだから、総合力は発揮できなかったということ。その総合力の中の何が足らなかったのかを分解していくと、勝つためには必要だったのにやりきれてなかったこと、というものがいくつもあるんです」

−「勝つためには必要だったのにやりきれてなかったこと」というのは、具体的にはどういうことですか?

「単純に事象だけ捉えるのではなく、ソフトとハードの両面から検討していって、来年にもう一度、優勝という目標を掲げたときに、本当に必要なものは何と何なのか、その達成度をどこまで持っていけば目標に届くのか、ということをもう一回洗い直さなければいけない。その反省会を今、やっている最中です」

−決勝日のレース後には、5位になったということは少なくとも4つ足りないことがある、と言ってましたが……。

「足りない分だけ順位が下がってるんです。あと4つ達成していれば目標設定にちゃんと届いていたはずなのに、それが何なのかを究明してやり直さないと、また来年も同じ結果に終わってしまう、ということです。事象を全部捉えてみれば、想定外だなんていえるものは何もなかったと思っています。予測していればよかった、テストしていればよかったんですから。総監督としては、いいスタッフといいライダーに恵まれ、ライバル陣営と比べても最高のラインナップがそろっていたのに結果が出せなかったのは、我々マネジメント側の責任だと考えています」

−結果はともかくとして、清成選手の速さは今回のレースで非常に強い印象を残しました。

「清成選手に点数をつけるなら何点ですか、と8耐の現場で訊ねられたことがあったんですが、ほとんど百点満点に近い、少なくとも90点以上でしょうね、と答えました。
 彼が技も心もマシンもタイヤも非常に厳しい環境のBSB(イギリススーパーバイク選手権)に参戦し、自分自身を開発しながら、戦ってきた成果です。
 そんな最高のライダーが8耐に来ていたのに、そのポテンシャルをなぜ100パーセント、いや120パーセント出してあげることができなかったんだろうと思います。
 玉田選手も、ケガを抱えた体なのに痛み止めも打たず、強靱な精神力で最後まで走りきりました。そんなライダーたちの組み合わせなら勝てて当たり前だと思うけれども、取りこぼしてしまった」

−最後に、F.C.C.TSR ZIP-FM Racing Team(#778)の優勝については、どういう印象ですか。

「19年目の挑戦で獲得した優勝だそうですね。ポテンシャルはもともとあるチームですから、監督のマネジメントの賜物だと思います。レースの中でどこかに取りこぼしがあると、順位は絶対に下がります。これはワークスチームであろうがプライベートチームであろうが変わりません。そこをひとつのとりこぼしもなくやりきったのだと思います。4耐も8耐も優勝ですから、チーム状態もマネジメントもすごくよくて、それがうまく噛みあっていたんですね。単純に総合力というひとことでは表現したくなくて、ひとつひとつ積み上げてきて完ぺきにした、というイメージがあります。勝利に対するこだわりはどのチームも同じだから、明確な目標を掲げてやるべきことをやりきれば、結果はついてくるんだな、という印象を持ちました。

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