HondaモータースポーツMotoGPHRC総監督・石井勉レポート
HRC総監督・石井勉レポート


 昨年からカレンダーに復活したアメリカGP。カリフォルニア州モントレー郊外のラグナセカサーキットには3日間総計で14万5000人の観客が押し寄せ、早くもWGP人気が定着しつつある様子を実感させた。決勝レースは地元ライダーのニッキー・ヘイデンが圧倒的な強さを披露して昨年に続くラグナセカ2連勝を飾った。2位にはダニ・ペドロサ、3位にマルコ・メランドリが入り、レプソル・ホンダ・チームの1−2フィニッシュ、Honda勢表彰台独占となった。

 「終わってみるとうれしい結果でしたが、レースが始まる前は、正直なところ『一体誰が生き残るんだろう』という状態でした。改修したコースの状態もあまりいい感じではなく、しかも路面温度が60℃近くに達する過酷なコンディションだったので、タイヤ選択の幅も限定されていました。しかも、あのコースにはフロントローに並ばないと勝てないというジンクスもある。一体どうなってしまうんだろう、という状況の中で、そのフロントローに並んだケニー・ロバーツJr.が、冗談で『5周減らしてくれないかな』と言っていたくらいですから(笑)。確かにリザルトを見てみると、ラスト5周でマシントラブルが発生したりタイムが落ちていった選手は多かったですね。だから、ケニーの言ったように5周減らしていれば、もっと混戦になっていたかもしれません」

−そのケニーですが、ここ数戦の安定ぶりは見事ですね。今回も予選3番手で4位フィニッシュでした。

「今のマシンのバランスが、相当気に入ってるようですね。結構頻ぱんに新しいフレームを持ってきているのですが、本人が気に入っている一本があって、新しいものを試しても、結局今のところずっとそれを使っています」

−一方、ニッキーは予選6番手。セットアップに苦労したのでしょうか。

「コースも変わって路面もよくなかったので、いくら慣れてるとはいっても最初はペースはあがりませんでしたね。でも、今年は去年とは違う気持ちで臨んでいたと思うんですよ。最後はやはり、帳尻を合わせてきましたから」

−去年は序盤から圧倒的に引き離す展開でしたが、今年のレースでは、むしろうまさや強さを感じさせる展開でした。

「レース中盤まで、前を走っていた選手が順調に飛ばしていた展開が逆によかったのだと思います。いい感じのペースを作ってくれましたからね。ニッキーは上手に間合いをとってタイヤを温存しながらずっとついて行き、最後に前に出た。すべて計算通りにうまく運びましたね」

−ライバル陣営に次々とマシントラブルが発生するなか、Honda勢は最後まで安定したペースで走りきったことも勝因のひとつなのでは?

「自画自賛になってしまいますが、Hondaの耐久性や信頼性はだてじゃないということを示せたと思います。安全も含め、耐久性はレースの重要な要素ですからね…。とはいっても、水温140℃、油温も160℃近くまで上昇していましたから、もうこれ以上はないというくらい、ぎりぎりの状況で終わっていたんです」

−終わってみれば、Hondaの表彰台独占です。

「正直なところ、予想できませんでした。なかでも、ラグナセカ初体験のダニの2位は驚異的です。フリープラクティスではあまりタイムを上げてきませんでしたが、土曜までの4時間の走行ですばらしい順応性を見せて、本番のレースでタイムを出してきた。さすがですね。ケーシー(・ストーナー)に至っては、こちらも初体験にも関わらず、フリープラクティスの段階からすぐにタイムを出していました。コースへの慣れやコンディションが云々という前に、初めての走行で3番手タイムですから、本当に驚きました。それだけに、転倒リタイアはもったいないですね。今回はかなり落ち込んでいたようですが、マシンやタイヤのせいにしないところは彼のいいところだと思います」

−マルコの3位については、どうですか。

「実は予測はしてたんですよ、食い込んでくるなということは。あまり根拠はないんですが、本人と話をしたときの印象や彼の状態を見ていても、今回はかなり来そうだなという気がしたんです。ただ、本人に言わせるともうひとつ履きたいタイヤがあったようで、『それを履いていれば、僕はもっと行けたかもしれない』と言っています。結果的には履いていないので、どういう結果になっていたかは何ともいえないところですが」

−玉田選手も、左足じん帯損傷というきつい状態で、ポイント圏内の11位とよくがんばりました。

「翌週の鈴鹿8耐も考慮に入れてのことだったのかもしれませんが、走行前には、ポイント圏外だったら途中でリタイアも辞さない、と言い切っていました。それくらい覚悟をして臨んでいたということでしょう。レースを終えてピットに戻ってきたら、左足の感覚が完全になくなっていたそうですから、すごい精神力ですね。次のブルノも非常に大事なレースだと本人も言ってます。期待しましょう」

−今回のニッキーの優勝で、チャンピオンがかなり近づいて来たといえるのでは?

「その意味では、ラグナセカは非常に大事な一戦でした。ライバル勢にとっても大事だったのでしょうが、我々にとってもそれは同じです。今回のような厳しいコンディションの場合は、特に本番のタイヤ選びに失敗すると致命的だから、あくまでも本番を想定したタイヤ選択をスタッフに徹底しました。とはいっても、あのコンディションでは選択の幅もあまりなかったんですが。あとは、このレースを落とすとシーズン後半の展開が相当きつくなるので、取りこぼしのないようにお願いします、ということもスタッフには伝えました」

−これで11戦を終了してサマーブレイクに入りました。後半戦の抱負は?

「シーズンはあと6戦残っています。今回のラグナのようなレースを、あと3戦は見たいですね」

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