HondaモータースポーツMotoGPHRC総監督・石井勉レポート
HRC総監督・石井勉レポート


 いよいよ2006年シーズンの開幕が目前に迫ったMotoGP。全17戦の戦いは、3月26日のスペイン南端のヘレス・サーキットからスタートする。シーズン・インに向けた最終調整となるIRTAテストを同地で終え、帰国した石井勉HRC総監督が開幕戦を直前に控えたHondaチームの様子と、今年の抱負を語った。

「若い選手を起用した今年のMotoGPクラスのHondaチーム全体の中では、ダニ・ペドロサやトニ・エリアスといった、これまでRC211Vに乗った経験のない選手たちがマシンに順応してきています。また、ニッキー・ヘイデンやマルコ・メランドリといった経験豊富な選手たちも、さらに上を目指すという強い意思を持ち、課題に取り組んでいます。IRTAテストでダニとトニがいいタイムを出したのは、マルコやニッキーに対していい刺激になっていると思います。そういう意味で、内部的にも刺激を与えあって活性化していますから、『今年はご期待下さい』といったところです」

 
 

−ワークスチームのダニは、ヘレステストの最終日にHonda勢だけでなくミシュラン・ユーザー全体の中ではトップとなるタイム(4位)をマークしています。今年からMotoGPクラスにステップアップしたダニが開幕前のテスト段階からここまでのポテンシャルを発揮すると予想していましたか?

「昨シーズンが終わって初めてRC211Vに乗った時に、既にそこそこのタイムを出していたから、これはまんざらでもないな、と感じていました。でも、まだ完全にはマシンを自分のものにはできていません。それに、RC211Vではまだ本レースを経験していない。でも、そこは250ccであれだけ競り勝ってきた選手だから、自分がこういう操作をすればマシンはこういう挙動をする、ということを理解して、それが身に付いてくれば、競り合いになったときの彼は強いと思うんですよ。今の彼の課題は、マシンを徹底的に自分のものにすることなんです」

−では、チームメイトのニッキーの仕上がり具合はどうでしょう。

「彼は今年で4年目RC211Vを知り尽くしているライダーとして今シーズンは新しいチャレンジをしていこう、という方向で進んでいます。今以上のさらなる高みを求めて、壁をどんどん突破していくんだと彼が選択し、決意し、本人も周囲もそれで意思統一をしています。総監督として私が一番大事にしたいのは、なぜチャレンジするのか、どうすれば一番気持ちよく走れるのか、ということを考えて選択した彼らの意思です。同じワークスとは言え、ふたりの仕様が別々になっているのは、そういう理由があるんですよ」

 
 

−確かに、同じワークスでも、二人のマシンは外見でも仕様の違いがわかります。

「マシンの考え方からいうと、ニッキーはワークス仕様、ダニはサテライト仕様がベースになっている、という状況です。もちろんダニにも新パーツを投入していきますが、それよりも大事なことを彼自身が一番わかっているんですよ。新しいものを投入するよりも、その前にベースとなるものにまず慣れなきゃいけない。それに集中し、意のままに操作ができるようになれば、充分に勝てるポテンシャルがあるということです。こちらからオーダーをかけてふたりとも同じマシンに乗せる、という考え方もありますが、私はそれはしたくない。HRCではどちらかをエースライダーとは決めず、ふたりとも勝つ可能性を持っているナンバーワン・ライダーだと考えているから、それぞれが一番速く走れるパターンがあるのなら、それぞれにその環境やハードを与えます。そういう考え方なんです」

−ワークス以外のHondaライダーはどんな仕上がりですか。

「フォルトゥナ・ホンダの二台は、トニがテスト終盤に来て上手くセッティングを進めましたね。トニはずっと昨年仕様のタイヤでサスやエンジンのセッティングを行っていたんですが、最後に06年仕様を試したとたんにポンとタイムが出た。06年仕様のタイヤにいいのが見つかったということと、サスセッティングを上手くやったのがちょうど重なったんですよ。マルコは、あともう少し自分にしっくりくるセットアップを見つけると、今までの実績からしても、一気に行くでしょう。彼は性格的に、本番になるとモチベーションが一気に向上する選手ですから。
コニカ・ミノルタ・ホンダの玉田誠君は、ずっとRC211Vに乗ってきたライダーで、マシンの特性は充分に把握しているから、あとは新しいタイヤとの組み合わせでどこまで自分のしっくりくるところを見つけられるか、だと思います」

 
 
−そういう意味では、負傷でIRTAテストを欠席したホンダ・LCRのケーシー・ストーナーだけが、06年仕様のミシュランタイヤを試すことができなかった、ということになりますね。

「残念ながらそうですね。ただ、順調に回復しているという話なので、ぶっつけ本番にはなってしまいますが、開幕戦には出る予定です。新人の上に、ぶっつけ本番なので、初戦から結果を出すのは難しいでしょうが、まずは焦らずに経験を積み重ねるつもりで挑戦してもらえばいいと思っています。でも、チーム体制は選りすぐられた人たちの集団なので、状況がわかればすぐ対応してくると思います」

−ところで、昨年タイトルを獲得した250ccクラスでは、今シーズン2チームから4名のライダーが参戦します。

「IRTAテストでは、ヒューマンジェスト・レーシング・チームの高橋裕紀君が好調でしたね。今シーズンの彼には期待しています。チームメイトのアンドレア・ドヴィツィオーゾも、裕紀君のタイムや走りが刺激になって一層の奮起をしてくれるでしょう。「Honda Racingスカラシップ」を獲得したレプソル・ホンダ・チーム250の青山周平君も、最初にしては悪くないと思っています。彼はメンタル面でもアグレッシブだから、競り合いになったら一年目でもかなり行くかもしれませんね。ただ、そのアグレッシブさのコントロールが彼の今後の課題ですが、レースの駆け引きや精神面、基礎体力作りなど、アルベルト・プーチ監督が徹底的にマネージメントしてくれているので、この一年でさらに大きく成長するでしょう。セバスチャン・ポルト はレース経験も抱負でHondaのマシン特性も知り尽くしているライダーなので、きっと期待どおりの活躍をしてくれるものと思います」

 
 

−どうやら、総じて非常に激しい争いの一年になりそうですね。

「レースを観戦する人たちにとっては、抜群に面白いシーズンになると思いますよ。全体的にレベルアップしているし、しかもこれだけの競り合う状況だと誰が勝っても不思議ではない。そんな中で、Hondaライダーたちの活躍は期待をしていただいていいと思います。目標は当然、MotoGPクラスのタイトル奪還と250ccクラス連覇。990ccは今年で最後だから、全員が一丸となってライダー、コンストラクターの両タイトルを奪い返したいと思っています。これからの一年、若い世代と共に挑んで行くHondaの新たなチャレンジと、Hondaライダーに応援をよろしくお願いします」

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