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モータースポーツMotoGP田中誠レポート
VOL.21 ライダーの肖像−玉田誠(コニカミノルタホンダ)


 第12戦日本GP(ツインリンクもてぎ)で最も活躍を期待する選手を尋ねれば、おそらく誰もが玉田誠の名を筆頭に挙げるだろう。それほど、玉田選手が昨年の日本GPで見せたパフォーマンスは強烈な印象を残した。PP(ポールポジション)を獲得した玉田選手は、レース序盤からヤマハのロッシ選手を寄せつけず、それどころか一方的に引き離しにかかる展開で、ポールトゥフィニッシュの完璧な勝利を飾った。最終戦バレンシアでもPPを獲得し、今シーズンの玉田選手は開幕前から打倒ロッシ候補の最右翼に挙げられていた。
 
 しかし、今季開幕2戦目のポルトガルGP(エストリル)予選で転倒した際に右手首を骨折、以後の2戦は欠場を強いられてしまう。転倒の原因は、今季からスイッチしたミシュランタイヤの特性(特に路面が冷えている状態での挙動)を充分把握していなかったため、と玉田選手は振り返る。
 
「プレシーズンのテストは、ほとんどが暑いところばかりで路面のグリップも高いから、あの時期なりに自分の走りが出来てはいたんですよ。ただ、フィリップアイランドのテストでは路面温度の低いときに転倒してるし、開幕戦のヘレスも、2週間前にテストをやったときと一転して寒くなったから、上手くグリップを出せずコントロールしきれない状態でレースが終わってしまった。結局、エストリルでも同じことだったんです」
 
 玉田選手は第5戦イタリアGPから復帰を果たすが、コンディションは万全からほど遠いものだった。本人は「大丈夫!」と気丈な笑みを浮かべていたものの、セッション後即座に顔をしかめてアイシングを施す姿には悲壮感も漂っていた。実際、後日にこの復帰当時を振り返り、手首の痛みはけっして軽いものではなかったことを告白している。
 
「痛くても、絶対に痛いって言いたくないんです。と言うのは、たとえば他のライダーがそういうことを言っていると『そんな言い訳するくらいなら走るなよ!』って思っちゃうんですよ。だから、僕がそういうことを言ったとしたら『言い訳しやがって』って思う、僕みたいな人が絶対いるはずじゃないですか(笑)。そんなふうに思われるのは、絶対に許せないですから」
 
 玉田選手の負けず嫌いな性格をよくあわらすエピソードだ。
 
 その後、第8戦US(ラグナセカ)では、順位こそ7位と奮わなかったものの、久々に痛快なバトルを展開する姿も見られた。第9戦イギリス(ドニントン)は激しい雨のレースで、Hondaライダーが続々と転倒するなか最後まで走り切り、レイン、そして路面の冷えた状況下でのミシュランタイヤの挙動という貴重なデータを蓄積した。
 
 このレース当時、玉田選手はすでに日本GPに照準を合わせている。
 
「もてぎで優勝しようと思うと、ここから先でちゃんと結果を出して、しっかりとリズムに乗らないといけない。直前までダメだったのにいきなり優勝できるほど甘いもんじゃない」
 
 そんなふうに、自らを叱咤するような厳しい言葉を呟いていた。しかし、その意気込みと裏腹に、第10戦ドイツ(ザクセンリンク)と第11戦チェコ(ブルノ)は、ともに10位。セッティングの方向性を見いだせない苦しい状態で母国に戻らなければならないかに思えた。
 
 上昇機運のきっかけを掴む最後のチャンスは、第11戦明けに行われた事後テスト。ここで、玉田選手は一気にそれまでの低迷を晴らす走りを見せた。ずっと悩み続けていたマシンセッティングも、問題点を洗い出して方向性が明確になった。
 
「前後の車高を上げて、リアクッションに新しいものを入れたら一気によくなった。特に(キャスター角の)オフセットを手前に引いたのが効きましたね。アベレージタイムもマシンのフィーリングもレースウィークよりずっといい。ブレーキングがぐんと安定するようになったし、旋回性も良くなった。テストの最初でこのセットアップが見つかって、ホントに良かった〜」
 
 と胸をなで下ろした玉田選手は、テスト2日目にタイヤテストを実施。セミロングランでは2日前のレースよりも1秒早いタイムを連発して気分良くメニューを切り上げた。
 
 復活の兆しは見えた。後半戦は、前半戦で出遅れた分を取り戻すべく、とにかく毎戦表彰台争いをしたい、と述べる言葉が、ようやく現実味を増してきた。第12戦日本GPは、その端緒を飾るレースになるだろう。本来のアグレッシブさを取り戻した玉田誠が、日本へ帰ってくる。
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