第一話 不沈艦RCB1000。8耐の歴史、火蓋を切る。
RCシリーズの次代のスタイル
 「RS1000の前の時代に活躍したRCB1000は、60年代からのRCシリーズのライディングを継承しながら耐久性を追求したマシンです。タンクの前後長が長く、リアタイヤに近いところに乗るためそれほどフロントに荷重がかからず、どちらかと言えばリアステアのマシン。リーンウイズでマシンと一体となって、ライダーは必要以外の動きをせずに長いレースを闘う仕様でした。当時RCB1000に乗るライダーは、RCシリーズでスプリントレースを闘っていた人ですから、そのマシンのテイストを引き継いだ耐久マシンのほうが乗りやすかったのでしょう」 
 
 「それに対しRS1000は、8耐でいえば8時間をなるべく速く走ろうという新しい思想が注ぎ込まれています。ヨーロッパ耐久選手権の王者であったHondaのデータを活かし、スプリント性をうまく融合させています。タンクの前後長が短くてまず乗りやすい。加えてタンク幅が広いので、肘でタンクをホールドしフロントに荷重をかけ、より積極的にマシンを操る乗り方ができる。かといって繊細過ぎず、リーンしていくときのフロントの接地感とか安心感は抜群という味付けになっている。当時究極と言われていた、Hondaの直列4気筒のハンドリングの完成度の高さをあらためて実感することができました。いいものは、時代を超えてもいいものだとあらためて感じましたね」 
 なんとも羨ましいインプレッション。直4時代のHondaレーサー究極のハンドリングを宮城は身を持って体験したのだ。 
 「CB750、CB900、CB1100Rシリーズは今でも熱狂的なファンが多いのですが、その時代のHonda直4マシンで成し得る究極のハンドリングを想像してもらっていいと思います」 
 
 
8耐がスプリント化する節目のマシン
 「RS1000に乗っていて、8耐で優勝したデイビッド・アルダナ、マイク・ボールドウイン組になりきりましたね。コレクションホールにあるマシンはどれも世界の超一流ライダーが乗っていますから、彼らが活躍したシーンが脳裏に焼きついている。ですから、その時代のマシンに乗ると『マイク・ボールドウインは、こんなフォームだったな』というのを思い出しつつ乗る。そういう気分で乗ると、そのマシンの持つ本来のよさがさらに見えてくるんです。僕はどっちかというと腕を広げて乗るほうですが、RS1000に乗るとちょっと肘をしめてタンクにあて、マイク・ボールドウインのようにコンパクトなライディングフォームを取る。するとさらに安定感が際立ちますし、一体感も高まる。路面からのインフォメーションもよりいっそう取りやすい。RCB1000からの時の流れ、時代進化が見える乗り味ですよね」 
 
 「このあとも8耐マシンの話をしていきますが、徐々に8耐はスプリントレース的色合いを強め、ライダーは、繊細なハンドリングのマシンを強靱な肉体で、いかに長時間速く走らせられるのか?ということを問われる時代になっていきます。RS1000とその次のRS750までは、マシンとライダーの融合点を一生懸命考えてつくり上げた、スプリント時代到来前の最後のマシン。そういう意味で1980年代に生まれ、現代にも通ずるコントロール性を持つ不朽の名作だといえます」 
 
 
 「僕はRS1000が活躍しているとき、CB750Fに乗ってひたすら走り腕を磨いていました。同型のエンジンですから、強い憧れがありましたね。ちょうどその頃、僕は鈴鹿サーキットでオフィシャルのアルバイトをしていて、RS1000をよく見かけていたんです。強く美しいHondaのマシンとして心に焼きついています。その当時Hondaが8耐で勝ったときのポスターを部屋に貼っていましたし、ものすごく心をときめかせたマシンです。その憧れのマシンに、20年以上の時を隔てて乗ることができ、素晴らしい直4のハンドリングを体感することができて本当に幸せでした」 
 1981年、RS1000で2勝目を上げたHondaは、その後も8耐で様々なドラマを生み出していく。 

 
宮城光の「鈴鹿8耐歴代ロードレーサーの鼓動」。次回は750ccへと変化したレギュレーションに対応し圧倒的な強さをみせた、RS750をご紹介します。
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