Honda Racing to TOP
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「ハンドリングは個性的で、今から思うと体力が必要でした。全身を使ってねじ伏せていかないと速さを追求できない。とにかく車体が硬いんです。ピーキーな高回転型エンジン、剛性のある車体、精度が高くてよく動くサスペンション、ガッチリ食い付くタイヤ・・・といった具合に突出した性能を持つパーツの集合体でしたから、バランスを取るのはすごく難しかった。ですから、まずはライダーがこのマシンに勝つことが要求されたんです。マシンに負けている人はどういう状態かというと、この鋭いパワーを持つマシンを走らせるのが精一杯。それではレースなどできません。僕も現役時代は相当苦労しましたね。でも、レースをやってどのバイクが楽しかった?印象的だった?と聞かれたら、まずこのバイクを挙げたい。それほど、チャレンジングなバイクですよ。どうやったら速く走らせられるか、ずーっと探ってましたよね」
 宮城自身がライダーとして闘った初期のNSR500は、やはり彼の中で一番印象に残っているバイクだという。彼は、ライダーとしてのチャレンジングスピリットを掻き立てる、走り甲斐のあるこのバイクを「思い出のレーサーとして飾っておければ最高ですね」と語った。

熟成を重ね、俄然乗りやすくなった後期のNSR500

NSR500
 1997年のWGP500ccクラスHonda全戦優勝、ミック・ドゥーハンの5年連続チャンピオン獲得など後期型のNSR500は、数々の栄光をもたらしたバイクだ。その1995年型ミック・ドゥーハン車にも宮城は乗っている。
「この時代は、 “同爆”エンジンになって扱いやすくなるんです。交互に爆発する“等爆”でピーキーだったエンジンが、ほぼ同時に爆発する“同爆”でまた低回転域から粘るようになった。エンジン音も変わりましたね。キーンキーンという耳栓なしでは乗れない初期に比べ、後期になるとバーンバーンと太くなりました。剛性の高い車体というキャラクターは受け継がれていますが、ハンドリングについては熟成が重ねられ、エンジン同様扱いやすくなるんです。乗った感じがすごくソフト。スピード感もない。でもちゃんとパワーが出ているので速い」

「それと、各部の仕上げがすごくよくなりました。ハンドルの上にあるステアリングステムがすごくきれいだし、メーターも美しくなっています。タンクとフレームの間などもきちっと隙間が詰められている。ステップまわりも品質がいい。目に飛び込んでくるパーツが美しくクオリティが高いと、乗り手の安心感と、世界最高のマシンに乗れているという気持ちで闘争心が高まるんですね」

「NSR500 は、“同爆”エンジンで扱いやすくなったんですが、王者ドゥーハンはのちに “等爆”に戻したんですよ。なぜかというと、乗り手としてはそっちの方が面白いんです。キューンと回ってピークパワーも出ますし。もっと自分を伸ばしたい、もっとライバルとの差を広げたいという思いがあったんでしょう。それからRC211Vにチャンピオンの座をゆずるまで、NSR500は熟成し正常進化し続けていきます。ニュートラルなハンドリングですごく扱いやすいグランプリレーサーとして」
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