Honda Racing to TOP
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まず興奮覚めやらぬRC211Vについて。そしてRC149。
 かつて二輪界のプリンスと言われたその男は、目玉を落っことしそうになった。いや、そう思えるほど目を見開いたのだ。
 「もう一回レースさしてくれへんか!」
 独自のV型5気筒エンジンを搭載して、2002年、MotoGPクラス初代チャンピオンの座を獲得したHonda RC211Vを試乗した感想を宮城光はそう述べた。
 「このマシンなら、ひょっとしてもう一度オレは勝てるんちゃう?」
 そう思わせるほどRC211Vは次元を超えた走りを見せたのだ。レースにおいて、尖った戦闘力を発揮するマシンは、乗り心地などどうしても犠牲にしなければならない部分が出てくるのが普通。
RC211V
 「RC211Vは犠牲にしている性能がない。全部いい。速いのに乗りやすい。乗り心地さえもいい。世界最高傑作のバイクですね」
 詳しくはあらためて紹介するが、RC211Vのすごさを機関銃のようにまくしたてた宮城は、一息つくとしばらく目を閉じ、夢見るような表情で自らこう言った。
 「40歳になった宮城光は大いに夢を見させてもらいましたわ。鈴鹿を3ラップ。長い3ラップやったし、短い3ラップやった・・・」
 鈴鹿サーキットでのRC211Vの試乗は、彼の誕生日の翌日だった。「いい誕生日プレゼントでした」思いに浸っている彼を、残酷だとは思ったがインタビューのために現実に引き戻さねばならなかった。
 「では動態確認で乗られた歴代二輪レーサーのなかで、一番印象に残っているマシンの感想を聞かせてください」という質問で。

掛けた瞬間から絶叫するRC149のエンジン。
 古いHondaのロードレーサーのなかで、最も印象に残っているマシンとして、宮城はRC149を挙げた。RC149は、1966年に、Hondaが世界GPのタイトル奪回のために製作した力作である。
 スペックは、わずか4ストローク125ccながら、並列5気筒。1気筒あたり25cc。DOHC4バルブ、空冷。最高出力は、34PS以上/20500rpm。最大トルクは、1.22kgm/19300rpm。つんざくようなエキゾーズトノートが聴こえてきそうなスペックである。車体重量は約85kg。
 Hondaは、1964年に2気筒から4気筒と進化させたRC146で125ccクラスのメーカータイトルを獲得(3度目)。翌1965年は、さらにマルチ化した世界初の5気筒125ccロードレーサーRC148を投入するも、追随してきた2ストローク勢にタイトルを奪われる。そこでRC148を熟成し、さらに高回転、ハイパワー化を実現したRC149を開発したのだ。このマシンを駆ったルイジ・タペリは、期待に応え見事チャンピオンを獲得。Hondaにもメーカータイトルをもたらした。栄光を奪回した小さな巨人。跨がると、果たしてどんなマシンなのか。

RC149
 「まずびっくりするのは、エンジンが掛った瞬間。12000から13000回転です。そこまで回していないと止まってしまう。ごっつい驚きですわ」
 ロードレーサーにはそもそもアイドリング自体がない。アクセルを離すと止まってしまうため、アクセルをあおってエンジンを生かし続けるのだが、その回転数が13000というのだ。13000回転といえば、一般的なオートバイならアクセル全開以上。止まっていてそれでは、たまらないだろう。
 「なんか、ただピストンとクランクだけが動いてるだけなんじゃないの?という感じです」
 つまり、コンロッドについているカウンターウエイトなどの重みを感じないということだ。エンジンは、主軸となるクランクシャフトまわりに、ある程度のウエイトをぶら下げ、そのウエイトが自らの重み(クランクマス)で回ろうとする慣性を利用して爆発力を受けないときもエンジンを回している。クランクマスの慣性が小さいとエンジンは止まりやすい。
 だから宮城は「素のピストンとコンロッドだけが動いてる感じ」と言ったのだ。もちろんクランクマスがゼロのはずはないが、そう感じるほどの止まりやすさなのだ。RC149は、停止状態で絶叫するマシンだった。
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