2011年のシーズンをしめくくる最終戦バレンシアGPが、今年もバレンシア・サーキットで開催されます。バレンシアGPは、1999年に第1回大会が行われ、今年で13回目。最終戦の舞台としては、2002年以来、今年で10年目を迎えます。バレンシアGPは、シーズンを通じてもっとも観客が集まる大会でもあります。今年も3日間で20万人を超える大観衆が集まることは確実。個人、コンストラクター、チームの3冠を制しているRepsol Honda Teamにとっては、メインスポンサーのホーム大会で一年を締めくくることになります。
前戦マレーシアGPは、マルコ・シモンチェリ選手(Team San Carlo Honda Gresini)が不慮の事故で亡くなるという悲しいレースとなりました。タイトルを獲得したケーシー・ストーナー、最終戦を迎えて総合3位を争うアンドレア・ドヴィツィオーゾとダニ・ペドロサのRepsol Honda Teamの3選手にとって、シモンチェリ選手は優勝争いを繰り広げてきたライバルでした。今大会は、Repsol Honda Teamの3選手をはじめ、グランプリを戦うライダー全員が、シモンチェリ選手を追悼する大会となります。
バレンシア・サーキットは、一周4.005kmのテクニカルコース。左回りで低中速コーナーが連続するコースは、メインストレートをのぞき、常にマシンがどちらかにバンクしている難コースです。しかし、マレーシアGPが開催されたセパン・サーキット同様、ウインターテストが多く行われることから各チームともにデータは豊富で、初日からレベルの高い戦いが繰り広げられます。MotoGPクラスでは、過去12大会でHonda勢は、5勝を挙げています。昨年は優勝を逃していますが、今年は2年ぶり6回目のバレンシア大会優勝と、シーズン13勝目を狙います。
バレンシア・サーキットは、スタンドがコースをグルリと取り囲む形になっていて、どこからでもコースをほぼ見渡すことができます。そのため観客の人気も高く、大きな歓声の中で熱戦が繰り広げられてきました。最終戦独特の興奮と熱狂の中で、数々の名勝負が繰り広げられてきたバレンシアGP。今年もファンの脳裏に刻み込まれるドラマが繰り広げられそうです。
最高峰クラスで2度目のチャンピオンを獲得したストーナーは、今年は3年ぶりのバレンシアGP制覇を狙います。これまでバレンシアでは、03年(125ccクラス)と08年(MotoGPクラス)に2度の優勝を経験しています。125cc、250cc、MotoGPクラスで通算5度表彰台に立っているストーナーの今季10勝目が期待されます。
ドヴィツィオーゾは、4ポイント差のペドロサとし烈な総合3位争いを繰り広げています。今大会は、Repsol Honda Teamのライダーとしては、最後のレース。今年は最高峰クラスではもっとも活躍したシーズン。今季2度達成しているHonda勢の表彰台独占において、ドヴィツィオーゾはすばらしい活躍を見せました。来季は新たなチームに移籍してMotoGPクラスにチャレンジすることになりますが、Repsol Honda Team最後のレースに闘志を燃やしています。
そのドヴィツィオーゾを逆転しての総合3位を狙うペドロサにとって、バレンシアはシーズンを通じてもっとも得意とするサーキットです。これまでMotoGPクラスで2勝、250ccクラスで2勝、125ccクラスで1勝と、もっとも優勝回数の多いサーキットとなっています。今年は、ヘレスで行われたスペインGPで2位、カタルニアGPはケガのために欠場、アラゴンGPで2位と地元スペイン大会で一度も優勝がないだけに、最終戦で今季4勝目を狙っています。
シモンチェリ選手が所属するTeam San Carlo Honda Gresiniは、シモンチェリ選手のためにもと、最終戦出場を決めました。チームメートの青山博一にとっては、亡くなったチームメートを追悼する戦いとなります。すでに、来季はスーパーバイク世界選手権にスイッチすることが決まっています。この大会でMotoGPクラスへのチャレンジがひと区切りとなりますが、悔いのないレースをする意気込み。トニー・エリアス(LCR Honda MotoGP)も、今大会が同チームで最後のレースとなります。今大会はホームGPとなるだけに今季ベストリザルトを狙っています。
Honda勢の一員としてすばらしい戦いを見せてきた故シモンチェリ選手の追悼レース。3冠達成の大きな力になったシモンチェリ選手のためにも、Honda勢は最終戦を勝利で飾る意気込みです。
Moto2クラスは、チャンピオン争いをするステファン・ブラドル(Viessmann Kiefer Racing)とマルク・マルケス(Team CatalunyaCaixa Repsol)のチャンピオン決定戦となっていましたが、今大会の開幕を前にマルケスが欠場することを決めたため、ブラドルのチャンピオンが決定しました。マルケスは、前戦マレーシアGPのフリー走行で、コースの一部で降雨があり、それを知らせるフラッグがなかったために転倒しました。4台のマシンが次々に転倒する多重クラッシュとなりましたが、この転倒で全身を強く打ったためにマルケスはマレーシアGPの決勝をキャンセルしていました。その後、1週間のインターバルで開催される最終戦バレンシアGPに向けて回復が期待されていましたが、レース出場は無理との判断で、今大会も欠場することになりました。このため、ブラドルの2011年Moto2チャンピオンが決定しました。
注目のタイトル争いはなくなりましたが、昨年の大会では、PPから1秒差以内に20台という大接戦。シーズンを通じてもっとも接近戦が繰り広げられる大会の1つだけに、最終戦にふさわしい熱戦が繰り広げられそうです。シモンチェリ選手が所属していたTeam San Carlo Honda GresiniのMoto2チーム、Gresini Racing Moto2も最終戦に出場します。シモンチェリ選手の追悼に高橋裕紀とミケーレ・ピロも全力を尽くします。125ccクラスは、ニコラ・テロール(アプリリア)とヨハン・ザルコ(デルビ)のチャンピオン決定戦となっています。
ケーシー・ストーナー(MotoGP シリーズチャンピオン) 「マルコの悲惨なアクシデントがあったあとにレースに戻るのは難しいです。しかし、彼を称えるためにもレースをすることがベストな方法だと思っていいます。我々は、リスキーなスポーツに参加していることを理解しています。以前に比べて安全性は向上していますが、残念ながら、悲しい事故がまた起きてしまいました。僕の思いは、彼の家族とともにあります。このつらい時期をなんとか乗り越えて欲しいと願っていいます。今週のレースは、シーズンをしめくくる大会となります。1年間、一生懸命がんばってきました。そしてフィリップアイランドでタイトルを獲得して、次の2012年に向けてスタートを切っています。バレンシアのレースが終わったら、2日間、来季の1000ccマシンでテストを行います。週末はすべてのファン、そしてマルコのためにいいレースにしたいです」
アンドレア・ドヴィツィオーゾ(MotoGP ランキング3位) 「マルコがいなくなってとても悲しいです。レースをするにはとてもつらい状況ですが、バレンシアへ向かいます。マルコの58番を、ツナギの胸のところにつけて走ります。これを支えにして最終戦を戦いたいです。僕はずっとマルコとレースをしてきました。彼は『ライバル』でした。マルコがいなくなって、ぽっかりと大きな空洞ができてしまいました。この空っぽな気持ちを、バレンシアでいい結果を出すんだという強い気持ちで埋めたいです。チャンピオンシップを3位で終えるのは僕にとって大事なことです。バレンシアは、僕の得意なサーキットではありません。しかし、ダニはこのサーキットをとても得意にしているし、3位をキープするのは厳しいかもしれませんが、全力を尽くしたいです。バレンシアGPはHondaでの最後のレースとなります。Hondaで走って10年になります。いいレースでHondaの最後のレースを終えたいです」
ダニ・ペドロサ(MotoGP ランキング4位) 「バレンシアGPは、みんなにとってとても特別なレースになると思います。今週末は、みんながマルコのことを思うことになります。MotoGPファミリーがそうであるように、ファンのみんなも、彼に対してリスペクトと感謝の気持ちを示してくれることを願っています。バレンシアはとても好きサーキットです。スペインのファンにまた会えることを楽しみにしています。昨年はケガのためにあまりいいパフォーマンスができませんでした。でも今回はいいレースをして、最高の形でシーズンを終えたいです」
ファウスト・グレッシーニ|Team San Carlo Honda Gresiniチームオーナー 「参戦するという決断は簡単ではありませんでした。しかし、出場することをマルコは望んだと思いますし、バレンシアGPに出場することが彼を追悼する最良の方法だと思いました。彼は、MotoGPクラスのライダーとしてコースに出て走ることが一番好きでした。だからマルコに気持ちを一番うまく伝えるには、チームとライダーが今回のレースにそろうことだと信じています。『スーパーシッチ(シモンチェリ選手の愛称)』は青山博一、ミケーレ・ピロ、高橋裕紀の中にいます。彼らは、日曜日に最もふさわしい追悼をしてくれるでしょう」
ステファン・ブラドル(Moto2 シリーズチャンピオン) 「優勝を逃し、チャンピオンを決められなかったマレーシアGPを終えたあと、レースの世界から少し距離を置いていました。それがとてもよくて、とてもいい気分転換になりました。週末、またレースに戻りますが、それがマルコの望みだと思いますし、彼のためにも全力を尽くしたいです。今回は、正直、いつものバレンシアGPとは違う気分です。今大会は、これまで通りのプランで進めて、いつものようなパフォーマンスをしたいです」
マルク・マルケス(Moto2 ランキング2位) 「バレンシアで戦うことを楽しみにしていたので、とても残念です。しかし、この身体の状態ではどうしようもありません。特に、視界がちゃんと確保できないので出場することをやめました。状態は深刻ではありませんが、時間がもう少し必要になりそうです。これが肩であればがんばって走ることもできます。でも、完ぺきな視力がなければリスクを負うことはできません。一瞬でも視界が途切れたら、他のライダーをも危険にさらすことになります。欠場することになりましたが、今シーズンの内容には満足しています。今は何もすることはできません。とにかくよくなることだけを考えたいです」