スペインやイギリスなど海外の雑誌やウェブサイトで紹介されている、Hondaの関する記事を掲載していきます。
© 無断転載・複製を禁じます。 文責:ジョバンニ・ザマーニ
2016年4月10日付記事
<オースティン>アニメの登場人物のような親しみやすい顔立ち、さわやかな弁舌、どのような話題にも真っすぐな受け答え。横山健男氏、42歳は、さまざまな理由から、日本人らしからぬ日本人です。あけっぴろげで人当たり良く、話し好き、そして根っからのバイク好きの横山氏からは、積極性と熱意が伝わってきます。1996年にHondaに入社、2002年に米国に移って研究を終えると、2004年にフレーム設計者として、HRCに復帰しました。2010~12年には、ダニ・ペドロサのレースエンジニアを務め、13年からMotoGPチームのテクニカルディレクターとなりました。チームの技術の要であり、あらゆる問題の解決にあたる責任者です。その横山氏に、ここまでの状況について伺いました。
―カタールGPでは思うように順位を上げられずにいましたが、最終日には一転して優勝争いを繰り広げました。どのような変更をマシンに行ったのでしょうか?
「RC213Vは前日と同じで、技術的な変更はなにも行っていません。基本装備を変更しただけですが、これが功を奏しました」
―今年は、クランク軸の回転方向が逆回転(ライバルチームと同じ)になっています。タイヤ、ECUに加え、1シーズンでクランク軸も変更するということは、どのような判断だったのでしょうか?
「2015年には、パワー制御に手こずり、マシンをコントロールしやすくする必要があると判断しました。そのため、多少パワーを犠牲にしながらも、目標を達成しました。最高速度を上げる必要がありますが、問題はクランク軸の回転方向だけではありません」
―ECUで多くの問題が発生しているのは、なぜなのでしょうか?
「他社製を使用せざるを得ないという初めての経験のためですね。これまでHondaは、すべて自社で開発するという哲学に徹してきました。しかし、今年からマニエッティ・マレリ製を使用することになったからです。例をあげますと、シンプルなセンサーが必要な場合、これまでであれは、ほかのチームのように既製品を購入するということはありませんでした。仕様に合わせて業者に製作を依頼していたのです。もはやそれは不可能となったので、アプローチの仕方、考え方そのものを変える必要がありました」
―2015年まで、エンジン制御でHondaは断然優位にあったと言っていいでしょうか?
「ライバルチームのレベルについて分かりませんが、自社のソフトウエアに満足していたことは確かです。ただ、現在はかなり改善しています。新たなECUがどう機能するかが分かりはじめ、マニエッティ・マレリにも手を貸してもらいました」
―アルゼンチンGPではマルケスが優勝しました。ただ、マシンというよりはライダーの勝利という印象を受けたのですが、テクニカルディレクターとしてどう思われますか?
「今回のテルマスのような難しいコンディションを乗り切れたのは、もちろんマルケスだからこそ。しかし、ライダーの力だけでなく、RC213Vだから可能な部分もあったと思います。今年の初めに比べれば、マシンは大きく向上しています」
―オースティンでは、2013年以来負け知らずです。なぜなんでしょう?
「さあ、説明は難しいですね。オースティンのコースは、ヨーロッパのコースとは大きく異なり、マルケスにとって走りやすいのでしょう。また反時計回りのコースということもあります。マルケスは左カーブの方が強いですから」
―一方、ペドロサは苦戦を強いられましたね。
「ダニのことはそっとしておいてください。マシンの進歩に欠かせない存在であり、非常に経験豊富なライダーです。彼なくして、RC213Vの向上はあり得ません。マルケスとペドロサの2人で最良のチームであり、技術者の1人分に匹敵します」
―マルケスは優れた部分はスピードだけでしょうか? それとも、テストライダーとしても優れていますか?
「マルケスは常に100%のスピードで走ります。そしてこれが重要なのです。それによって、データの収集が可能になるからです」
―直線でのデズモセディチ(ドゥカティ)の性能には驚かれましたか?
「ドゥカティは素晴らしい仕事を成し遂げました。彼らに敬意を表します。私たちの目標は、ドゥカティのレベルに到達することです。差を縮められると確信しています」
―ヤマハについてはどう評価されますか?
「MotoGPに簡単なコースはありません。ヤマハのマシンはより操作しやすく仕上がっていると思います。ただHondaはブレーキ操作で勝っており、コーナー進入に有効です。Hondaの課題はコーナー脱出です」
―ロレンソは、ドゥカティで速く走れるでしょうか?
「彼のようなライダーならどんなマシンでも速く走れると思います。Hondaを後にして、アプリリアに移ったときのことを覚えていますが、アプリリア250は全く異なるマシンにもかかわらず、すぐに乗りこなし、2度世界チャンピオンに輝きました。ロレンソがドゥカティに移れば、MotoGPはさらに面白くなるでしょう」