「自然の野山を走るので、トライアルには自然破壊のイメージを持つ方もいるかもしれませんが、設定側の想いとしては『そうではないんだ』というところも見せたいのです。例えば、バイクを手足のように操れる上手な選手ほど、路面に対して優しい走りをしますし、選手たちもルールを守って山の中に入り込んで戦っているという点では、バイクで自然を節操無く荒らしているのではないのですね。トレッキングシューズをバイクに変えて山を登りましょうというのがトライアル本来の楽しみでもあるので、コース設定にもそういうところを意識した狙いがあります。自然の中を走るためにバイクで苦労するような場面を見せたいという気持で、色々なところにセクションを作っています。テクニックだけを見せるなら、全て人工セクションにしてしまえば済んでしまう話ですから。もてぎでは大会のあとに、沢筋にできたタイヤの溝を職人さんたちが全部修復しているんですよ。土を被せてもう一度自然の状態に還す、そこまでが日本GPのテーマであり運営側の仕事になっています。しかも、その修復作業の方が、設営作業よりも長くかかるということです」
「トライアルの場合は、エンジン音や排気音もよく聞こえるようなヘルメットの作りになっていますし、比較的視野も広く、周囲の情報は何でも入ってきます。ちょっと気持ちに余裕のあるときは、お客さんの声援や応援の旗などは意外に聞こえていますし目につくものです。このあたりはゴルフと違いまして、『お静かに』というのではなく、いかなる場合も『お客さんの声援は力になる』というのが選手の意見ではないかと思います。したがって、精一杯声を張り上げても、それ以上にエンジンを回して走っていくわけですから、どんどん応援してもらった方がいいと思います。自分自身が日本GPを走った経験で言いますと、岩盤ゾーンなどでよいスコアをメイクした時は、下から大きな歓声が聞こえて来て、選手にとってもすごく気持ちのいい場所でもあるんですね」
「藤波選手も普段はヨーロッパで走っているので、日本を離れてスペインでひとり暮らしをしているわけです。だから彼自身も日本人の声援が飛びかう日本での大会を、毎年すごく楽しみにしています。日本語の声援で彼自身が盛り上がってくれれば、高いパフォーマンスを発揮し、もしかしたら総合優勝してくれるのではないかとさえ思っています」