――今年の世界選手権が終わったとき、お互いにどのような言葉をかけましたか?
藤波:「素直に、“おめでとう”と言いました。くやしい思いはあるけれど、レースが終われば親友であり、チームメートでもありますからね」
ボウ:「普通に“ありがとう”と言いました(笑)。ライバルのアダム・ラガたちも“おめでとう”と言ってくれましたが、彼らとはチームが違うし、仲はいいですけれども、みんなそれぞれに自分を強く持っているスペシャルな人たちですから。フジ(藤波)やドギー(ランプキン)からの“おめでとう”とは、ちょっと違っていましたね」
――お互いに、どういうところが特に優れているライダーだと思いますか?
藤波:「トニーは瞬発力がすごくありますね。一緒に練習をしていても、自転車トライアルの乗り方みたいだし、滑りやすいところもうまい。トータルで優れているライダーだと思います。若いし、自転車トライアルで世界チャンピオンになっただけあってダニエル(注・ウイリー状態でホッピングする技)のテクニックも飛び抜けています。段差を上がる場合も、バイクに頼って上がるのではなくて、バイクに乗りながら彼がバイクを引き寄せて上がる。力強く、彼がバイクを助けてあげる感じですね」
ボウ:「フジは一緒に練習していて、自分とは乗り方が違うライダーだと思います。滑りやすいところでのテクニックはナンバーワンで、走行ラインの取り方についても飛んでいくだけではなく、路面をなめていくようなライディングが参考になります。フジに教えてもらうことはいっぱいあるので、これからも一緒に練習したいし、彼とのトレーニングに一番時間をかけてやっていきたいですね」
――ボウさんが20歳の若さでチャンピオンになったことは、どう思いますか?
藤波:「すごいことですね。昨年のランキング5位から、いきなりチャンピオンですから。すごくストレートに上がってきたと思います。僕の場合はチャンピオンが取れそうで取れなくてランキング2位が多かったですから。精神面のこともあったけれども、トニーの場合は精神面とかをいう前に取れたと思います」
左から藤波、ミゲール・シレラ監督、ボウ
ボウ:「僕はちょっと早すぎたと思います。若くしてチャンピオンになったので、みんなは来年も今年のようにタイトルを取れるだろうと言ってくれるのですが。自分ではまだ若いと思うし、何があるかわかりません。タイトルはみんなが狙っていますから。とにかく早かったと思うし、自分でも驚いています」
――藤波さんの経験の豊富さについてはどう思いますか?
ボウ:「フジは12年間も世界のトップクラスで戦っている中で、7度も2位となるほど常に前にいるライダーです。強敵ですし、危ない存在だと思っています」
――ボウさんが勝ったときのコメントは毎回、とても慎重なものでした。なぜですか?
ボウ:「チャンピオンを取るために慎重を期していたというよりも、僕自身がとてもナーバスになっていたので、タイトルのことはあまり考えたくなかったんです。それで一つひとつの大会で勝つことだけを考えながら走っていたわけです」
――2ストロークバイクから4ストロークバイクへの乗り替えをスムーズにさせたものは何だったと思いますか?
トニー・ボウ
藤波:「4ストロークに乗りかえて今年で3年目になりますが、やはり1年目から2年目のバイクがすごく変わりました。2年目から3年目のバイクも大きく変わりましたが、1年目から2年目の変化ほどではなかったですね。そういう意味で、1年目が一番大変だったと思うし、逆に今年のバイクは本当に乗りやすいと思います」
ボウ:「バイクの重量が昨年まで乗っていたベータよりも軽かったことが、一番よかったです。ぐっと乗りやすくなりました。バイク自体が扱いやすいので、4ストロークに乗り替えても、それほど難しくはありませんでした。僕自身、ベータに乗っていたときよりもたくさん練習をしたので、それだけ早くバイクに慣れることができたのだと思います」
――今年のバイクはどこが特によかったと思いますか?
ボウ:「パワーを抑えて、ゆっくり走れるところですね。特に滑りやすいところで、バイクの性能に頼れる感じでした」
藤波:「僕も同じです。今年のバイクはトニーが言うような方向に持っていったものでしたからね」
――現在はHondaだけが採用しているフューエルインジェクション(燃料噴射)ですが、その一番いいところはどう感じていますか?
藤波:「2段の状態になったステアケース(段差)の上りなどでも、エンジンがまったく“息つき”をしない(スムーズに回転が上がる)ことですね。インジェクションでない場合は、エンジンが熱くなったときに始動がしづらくなったり、全開にしたときに“息つき”したりすることがありますが、それらの問題をすべてインジェクションが解決してくれました。性能が一定している状態で走れることが一番大きいと思います」
ボウ:「僕もフジと同じ意見です」
藤波貴久
――藤波さんとボウさんのワークスマシンで今年から採用され、2008年モデルの市販車RTL250Fにも導入された「クランクケースブリージングジェット(※)」の効果は大きかったと思いますか? (※クランクケースにブリージングジェット(空気穴)を追加。この空気穴がオイルの排出性を向上させてフリクションを低減し、より穏やかな特性を生む)
藤波:「滑りやすいところでのフィーリングがよりよくなったことが、すごく大きいですね。ウエットな路面ですごい威力を発揮すると思います。こうしたフィーリングは、より2ストロークに近づいた感じですね。あまりエンジンブレーキがかからずに、ギクシャクしないで走りやすくなりました」
ボウ:「僕もクランクケースブリージングの効果は大きいと思います。スロットルをラフに扱っても、それをエンジンに対してダイレクトに反応させないところが気に入っています」
――ボウさんがHonda 4ストロークバイクでチャンピオンになったことは、ベルギーのエディ・ルジャーン以来23年ぶりの快挙です。RTL360で1982年から84年まで3年連続世界チャンピオンを獲得したルジャーンのことは知っていますか? また、当時の4ストロークとの違いは、何が一番大きいと思いますか?
ボウ:「実際の走りは見たことがないし、テレビやビデオで見たくらいなのであまりよくは知らないのですが、ルジャーンの名前は知っています。当時のバイクも見たことがないのですが、車体の重量が一番違うのではないかと思います。トライアルバイクは、重さ(軽さ)がすべてですからね。同じ4ストロークでバルブがあるということ以外は、全部が違うのではないかと思います」
――4ストロークバイクをコントロールする場合は、とりわけスロットルを開けすぎてはいけない、といわれています。このポイントについては、どのようにして克服したのですか? 特にフジガス(=スロットル全開)が売り物の藤波さんの場合は苦労したのではないでしょうか?
ボウ:「確かに4ストロークはスロットルを開けすぎてはいけないのですが、僕の場合は2ストロークに乗っていたときからあまり開けないで走っていたので、4ストロークに乗り替えてもそのまま乗れたという感じです。むしろ、ちょっと開けただけで前に進む点が気に入っていますので、苦痛ではなかったですね」
藤波:「僕にとっては、苦痛でしたね(笑)。スロットルを開けるとダメ、という感じで一時はナーバスになり、ずいぶん悩みました。最初は、スロットルを開けなくても前に進むような、ヘンな感じでしたね」
――ボウさんが来年も今年のような成績を出すことは、可能だと思いますか? そしてまた、そのために必要なことは何ですか?
ボウ:「来年も今年のような成績を出したいと思っていますが、それはとても難しいことだと思います。僕に必要なのはフジと一緒に練習をすることです。彼にはまだまだ学びたいことがいっぱいありますからね」
藤波:「僕も同様にトニーから学ぶことはたくさんあるので、これからも一緒に練習したいと思っています」
――藤波さんが来年チャンピオンになることは可能だと思いますか?
RTL260F
ボウ:「可能性はあるけれども、僕としては勝ってほしくないですね。僕がチャンピオンで、フジは2位がいいです(笑)」
藤波:「僕はチャンピオンになれると信じているし、トニーは2番がいいですね(笑)」
――ところで、7度世界チャンピオンになったジョルディ・タレスさんやランプキンさんの記録は、越えられると思いますか?
ボウ:「まだ来年のこともどうなるかわからないので、彼らの記録を越えられるかどうかなんて、わからないですよ。とにかく来年、チャンピオンを取ることが大事です」
藤波:「僕にとっては、これから6回以上チャンピオンになるのは不可能だと思います。でも、少なくともあと1〜2回は取りたいですね」
――将来については、どのような夢や計画がありますか?
ボウ:「将来もバイクにたずさわっていきたいですね。4輪のラリーなどもやってみたいと思っています。実は昨日も、4輪のレースに出場していたんですよ」
藤波:「僕はトライアルのスクールをしたり、チームを作って、世界に通用する日本人ライダーを育てたいですね。日本でも若手の育成は行われていますが、もっと本格的にやりたいです。こちら(ヨーロッパ)にどんどん来たりしてね。もちろんお金がかかることなので、スポンサーが必要になりますが……。ぜひやりたいと思っています」
――さて、国別対抗世界選手権のトライアル・デ・ナシオン(9月30日/イギリス・マン島で開催)については、どう考えていますか?
ボウ:「今年については当然、フジ、小川友幸(Honda)、黒山健一(ヤマハ)、野崎史高(ヤマハ)といういいライダーばかりで出場する日本が、一番の強敵だと思っています。セクションが難しい場合にはスペインが有利になると思いますが、セクションが易しい場合は日本が強敵になるでしょう」
藤波:「今年は、去年と同じ3位ということは考えられないですね。最低でも2位、やっぱり1位になりたいと思っています。3位に落ちることがあればかなりヤバイと、それくらいのプレッシャーを持って戦いたいし、募金をしてくださっているみなさんの応援に応えたいと思います。」
――藤波さん、ボウさん、ありがとうございました。最後に、ボウ選手の言葉や心情などを達者なスペイン語でていねいに翻訳し解説してくれた、藤波選手に深く感謝します。
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