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新型4ストロークマシンでV2を目指す、藤波貴久選手。だが、彼にとって今シーズンは、波瀾万丈の展開となっている。
全10戦が組まれた2005年トライアル世界選手権シリーズ、第4戦アメリカGPでの藤波選手は、1日目はチームメイトのドギー・ランプキン選手に次いで2位となった。しかし、2日目は藤波選手が待望の今季2勝目を獲得。このシーズン初めて、藤波選手がポイントランキングトップに躍り出た。
続く第5戦アンドラGP(※1日制)での藤波選手は4位となり、ランキング2位に後退。この大会2位のランプキン選手が、再びランキングトップに返り咲いた。さらに、第6戦フランスGP1日目に5位となった藤波選手は、調子を取り戻せないまま、2日目はまさかの8位に転落。この時点で、藤波選手はランキング3位となり、ランキング1位のアダム・ラガ選手(ガスガス)に対しては、21ポイントの大差がついてしまった。残り4戦・6レースで、藤波選手が全レース優勝(20ポイント×6=120)したとしても、ラガ選手が全レース2位(17ポイント×6=102)となれば、ラガ選手に3ポイント及ばない。計算上では、藤波選手の自力V2は達成できないのだ。
こうして迎えた第7戦イタリアGP。1日目は、ラガ選手が勝って、4連勝。藤波選手は、惜しくも2位となった。この結果、ランキング1位のラガ選手と同3位藤波選手との差は、今季最大の24ポイント差にまで広がってしまった。いよいよ、もう後がない。これ以上は、絶対に負けられない。崖っぷちに追い込まれた藤波選手は、2日目に見事優勝し、今季3勝目を獲得。ラガ選手は4位、ランキング2位だったアルベルト・カベスタニー選手(シェルコ)は9位に転落した。これにより、藤波選手はカベスタニー選手を逆転して、ランキング2位に浮上。ラガ選手との差を、17ポイント差に縮めることに成功して、V2への望みをつないだ。
第8戦イギリスGP(※1日制)は、2ラップする競技の1ラップ目からトップに立ち、連勝を狙う藤波選手だった。ところが、2ラップ目に地元イギリスのランプキン選手が逆転して、今季3勝目を獲得。藤波選手は、僅差で2位となった。とはいえ、この大会で再び4位となったラガ選手とのポイント差を、藤波選手がさらに大きくつめた。その差は、13ポイント。残り2戦・3レース。藤波選手がすべて勝ち、ラガ選手がもう1回4位となれば、両選手は同ポイントでトップに並び、優勝回数の多さで藤波選手が大逆転チャンピオンとなる計算だ。藤波選手は残り全レースに優勝することに集中する他ない。
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7月31日に行われた第8戦イギリスGPから、9月3〜4日の第9戦ドイツGPまでは、一ヶ月のインターバルがある。この夏休みを利用して帰国した藤波選手に心境を語ってもらった。
「日本に帰ってから、トライアルの練習やテストはせずに身体を休めたので、精神的にもリラックスできました。ヨーロッパに帰ったら当然、トライアルに専念するので、(この休みは)問題はないと思います。バイクもだいぶ完成されてきているので、イギリスGPの仕様から大きく変わることはないと思います。
イギリスGPは、結果として負けてしまいましたけれど、ライディング的には悪くなかったし。バイクは自分の気に入った感じに仕上がっているので、不満はないです。もちろん、これからも開発していかないといけないですし、僕からも毎レース、バイクについてコメントしています。」
−大会前日に雨が降って路面がぬかるんだイギリスGPについて
「4ストロークはグリップが良いから有利、というのは、あると思いますが。セクションが難しくなれば、ライダーとバイクの差が、出やすくなる。その難しい大会で、ランプキン選手と僕が2人でワンツー・フィニッシュして、4ストロークが上位に食い込むことが出来た。バイクのポテンシャルも、自分のポテンシャルもともに上がってきているので、2ストローク勢と互角に戦えると思います。」
−5位&8位となった第6戦
「フランスGPは、インドア的なセクションが多くて、苦戦しました。その点、第9戦ドイツGPの会場は黒土の林、という感じで、世界選手権らしいナチュラルなセクションが多いのではないかと思います。最終戦ベルギーGPも森の中の会場で、インドア的ではないと聞いているので、ちょっと安心していますが。もちろん油断はしていません」
今季これまでの12レースで3勝している藤波選手の勝率は、25%。それを、100%にするのは、至難の業といえるかもしれない。しかし、不可能と思えることでも、可能にしてしまうことがある。それが“トライアル”であり、それこそがレースの面白さでもある。もちろん、冷酷に結果が出るのもまた、レースである。それは、一昨年まで辛酸をなめ続けてきた藤波選手自身が、最もよく知っていることだろう。
「とにかく、僕が勝つしかないです。ラガがどう落ちていくかも、彼次第です。ラガにどういう風にプレッシャーを与えるか、というよりも、僕が勝てば当然彼のプレッシャーになると思います。僕は昨年、チャンピオンが取れたので、ラガよりは有利だと考えています。チャンピオンを取ったことがあるか、ないかで、絶対に違うと思う。精神的には、僕の方が楽かな、と思っています。
まず、ドイツで勝つしかない。トライアルの場合は、コースの状態も天候によって大きく変わってくる。3連勝するのは、すごく難しいことでもある。ラガや僕が、3位や4位に落ちる可能性も、大きいと思います。表彰台を逃すことも、あるでしょう。ランプキンやカベスタニーもいるし、今年は4〜5人の争いが、すごい炸裂している感じですから。順位が、何時入れ替わってもおかしくない。それが良い面もあるだろうし、逆の面もあるかもしれない。僕としては、自分が勝って、他のライダーが自分とラガの間に入ることを願うしかないですね。
確かに、精神的に厳しい闘いになると思うし、それはすごく大きいと思います。でも僕は、ラガよりも精神的に強いのではないかと思う。僕は長年ランキング2位の苦しい時があって、そこから脱出するということも1回経験していますからね。これからも当然、精神的な勉強はしないといけないですけれども、ラガに勝つ自信はあります」
レースに、“絶対”という言葉はない。藤波選手が、この試練を乗り越えて、V2を成し遂げる。その可能性は、あるといえるのだ。
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