Honda
モータースポーツトライアル世界選手権「4V2」
第1話「開幕戦から日本GPへ、挑戦の時」

 7年連続トライアル世界チャンピオン、ドギー・ランプキン選手にタイトルを取り続けることの難しさについて質問した時、彼はこう答えてくれた。
「チャンピオンになるためにはものすごい努力が必要だが、100%を出し切ればそれなりの結果が返ってくる。そしてまた、チャンピオンであり続けるためには、さらに努力しなければならない」。
 
 100%を出し切ることがモットーのランプキン選手だが、1度目よりも2度目、2度目よりも3度目と、タイトルを重ねるごとに、その100%をさらに高めていったと言う。そうした困難を7度も乗り越えて王座に君臨し続けたランプキン選手の強さは、名実ともに過去最強と言える。
 
 そのランプキン選手を昨年破り、日本人として初めてチャンピオンを獲得した藤波貴久選手。
 
 Hondaは今年、より困難なチャレンジを開始している。藤波選手も、9年間乗り慣れた2ストローク・マシンから、今年は新型4ストローク・マシンに乗り換えることとなった。市販されているマシン(Montesa COTA 4RT/Honda RTL250F)をベースにしたワークスマシンでのチャレンジは、この冬のインドアトライアル世界選手権からだった。
 
 インドア開幕戦、イギリスGP(1月8日/シェフィールド)。藤波選手は3位表彰台をゲット。「4ストロークでも勝てる、確かな手応えをつかみました」。
 
 4ストロークと2ストロークの混走について、FIM(国際モーターサイクリズム連盟)は当初、『4ストロークは450ccまで、2ストロークは250cc』と、排気量の差をつけることを提案していた。しかし、このハンデは結局認められないまま、今年の世界選手権・開幕戦を迎えることになる。この点について、藤波選手は、「単に排気量を増やせばいいわけではなく、4ストの特性を生かすことが大事」と語っていた。
 
 確かに、ロードレースやモトクロスのようなスピードを競うレースとトライアルとは違うかもしれない。しかし、インドアの結果を見た限りでは、2スト側(※300cc前後の排気量まである)にハンデをつけた方がフェアになるのでは?とも思えるところだった。
 
 そもそもFIMは、2005年からマシンをすべて4ストローク化することを提案していたが、ヨーロッパ各メーカーの足並みはそろわなかった。今年の開幕戦時点で、4ストのトライアルマシンはMontesa Hondaだけ。シェルコはプロトタイプを発表しているものの、世界選手権に出走するのは第5戦以降になるという。他の3メーカーの4ストローク・マシンは、まだ姿を見せていない。スコルパは6月のフランスGPで発表するようで、ガスガスは早ければ年末に見せられるかもしれないということだが、そうした見通しはまだ聞かれないベータを含めて、4ストローク・マシンが出そろうまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。
 
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 ともあれ開幕した、トライアル世界選手権。大きなルールの変更はないが、今年は全10戦のうち5戦が従来通りに2日間開催され、残りの5戦は1日で行われることになっている。
 
 第1戦は4月17日、ポルトガルのパンピローサ・ダ・セラで開催された。1日開催の開幕戦では、なんと、ランプキン選手が、新型4ストローク・マシンで見事初優勝を獲得。藤波選手は、まさかの5位となってしまった。その敗因と、その後についての抱負を、藤波選手は以下のように語っている。
 
「1ラップ目は身体が硬かった。2ラップ目は身体が動いて調子も良かったので、それを今後は1ラップ目から出して成績につなげたい」
「“ゼッケン1番”は、気にしないようにしていたがプレッシャーを感じて、身体が硬くなっていました。今後は挑戦する気持ちをもっと持っていきたい」
「バイクのポテンシャルは、勝てることが証明されたし、まだ第1戦と僕は考えています。本当に最悪な走りで5位になったけれど、去年もこんなようなことが1〜2回あってもチャンピオンを取れたから。これから勝っていけば逆転できると思います」
 
 第1戦の1週間後、再び1日開催で行われた第2戦スペインGP(4月24日/タラゴナ)は、地元スペイン勢が表彰台を独占。4ストローク・トリオの中では、フレイシャ選手が3位表彰台に輝いたものの、藤波選手は4位、ランプキン選手は5位となった。第2戦終了現在のポイントランキングは、ラガ選手(37ポイント)がトップに立ち、2位カベスタニー選手(32pt)、3位ランプキン選手(31pt)、4位フレイシャ選手(25pt)、5位藤波選手(24pt)の順。ディフェンディングチャンピオンの藤波選手は、序盤戦から大きく出遅れてしまうことになった。
 
 この状況を、藤波選手自身はどう捉えているのだろうか。スペインから帰国して、第3戦「ウイダー日本グランプリ」(5月21-22日/ツインリンクもてぎ)に向かう、藤波選手の生の声を聞いてみた。
 
「第2戦スペインGPは結局、自分の波に乗れませんでした。ランキング5位で日本に帰ってきたことはショックだけれど。調子に乗れなかったのが、2戦とも1日開催の大会だったことは、自分にとって良かった。日本GPは2日間だから、第1戦と第2戦の分を取り返せるくらいの2日間だと思います。日本に帰ってリラックスすることができたし、自分のペースを取り戻せば、まだまだ逆転できる。
 
 昨年の日本GPは2日間とも、1ラップ目は良かったけれど2ラップ目に崩れて、100%ではなかったから、今年は2日間とも100%出し切って勝ちたい。去年は第3戦日本GPと第4戦アメリカGPで4連勝して波に乗ったので、今年も日本GPでトップに追いつき、アメリカGPで追い抜く、という感じで自分のペースをつかみ今シーズンの波に乗りたい。
 
 基本的にバイクが負けているところはないので、ライダー自身が自分の力を発揮できなかったり精神面で弱いと、それが結果に出ると思います。“今年は4ストロークと2ストロークの対決”と言われてもピンとこないし、僕は、“2ストロークを上回る4ストローク”と考えているから。僕が力を発揮すれば、V2は実現できると信じています」
 
 さて、新型4ストローク・マシンで2年連続チャンピオン獲得に挑む、藤波選手は見事反撃に転じることができるか。「ウイダー日本グランプリ」は、“4V2”の行方を占う上でも、きわめて重要な大会になることは間違いない。
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