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GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.109 Rd.7 #17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTを3位表彰台に導いたレース終盤の雨 残る4台のNSX CONCEPT-GTは細かなミスに泣く

 第7戦オートポリス大会では#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT(塚越広大/武藤英紀組)を駆る塚越選手がレース終盤に激しい追い上げを見せ、3位表彰台を獲得しました。

 8番グリッドからスタートした#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTが5番手に浮上したのは48周目のこと。その直後の50周目、4番手を走る36号車と#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTのギャップは19.3秒、3番手を走る38号車とは23.5秒のタイム差がありました。残り周回数は15ラップですから、1ラップで1秒ずつタイムを削っていっても4番手にさえ届きません。普通に考えれば表彰台は絶望的な状況です。

 それでも塚越選手はまったく諦めませんでした。曇り空の下で始まった決勝では、レース前半からサーキットの一部でポツポツと雨が降り始めていましたが、路面が多少でも湿るようになってきたのは終盤に入ってからのことです。すると、路面上のタイヤ滓がタイヤの表面にこびりついてグリップ力の低下を招くピックアップの症状がそれまでよりも軽減され、塚越選手は本来のパフォーマンスを発揮できるようになりました。

 これをさらに後押ししたのが、滑りやすい路面で優れたトラクション性能を生み出すNSX CONCEPT‐GTのミッドシップ・レイアウトでした。これらふたつと塚越選手の奮闘が相乗効果を生み出し、ライバルを2〜3秒も上回るラップタイムで周回を重ねていった結果、塚越選手は57周目に36号車とコンマ1秒差まで迫ると、その直後のストレートエンドでライバルに競り勝って4番手に浮上したのです。

 この間、3番手を走る38号車はペースアップを図り、58周目の時点で2台の間隔は13.2秒差となっていました。残りは7周。通常であれば、3番手とのギャップを多少狭めて4位フィニッシュというのが現実的なシナリオです。ところが、残り2周となった63周目に38号車を1.3秒差まで追い詰めた塚越選手は、続くファイナルラップの4コーナーで巧みなライン取りを見せてライバルを攻略すると、そのままフィニッシュラインまで走りきって3位表彰台を手に入れたのです。

 実をいうと、#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTは8位よりも上位で予選を終えることが期待されていました。けれども、予選前の公式練習で20分間にわたって赤旗が提示され、この影響で武藤選手が走行する時間がほとんどなくなったため、武藤選手はほとんどぶっつけ本番の状態でQ2に挑み、これが予選8位に終わる遠因となったのです。

 ただし、決勝レースで第1スティントを担当した武藤選手は、安定したペースで周回しつつもときに鋭い動きを見せてライバルをオーバーテイクし、スターティンググリッドよりふたつ上の6番手で後半を担当する塚越選手につないでくれました。この、前半戦での武藤選手の奮闘がなければ、塚越選手が3位まで追い上げることもできなかったでしょう。その意味では、武藤選手と塚越選手が力を合わせて勝ち取った表彰台だったといえます。

 #17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTに続く7位でフィニッシュしたのは#15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GT(小暮卓史/オリバー・ターベイ)でした。#15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GTは公式練習でHonda勢トップの1分33秒310を記録しましたが、公式予選ではアタックに失敗して12番グリッドからのスタートとなります。そして決勝レースでは、早めにピットストップを行うことでコース上の混雑を避けるとともに、タイヤをミディアムコンパウンドからハードコンパウンドに交換する作戦が図に当たり、後半のロングスティントを担当した小暮選手はぐんぐんと順位を上げて4ポイントを獲得しました。

 これで#15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GTは7戦中6レースで入賞しましたが、今回の予選結果は彼らの本当の実力を反映したものとはいえません。その意味では、予選アタックでのミスが改めて悔やまれます。

 5番グリッドからスタートした#64 Epson NSX CONCEPT-GT(中嶋大祐/ベルトラン・バゲット組)は10位入賞を果たしました。前半を担当したバゲット選手は、スタート直後こそ上位陣と肩を並べるラップタイムで周回していましたが、その後はペースが乱れるようになります。この状況は中嶋選手に代わってからも変わらず、これが予選より5つポジションを落とす要因となりました。第5戦鈴鹿大会と第6戦菅生大会で3番グリッドを獲得したことからもわかるとおり、彼らの一発の速さはもはやトップクラスです。次なる課題は、この速さを決勝レースで安定して発揮できるようにすることでしょう。

 #8 ARTA NSX CONCEPT-GT(松浦孝亮/野尻智紀組)は13番グリッドから次第にポジションを上げ、21周目には7番手まで挽回します。ところが、33周目にコースアウトして順位を落とすと、その後は流れを取り戻すことができず、14位でフィニッシュしました。

 ポイントリーダーと2点差のランキング2番手でオートポリス大会に臨んだ#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/伊沢拓也組)は、49kgのハンディウェイトに苦しめられて予選、決勝ともに11位に終わりました。第6戦菅生大会終了時に51ポイントを獲得していたポイントリーダーは、ルールに従って燃料リストリクターの絞り込み+1kgのハンディウェイトで本大会に参戦。予選でポールポジションを獲得し、決勝でもウィナーと僅差の2位でフィニッシュしたのとは好対照をなしたといえます。この結果、ライバルとのポイント差は17点まで広がったので、最終戦もてぎ大会では残念ながら自力優勝の可能性が消えてしまいました。この点は返す返すも残念です。

 全般的にいって、#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTが本領を出し切って3位表彰台に上ったのを除くと、残る4台はいずれも細かなミスのために上位入賞のチャンスを逃しました。いずれにせよ、泣いても笑っても残るは最終戦のみ。まずはこの1戦で栄冠を勝ち取るべく全力を尽くしますので、引き続き5台のNSX CONCEPT‐GTに熱い声援を賜りますよう、お願い申し上げます。