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GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.95 Rd.8 もてぎレビュー 絶対的なアドバンテージを築けなかった2014年シーズン 山本尚貴選手がシリーズ4位に食い込む

最終戦もてぎ大会が終わりました。例年通りシーズン最後となるこのレースはハンディウエイトが完全に撤廃されるほか、レース距離が通常のシリーズ戦より50km短い250kmとなりました。しかも、その舞台となるツインリンクもてぎは、追い越しが難しいことで知られています。つまり、ハンディウエイトやレース戦略とは関係なく、マシンが持っている本当の速さだけで勝負が決まると言っていいでしょう。

この最終戦で、デビューシーズンのNSX CONCEPT-GTは、#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/伊沢拓也組)が予選で3番手、決勝でも3位という結果を残しました。これは、手放しで喜べる成績ではもちろんありません。あえていえば平均的な結果であり、開発者としては明確なアドバンテージが得られなかったことが、残念といえば残念でした。これについては、後ほど改めてご説明することにしましょう。

一方で、今回もタイヤの性能がレースの成績を大きく左右しました。#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTを含め、予選でトップ3を占めたのはいずれもミシュランタイヤ装着車です。ダンロップタイヤも好調で、ドライコンディションの中、#32 Epson NSX CONCEPT-GT(中嶋大祐/ベルトラン・バゲット組)は6番グリッドを手に入れました。#32 Epson NSX CONCEPT-GTは前戦タイ大会では5番グリッドを獲得していますが、初開催のタイ大会ではなく、だれもが走り慣れたもてぎで6番グリッドを獲得した意義は大きいと考えます。

対するブリヂストンユーザーは、ライバル勢の2台が4番グリッドと5番グリッドを手に入れましたが、Honda勢では#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT(塚越広大/金石年弘組)の予選8番手が最上位でした。もちろん、その原因をタイヤだけに求めるのはフェアではありませんが、期待が大きかっただけにやや残念な結果だったのは事実です。このほか、ブリヂストンタイヤ装着のNSX CONCEPT-GTでは、#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(小暮卓史/武藤英紀組)は予選9番手、#8 ARTA NSX CONCEPT-GT(ヴィタントニオ・リウッツィ/松浦孝亮組)は12番手という成績に終わりました。

決勝は、レース距離がいつもより50km短いだけなのに、まるでスプリントレースのような素早い展開が繰り広げられました。特に目立った活躍を示したのが#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTで、前半を担当した山本選手はレース序盤から2番手を走るライバルを追い立てていき、やがてそのギャップは1秒を切るまでになりました。自力で2番手に浮上するのは時間の問題でしたが、その前に2番手を走るライバルにペナルティーが科せられ、#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTに乗る山本選手は無理をすることなくポジションを1つ上げることに成功します。

 

間もなく#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTはルーティンのピットストップを行い、ドライバーは山本選手から伊沢選手に交代しました。今シーズンはヨーロッパに本拠を移して、フォーミュラカーレースのGP2に参戦してきた伊沢選手にとって、NSX CONCEPT-GTを走らせるのは今回が初めて。しかも、GTレースからはまるまる一年間遠ざかっていました。このため、わずかな不安がなきにしもあらずでしたが、前日の公式練習と公式予選ではブランクを感じさせない走りをみせてくれたので、まだレースの折り返し地点には届いていない段階でしたが、レース展開を考慮してやや早めのドライバー交代に踏み切りました。

しかし、すべての作業を終えて発進しようとしたところで、伊沢選手はエンジンをストールさせてしまいます。それでも慌てずにエンジンを再始動させてレースに復帰していったのはさすがでしたが、これでおよそ20秒をロスし、実質的な5番手に後退することになったのです。

けれども、ここからの伊沢選手の奮闘ぶりは見事と言うほかありませんでした。ただちに3番手争いを繰り広げる目の前の2台に追いつくと、45周目にまず1台を攻略。続く46周目にはもう1台も仕留め、3番手に浮上したのです。私は冒頭で「もてぎは追い越しが難しい」と申し上げましたが、そんなことはおかまいなしに、伊沢選手は目を見張るような快進撃を演じたのです。その後も周囲を走るライバルより1秒ほども速いラップタイムで2番手を追い上げていきましたが、最後は時間切れとなって3番手のままチェッカーフラッグを受けました。それでも、46周目に10.2秒差だった2番手とのギャップを、フィニッシュまでの7周で2秒まで削り取ったその手腕は見事と言うしかありませんでした。

#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTの活躍が目立つ一方で、残る4台のNSX CONCEPT-GTはいずれも苦戦を強いられました。まず、#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTは8周目にブレーキトラブルが発生してピットインを余儀なくされ、結果的に5周後れの15位となりました。このときに起きたトラブルは、実は彼らがタイ大会で経験したのと同じ種類のもので、発生した個所も全く同じでした。その原因が部品の設計によるものなのか、それともトラブルを起こした部品そのものによるものなのかは不明ですが、ブレーキは共通部品に指定されているため、自分たちで別の製品に変えるわけにもいかず、対応に苦慮しています。

#32 Epson NSX CONCEPT-GTはレース後半に吸気系の配管が外れるトラブルが発生し、過給圧が上がらなくなったために緊急ピットインを行いました。これにともなう後れが響いて、彼らは4周後れの14位でフィニッシュ。予選で上位グリッドを獲得していただけに、この結果は残念で仕方ありません。

9番グリッドからスタートした#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTはタイヤかすがトレッドの表面にこびりつく、いわゆるピックアップの症状がレース前半に発生し、激しいバイブレーションに見舞われました。このためペースが上がらなかったほか、早めのピットインを強いられることになり、実力を発揮しきれないまま8位に終わりました。

シーズン後半に向けて尻上がりに調子を上げてきた#8 ARTA NSX CONCEPT-GTは、今回大きなトラブルには見舞われなかったものの、ペースが上がらずに12位でチェッカーフラッグを受けています。

それともう一つ、先ほども申し上げた通り、NSX CONCEPT-GTはライバルと互角のパフォーマンスを手に入れていたものの、それを突き放すほどの速さは発揮できなかったと捉えています。例えばミッドシップレイアウトの特長を生かしてターンインが鋭かったとか、トラクションの点でライバルをしのいでいたなど、明確なアドバンテージが見いだせればよかったのですが、残念ながらそこまでライバルを圧倒するスピードを身につけていたとは言えません。この点は開発者として深く反省しているところです。

なぜ、こういった事態に陥ったのでしょうか? 率直に言って、Hondaだけが採用するミッドシップレイアウトとハイブリッドシステムに関して、開発すべきテーマが非常に多く、これらを完全に自分たちのものにできないまま開幕戦を迎えたことがその要因として挙げられます。結果的にシーズン半ばまでにはその遅れを取り戻し、ライバルと互角のスピードを手に入れることに成功しましたが、あくまでもそれは“互角”であって、アドバンテージとはなりえませんでした。このため、チャンピオン争いでもリードを築けないまま最終戦を迎え、結果的にタイトルを取り逃すことになったのです。応援してくださった皆さんには、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

ただし、さまざまな苦難を乗り越えてきたおかげで、今シーズンは多くの収穫がありました。これらを来年の開発に反映させることができれば、来季はより力強くシリーズを戦っていけると確信しています。

また、マシン開発だけでなく、チーム体制、ドライバーラインナップの面でも弱点がなかったかどうか、現在、洗い出しを行っている最中です。こうした作業から問題点が浮かび上がった場合には、やはり来シーズンに向けて体制の強化を図る考えでいます。

今シーズンの流れ、そして来季に向けた準備については、現場レポートのシーズン総集編としてご紹介する予定ですので、そちらも楽しみにしていてください。

重ね重ね、今シーズンもHondaに熱い声援をお送りいただき、本当にありがとうございました。来シーズンこそはタイトル奪還に向けて全力を投じる覚悟でいますので、引き続きのご声援をどうぞよろしくお願い申し上げます。