モータースポーツ > SUPER GT > 松本 雅彦 GTプロジェクトリーダー 2014年シーズンへ向けての意気込み

SUPER GT

松本 雅彦 GTプロジェクトリーダー

4年ぶりに復活する“NSX”とともに挑む2014年のSUPER GT。
Hondaの誇り高きフラッグシップ・スポーツカーをベースに、
新時代に相応しいGTマシンを作り上げた開発陣はどのような思いで新シーズンを迎えようとしているのか?
Honda GTプロジェクトを率いる松本 雅彦が、
新型「NSX CONCEPT-GT」の開発コンセプトと、2014年に向けた熱い意気込みについて語る。

テストの様子を見守る松本雅彦 GTプロジェクトリーダー
テスト走行するNo.100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT
ピットレーンでメカニックに押されるNo.100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT
テスト走行するNo.32 Epson NSX CONCEPT-GT
テストを見守るケーヒン リアル レーシングの金石 勝智監督と金石 年弘選手
テスト走行するNo.17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT。背後にはNo.32 Epson NSX CONCEPT-GTの姿も

2014年シーズンのHonda GTプロジェクトでいちばん注目していただきたいのは、NSXが4年ぶりに戻ってくることにあります。NSXはHondaのフラッグシップ・スポーツカーであると同時に、私たちの“元気”を象徴するモデルでもあります。この大切なクルマでシリーズ・タイトルを獲得することが、今シーズンは私たちの最大の目標となります。

新型NSXは国内でも来年には発売される市販モデル。そのコンセプトモデルをSUPER GTでひとあし先にデビューさせるわけですから、これに対するファンの皆さんの期待は非常に大きいと認識しています。実際にそういった声はどこに行ってもよく聞きますし、展示用のコンセプトカーはどこに行っても引っ張りだこで、大変な人気を博しています。

これだけ注目度の高いモデルのレーシングカーを開発するとなれば、当然、私たちにもプレッシャーがのしかかってきます。ただし、私たちはこの重圧に押しつぶされることなく、逆にこれをバネとして、「皆さんから愛されるNSX」「レースで結果を残せるNSX」をテーマに、これまで開発を行なってきました。もちろん、エンジニアである以上、私たちはどのモデルの開発にも全力を投じてきましたが、こういった背景があったために、いつも以上に力を入れて新型「NSX CONCEPT-GT」の開発に取り組んできたのは事実です。これは私だけでなく、若手を中心とする開発メンバー全員が抱いていた思いでもあります。

ただし、そうした意気込みとは裏腹に、開発作業は困難を極めました。ご存じのとおり、2014年よりGT500クラスの車両規則は全面的に見直され、ドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)と多くの部分が共通化されました。この影響でモノコックもDTMと共通とされましたが、これはそもそもフロント・エンジン用に設計されたもの。それを、ミッドシップ・レイアウトのNSXに用いるのですから、思い通りにならない部分はたくさんありました。「重量配分の観点からいえば、このパーツはここにレイアウトしたい」「剛性を確保するには、こういう結合方法が望ましい」 そんなジレンマを幾度となく経験しましたが、実際にはレギュレーションの壁に阻まれて思うように作業を進められませんでした。

それでも私たちは、ひとつとして手を抜くことなく、いつも以上に時間を掛けて新型「NSX CONCEPT-GT」を設計しました。しかし、現状は「ここからだったらスタートが切れる、ぎりぎりのライン」に到達しただけで、必ずしも満足のいくレベルに到達しているわけではありません。その意味からいえば、いまからシーズンが始まるまでの間の開発が非常に重要ということになります。

ところで、新しい車両規則にはやや心配な点がいくつかあります。これはマシン解説の部分でも申し上げたことですが、新しい車両規則に従ってマシンを設計すると必ずダウンフォースが大きめとなり、しかもマシン全体の空力効率が決して高くないこともあって空気抵抗、つまりドラッグはこれまで以上に大きくなります。このためコーナリングスピードの点では非常に有利ですが、反対にストレートスピードはあまり伸びなくなる恐れが出てきます。ここで心配になるのが、従来と同じようにGT300クラスの車両をスムーズにオーバーテイクできるかどうか、という点。これまでGT500クラス車両はGT300クラス車両よりも最高速度の伸びがよく、このためGT300クラスの車両はサーキットのストレート部分で無理なく追い越すことができました。しかし、かりに両クラスの最高速度に大きな開きがなくなった場合、GT500クラス車両はコーナーでGT300クラス車両を追い越すことになりますが、これはリスキーなので、できれば避けたい状況です。

もっとも、私たちはまだ単独走行でのテストしか行っていないので、複数台がまとまって走る実際のレースにおいてどの程度まで最高速度が伸び、GT300クラスとの力関係がどうなるのかについては、まだ読み切れない部分が残っています。これはレースの流れを大きく左右する恐れがある問題だけに、今後の動向が注目される点です。

もうひとつの心配事は、こちらもマシン解説の項目でも触れたとおりピットストップに関する問題です。新型車両はドライバーの安全性を向上させた影響で乗降性が低下しており、私たちのテストではドライバー交代に45秒ほどを要することが明らかになりました。従来はドライバー交代、給油、タイヤ交換のすべてを30秒ほどで終わらせていたので、これは大きな違いとなります。このため、今シーズンは給油に流量制限をかけ、慌てなくともドライバー交代ができる環境を整えることが検討されています。急いでドライバー交代を行なった結果、シートベルトがしっかり着装されていないようでは本末転倒です。したがって、ピットストップについても好ましい解決方法が見つかることを強く期待しています。

いずれにせよ、私たちの目標は新型「NSX CONCEPT-GT」の投入初年度にタイトルを勝ち取ることにあります。私がGTプロジェクトリーダーに就任して3年目。過去2シーズンもやはりシリーズ・チャンピオンを目標に戦ってきましたが、あと一歩のところで実現できていません。しかし、今季は是が非でもこの目標を達成させるつもりなので、ファンの皆さんには5台の新型「NSX CONCEPT-GT」に熱い声援を送ってくださいますよう、心からお願い申し上げます。