SUPER GT 2013 GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.76 富士スプリントカップ・プレビュー HSV-010 GTで挑む最後の戦い 富士スピードウェイにおける過去最高のパフォーマンスを目指す

 SUPER GTの公式戦は最終戦もてぎ大会で幕を閉じましたが、私たちにはもう1戦残っています。エキシビジョンレースとして11月22日(金)〜24日(日)に開催される富士スプリントカップが、シーズン最後の戦いとなります。しかも、2014年からHondaは新型NSXをSUPER GTに投入するので、今回がHSV-010 GTとともに歩んできた4シーズンの締めくくりでもあります。そこで富士スプリントカップでは、HSV-010 GTの集大成ともいえる戦いを皆さまにご披露したいと考えています。

 「HSV-010 GTは富士スピードウェイを苦手としている」 。これはこの現場レポートでも何度か記してきたことですが、たゆまぬ開発を続けてきた結果、状況は大きく変わりました。特に、シーズン前に行ったサイドラジエーターからフロントラジエーターへの大手術、サイドエキゾーストの採用、そしてエアロダイナミクスのさらなる煮詰めにより、2013年モデルのHSV-010 GTは大きな進化を果たし、これに歩調をあわせて富士でのパフォーマンスも大幅に改善されました。

 とはいえ、シーズンの早い段階で迎えた第2戦富士大会では、さまざまな“タマ”はすでに投入していたものの、まだそれらのパフォーマンスをフルに引き出す熟成という面では不十分な部分もあり、予選では#18 ウイダー モデューロ HSV-010(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)の8番手、そして決勝では#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/小暮卓史組)の7位が最上位と、目立った戦績を収めることはできませんでした。

 これに対し、秋に行われた第6戦富士大会の予選では#18 ウイダー モデューロ HSV-010が3番手、#100 RAYBRIG HSV-010が4番手、決勝では#17 KEIHIN HSV-010(塚越広大/金石年弘組)が2位と、ライバルとそん色のない成績を収めています。その一方で、このときはシーズン終盤に差しかかっており、#18 ウイダー モデューロ HSV-010は80kg、#100 RAYBRIG HSV-010は74kgと重いハンディウエイトを課せられており、実力を遺憾なく発揮したとは言いがたい状況でした。

 しかし、言うまでもなく富士スプリントカップではハンディウエイトを課せられません。しかも、100kmとレース距離が短く、途中のピットストップも義務づけられていないため、マシン本来のパフォーマンスを発揮しやすい条件が整っています。そういう意味からも、富士スプリントカップでは、これまで富士スピードウェイではお目にかけることができなかったトップクラスのスピードを、皆さまにご披露できるものと楽しみにしています。

 では、HSV-010 GTにとって最後のレースとなる富士スプリントカップでどのような戦いが期待できるのか、1台ずつ順に見ていきましょう。

 まずは#100 RAYBRIG HSV-010の伊沢選手と小暮選手ですが、今シーズンの前半戦は抜群の成績を残しながら、中盤以降はさまざまな不運に見舞われ、ランキング10位と予想外の結果に終わってしまいました。その巡り合わせの悪さは“不運”の一言では片付けられないほど根が深く、小暮選手も個人的にかなり気にしているとの話を聞いています。しかし、小暮選手も伊沢選手もHondaの中では文句なしに“エース級”のドライバーです。100kmで終わる富士スプリントカップでは不運の入り込む余地もあまりないでしょうから、この2人には優勝を目指してレースに挑んでほしいと思います。特に2011年のレース2で優勝したこともある伊沢選手には大きな期待がかかります。

 山本選手とマコヴィッキィ選手というフレッシュなコンビ、そしてHondaにとって初採用となるミシュランタイヤを装着してシーズンに臨んだ#18 ウイダー モデューロ HSV-010も、シリーズ戦では期待通りのパフォーマンスを示してくれました。とりわけ夏場の鈴鹿1000kmで発揮した圧倒的なスピードは非常に印象的でした。また、SUPER GT参戦4年目を迎えた山本選手は格段に安定感を増し、チームメートのマコヴィッキィ選手はこれがデビューシーズンであることが信じられないほどの速さを示してくれました。当然、富士スプリントカップでも上位争いを演じてくれるものと考えています。

 今シーズン、チャンピオンと2点差でランキング2位となった#17 KEIHIN HSV-010の塚越選手と金石選手にも大きな期待がかかります。しかも、彼らはシーズン終盤に3戦連続で表彰台に上っています。富士スプリントカップでもこの勢いを保ち、是非とも表彰台を勝ち取ってほしいものです。

 第4戦SUGO大会で優勝したことからも分かる通り、今季の#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/松浦孝亮組)はマシンの仕上がりという面で大きな進歩を遂げました。シーズン中には何度か不運にも見舞われましたが、富士スプリントカップではそういったうっぷんを晴らすような快走を期待しています。

 タイトル獲得に期待がかかっていたもう一台の#18 ウイダー モデューロ HSV-010は、10番グリッドから懸命な追い上げをみせましたが、やはりもてぎでのオーバーテイクは容易ではなく、結果的に7位でフィニッシュしました。

 #32 Epson HSV-010(道上龍/中嶋大祐組)は昨年2度表彰台に上っていながら、今季は入賞が2回だけという残念な結果に終わりました。その最大の理由は、タイヤと路面コンディションのマッチングに課題を残していた点にあります。事実、彼らはウエットコンディションでこれまで何度も侮りがたいパフォーマンスを発揮してきました。この季節の富士スピードウェイでウエットレースとなる確率は決して低くありません。是非とも、彼らの本当の実力を存分に発揮してほしいと思います。

 繰り返しになりますが、実戦に挑むHSV-010 GTの姿を見られるのは、富士スプリントカップが最後のチャンスとなります。イベント2日目の11月23日は祝日でもあるので、どうかご家族やご友人とお誘い合わせの上、富士スピードウェイまで足をお運びください。皆さまのご来場を心よりお待ち申し上げております。