SUPER GT 2013 GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.75 Rd.8 もてぎレビュー HSV-010 GTの大いなる進化を確認できた最終戦#17 KEIHIN HSV-010(塚越広大/金石年弘組)が2位に入るもタイトル獲得はならず

 最終戦もてぎ大会が終わりました。結果はすでにご存じの通り、決勝で#17 KEIHIN HSV-010(塚越広大/金石年弘組)が2位に入りましたが、2点差でタイトルを逃しました。応援してくださったファンの期待にお応えできなかったことをまずはお詫び申し上げます。とはいえ、今回は塚越選手も金石選手も本当に精一杯の走りをしてくれました。そのファイティングスピリットは、まさに「これぞホンダの戦い方」と言えるもので、ピットで指示を出していた私も思わずジーンとさせられるほどでした。

 ここでレースの流れを簡単に振り返ってみましょう。Honda勢では塚越/金石組と、#18 ウイダー モデューロ HSV-010に乗る山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組が最終戦までに52点を獲得し、シリーズランキングの3位で並んでいました。ランキングトップはレクサスの38号車で58点、2位は同じくレクサスの36号車で54点でした。このため、塚越/金石組と山本/マコヴィッキィ組は38号車よりも7点多く、そして36号車よりも3点多くこの最終戦でポイントを獲得することが、タイトル獲得の必須条件となっていました。ちなみに、SUPER GTでは1位に20点、2位に15点、3位に11点が与えられるので、たとえ塚越/金石組もしくは山本/マコヴィッキィ組が優勝しても、38号車が2位に入ればタイトルは38号車のものとなります。つまり、この段階でチャンピオン争いは塚越/金石組や山本/マコヴィッキィ組だけではどうにもできない、“第三者の助け”が必要な状況になっていたといえます。

 それでも、公式予選では#17 KEIHIN HSV-010が2番グリッドを獲得。一方の38号車は予選4番手、36号車は予選13番手に終わったため、塚越/金石組がタイトルを獲得できる可能性はぐんと広がりました。ちなみに、予選順位通り#17 KEIHIN HSV-010が2位、38号車が4位でフィニッシュすると、#17 KEIHIN HSV-010はライバルより7点多くポイントを獲得できるので、逆転で王座に就けます。なお、#18 ウイダー モデューロ HSV-010は予選10番手に終わりましたが、山本選手は「マシンの感触はいい」と語っていたので、完全に望みが絶たれたとはいえない状況でした。

 しかし、決勝レースの展開は私たちの期待とは大きく異なるものでした。まず、スタートで38号車が一つポジションを上げ、#17 KEIHIN HSV-010の直後に迫ります。しかも、#17 KEIHIN HSV-010はGT300車両がコース上にまいたオイルに乗り、S字コーナーの進入で走行ラインから外れてしまいました。このすきを38号車に突かれて立場は逆転。結局、38号車が2番手、#17 KEIHIN HSV-010は3番手というオーダーのままピットストップまで走りきり、ドライバーは金石選手から塚越選手に交代しました。ニュータイヤを得た塚越選手のペースは速く、すぐに38号車を追い詰めましたが、今度はGT300クラス車両に行く手を阻まれた影響で、反対にレクサス39号車にオーバーテイクされてしまいます。これで38号車が2番手で#17 KEIHIN HSV-010は4番手。私たちにとっては絶体絶命ともいえる状況です。

 しかし、ここからの塚越選手の追い上げは本当にすばらしいものがありました。まず、35周目の130Rで39号車を攻略すると、今度は38周目の1〜2コーナーで38号車を豪快にオーバーテイク。自ら2番手の座を手に入れたのです。一度敗れてもあきらめず、粘り強くチャンスを見つけ出し、そして反撃する。簡単そうに思えますが、ドライバーというのは得てして抜かされた瞬間に「ああ、負けた」と気落ちし、それ以降はがっくりとペースが落ちてしまうものです。しかし、塚越選手は少しも闘志を失うことなく、そしてポジションをばん回していきました。これはドライビングテクニックが優れているかどうかだけでなく、意思の持ち方であり、精神力の問題です。ここ数年はHondaのトップドライバーの一人としてさまざまな活躍をみせてくれている塚越選手ですが、今回の戦いぶりに、彼の大きな成長を改めて見たような気がしました。

 ただし、#17 KEIHIN HSV-010が2番手に浮上した段階で、トップを走るレクサス6号車との差は27.4秒まで広がっていました。残り周回数が15周であることを考えると、トップに立つのは難しい状況です。それでも、塚越選手は再び闘志を振り絞り、最終的にはライバルと11.6秒差の2位でチェッカードフラッグを受けました。一方、38号車は3位でフィニッシュ。この結果、残念ながら塚越/金石組のタイトル獲得はなりませんでした。優勝はポールポジションからスタートしたレクサス6号車でした。

 今回は6号車に敗れる形になりましたが、塚越/金石組がチャンピオンになれなかったのは、単に「スピードの点でライバルを上回れなかった」ことだけが理由ではありません。レース後半、38号車の直後には同じレクサス陣営の39号車と36号車が迫っていましたが、もしも38号車が39号車や36号車に敗れることになれば、タイトルは塚越/金石組のものとなっていました。しかし、3台のレクサスの間にバトルは見られず、結果的に38号車は3位フィニッシュを果たしました。チャンピオン争いというのは必ずしも一対一で戦うものではなく、周囲のチームを含めた一種の団体戦としての性格を持っている、ということを指摘したいのです。例えば、38号車を追っていたのが39号車ではなく、#18 ウイダー モデューロ HSV-010だったとすれば、私はドライバーに最大限のプッシュを命じ、38号車に挑みかかることを指示したでしょう。それは、#18 ウイダー モデューロ HSV-010のポジションを上げることに加え、塚越/金石組のタイトル獲得を後押しすることになったからです。

 今回は#17 KEIHIN HSV-010が速く、塚越選手も金石選手も懸命の力走をみせてくれましたが、彼らのサポート役がHonda勢には存在しなかった。これが、2013年のタイトルを逃す理由の一つになったということです。6号車が優勝し、39号車や36号車が38号車の背後を守ることで、結果的に38号車のタイトル獲得をサポートすることになった。これこそがSUPER GTでタイトルを勝ち取る上での、一つの王道だといえるでしょう。

 では、#17 KEIHIN HSV-010以外の残るHSV-010 GTは最終戦をどのように戦ったのでしょうか?

 予選で6番手と健闘した#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/小暮卓史組)はレース中盤にライバルに後方から接触され、右リアタイヤがパンクしたためにピットストップを行い、6番手から14番手まで順位を落としてしまいます。さらに47周目にはライバルの1台がイン側に割り込んできて、2台は接触するなど不運が続く展開で、最終的には12位でチェッカーフラッグを受けることとなりました。

 タイトル獲得に期待がかかっていたもう一台の#18 ウイダー モデューロ HSV-010は、10番グリッドから懸命な追い上げをみせましたが、やはりもてぎでのオーバーテイクは容易ではなく、結果的に7位でフィニッシュしました。

 14番グリッドからスタートした#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/松浦孝亮組)は、レース後半に11番手までばん回していましたが、ホームストレートを走行中に後方からライバルの1台に追突されたため、コントロールを失ってマシンは大破し、リタイアを余儀なくされました。幸いにもステアリングを握っていたファーマン選手にケガはありませんでしたが、マシンは右リアに深刻なダメージを負っており、11月22日(金)〜24日(日)に開催されるエキジビションレースの富士スプリントカップまでに、大規模な修復作業を行う必要があります。

 #32 Epson HSV-010(道上龍/中嶋大祐組)は今回もタイヤと路面コンディションがマッチせず、予選15番手、決勝では入賞まであと一歩届かない11位となりました。昨年の最終戦ではウエットコンディションとなった決勝で3位入賞を果たしているだけに、この成績は残念でした。

 これで2013年のSUPER GTは公式戦の全日程を終えました。タイトルを獲得できなかったのは残念でしたが、HSV-010 GTは全8戦で計3勝を挙げるなど、トップクラスのパフォーマンスを発揮できたと自負しています。残る富士スプリントカップでも、このHSV-010 GTのスピードを存分にご披露したいと考えていますので、引き続きご声援のほど、よろしくお願い申し上げます。