SUPER GT 2013 GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.73 Rd.7 オートポリス・レビュー 鋭い追い上げで3位表彰台を得た#17 KEIHIN HSV-010 2台のHSV-010 GTがタイトル獲得を賭けて最終戦に挑む

 九州・阿蘇地方の山並みに建つオートポリスでは、今年も波乱に満ちたレースが繰り広げられました。まず、イベント初日の土曜日は雨と濃い霧のために公式練習が途中で打ち切りとなり、午後に予定されていた公式予選は翌日に順延とされました。この結果、日曜日の朝に予選を実施し、そのまま午後には決勝を行うというあわただしいスケジュールとなりました。

 ここでHonda勢のレース結果を振り返ってみると、8番グリッドからスタートした#17 KEIHIN HSV-010(塚越広大/金石年弘組)は、レース前半にほぼ最下位まで順位を落としながら、よく追い上げて3位表彰台を手に入れました。後半を受け持った塚越選手のスピードが光る、力強い戦いぶりだったと思います。

 予選でHonda勢のトップにあたる3番グリッドを手に入れた#18 ウイダー モデューロ HSV-010(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)は、レース中のペースにいくぶん波があり、5位でチェッカーを受けました。その理由については、のちほどご説明しましょう。

 彼らに続く6番グリッドからスタートした#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/小暮卓史組)は、途中でライバルの1台と接触した影響でクラッシュを喫しながら、トップと同一周回の12位で完走しました。

 予選9番手だった#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/松浦孝亮組)は、ファーマン選手がスタート直後に7番手まで追い上げたものの、その直後に#18 ウイダー モデューロ HSV-010と同じ症状に見舞われて、予定外のピットストップを行い、今回は14位に終わりました。

 タイヤとコンディションのマッチングが図れなかった#32 Epson HSV-010(道上龍/中嶋大祐組)は、オートポリスでも厳しい戦いを強いられましたが、それでも彼らは粘り強く戦い続けて10位入賞を果たし、第4戦菅生大会に続いて貴重なポイントを獲得しました。

 では、#18 ウイダー モデューロ HSV-010や#8 ARTA HSV-010を苦しめた症状とは、一体どのようなものだったのでしょうか?

 レースでは、周回を重ねていくとタイヤからゴムの破片が飛び散り、これが次第にコース上を覆うようになります(これをタイヤかすと呼んでいます)。ただし、走行ライン上はマシンによって掃き清められる形になるため、あまりタイヤかすはたまらず、走行ラインを少し外したところにタイヤかすは多く見られるようになります。そしてタイヤかすがタイヤのトレッド表面にこびりつくと、これがはがれ落ちるまではタイヤのグリップ力が大きく低下し、ハンドリング特性に大きな影響を与えます。このため、タイヤかすを拾うとそのあとの数周は大きくラップタイムが落ち込み、場合によってはポジションを落とすきっかけにもなってしまうのです。

 このようなタイヤかすの問題は、オートポリスに限らず、ほかのサーキットでも多かれ少なかれ起こりますが、オートポリスでは特にこの影響がはっきりと表れます。なぜかといえば、この時期のオートポリスは路面温度があまり上がらないため、タイヤの発熱が不十分で、この温度が低い状態で、タイヤかすが再びタイヤに付くと取れにくい状況ができ、本来のタイヤの性能が発揮できなくなってしまいます。

 もう一つの理由は、オートポリスの路面は表面が比較的平滑(へいかつ)なため、タイヤに適度な負荷がかからず、これがタイヤの発熱を妨げる原因になっているとされます。今回のレースでも、終盤までトップを守り続けていたライバルの1台が最後の最後になってこの症状に見舞われ、2位に転落するという波乱が起きました。このことからも分かる通り、オートポリスではいかに“タイヤかす対策”を施すかによって、レースの行方が左右されることさえあるのです。

 ここで#17 KEIHIN HSV-010の戦いぶりをもう少し詳しくご説明すると、レース前半を受け持った金石選手がGT300クラス車両の処理に誤って、一時14番手まで転落したものの、素早いピット作業と塚越選手の奮闘により、レース終盤には2番手のライバルをコンマ3秒差まで追い詰めていきました。しかし、懸命にプッシュする塚越選手は勢い余ってわずかに走行ラインを外してしまい、このためタイヤかすに苦しめられることとなります。この影響で2番手浮上のチャンスを失い、3位でチェッカーフラッグを受けました。

 予選での成績を考えれば、#17 KEIHIN HSV-010の追い上げには目を見張るものがありました。ですから、手放しで彼らのことを賞賛してもいいのですが、あえて欲をいえば、予選一発の速さに磨きをかけ、もう少し上のグリッドからスタートできるようになれば、今回も3位ではなく2位、ひょっとすると優勝にも手が届いたと思われます。

 本来「たられば」は禁物のレースにおいて、なぜこんなことを申し上げるかといえば、今回2位に入ったレクサス勢の1台が計58点としてポイントリーダーに浮上したことと関係があります。対する#17 KEIHIN HSV-010は、#18 ウイダー モデューロ HSV-010と並ぶ52点で現在ランキング3位です。しかし、もしも#17 KEIHIN HSV-010が2位でフィニッシュしていれば、彼らは56点で単独のポイントリーダーに浮上し、今回2位のレクサスは54点で、もう1台のレクサスとともにランキング2位にとどまっていたことになります。つまり、立場が逆転していたのです。こうなれば、現在52点の#18 ウイダー モデューロ HSV-010を含め、計4台に自力優勝の可能性が残されたことになります。言い換えれば、最終戦で勝ったチームがチャンピオン。実に分かりやすい、力と力のぶつかり合いとなったはずなのです。

 ところが残念なことに、現状では#17 KEIHIN HSV-010と#18 ウイダー モデューロ HSV-010に自力優勝の可能性は残されていません。仮にこの2チームのどちらかが最終戦もてぎ大会で優勝しても、現在ランキングトップのレクサスチームが3位以下とならない限り、タイトルは手に入らないのです。#17 KEIHIN HSV-010の健闘をたたえつつも、自分自身が今回の結果に心から喜べない理由の一つは、こんなところにもあるのです。

いずれにせよ、今シーズンは残すところ最終戦もてぎ大会のみとなりました。タイトル獲得のかかった大一番です。最終戦の詳しい展望については、次回「もてぎ・プレビュー編」でご説明しましょう。引き続き、5台のHSV-010 GTに熱い声援をお送りくださいますよう、お願い申し上げます。