SUPER GT 2013 GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.72 Rd.7 オートポリス・レビュー 横一直線に並んだチャンピオン争い HSV-010 GTの強力なダウンフォースを武器にオートポリス戦に挑む

 2013年のSUPER GTも、残るは第7戦オートポリス大会と第8戦ツインリンクもてぎ大会の2戦のみとなりました。

 ご存じの通り、シーズン最後の2戦はハンディウエイトの運用がそれまでとは変わります。SUPER GTでは、獲得したポイントの2倍に相当するkg数のハンディウエイトを積むのが基本となっています。例えば、#18 ウイダー モデューロ HSV-010(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)は、第5戦鈴鹿大会終了時点で40点を獲得していたので、その2倍にあたる80kgを積んで第6戦富士大会に挑みました。

 ところが、第7戦オートポリス大会では2倍ではなく、獲得ポイントをそのままkg数に改めたハンディウエイトを積んで出走します。つまり、第6戦富士大会終了時点で46点を獲得した#18 ウイダー モデューロ HSV-010は、46kgのウエイトを積んで第7戦オートポリス大会に臨むのです。そして、最終戦もてぎ大会ではハンディウエイトは完全になくなります。例えば、仮に#18 ウイダー モデューロ HSV-010が第7戦オートポリス大会で優勝した(もちろん、それを目標に私たちはレースに挑むわけですが……)場合、46+20の66点を獲得しているので132kg相当のハンディウエイトを搭載(現実には100kg以上のハンディウエイト搭載は危険なため、上限は100kgと決められています)することになりますが、最終戦もてぎ大会ではハンディウエイトを全く積まなくていいことになっています。つまり、ポイントリーダーも、ポイントテーブルで最下位のチームも、すべてハンディウエイトはゼロということです。

 これがなにを意味するかといえば、シーズン序盤に多くのポイントを獲得して重いハンディウエイトを課せられて、本来の実力を十分発揮できなかったチームが、再び上位争いに浮上するチャンスが巡ってくることになります。Honda勢でいえば、第3戦セパン大会終了時点で早くも35点を獲得していた#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/小暮卓史組)がその筆頭でしょう。なお、彼らは現在37点でランキング7位となっています。これまで積んでいた重いハンディウエイトを降ろせるという意味では、現在46点を獲得してポイントリーダーに立っている#18 ウイダー モデューロ HSV-010、それに41点で5位の#17 KEIHIN HSV-010(塚越広大/金石年弘組)も同様で、第7戦オートポリス大会と最終戦もてぎ大会では、これまで以上の活躍が期待できると思います。

 ただし、今季はシリーズ終盤戦に入っても近年にないくらいの混戦となっています。例えば、残り2戦となった現時点でも46点獲得のポイントリーダーから10点差以内に8チームがひしめき合っているのです。また、今後の2戦を連勝すれば合計40点が入るので、現在30点以上獲得しているチームであれば、展開次第で大逆転のチャンスが残されています。そうなると合計11チーム。つまり、GT500クラスに参戦しているほとんどのチームが横一線に並んでいるといえるでしょう。現在、ポイントテーブルのトップに立っている#18 ウイダー モデューロ HSV-010、そして5位につけている#17 KEIHIN HSV-010は多少有利かもしれませんが、全く油断できません。そのぐらいの強い気持ちで残る2戦に挑むつもりでいます。

 では、次戦でHSV-010 GTの活躍は期待できるのでしょうか? 8月28日(水)、29日(木)にオートポリスで行われたタイヤテストには、#18 ウイダー モデューロ HSV-010、#32 Epson HSV-010(道上龍/中嶋大祐組)、#100 RAYBRIG HSV-010の3台が参加し、#32 Epson HSV-010のみタイヤとコンディションのマッチングが図れずに苦心しましたが、残る2台はそろって上位のタイムを残し、大きな手応えをつかんできました。中速コーナーが比較的多いオートポリスは、大きめのダウンフォースを要求するサーキットですが、こういうコースにはHSV-010 GTの特性がぴたりとはまります。私はこれまで何度も「HSV-010 GTは富士が苦手」と申し上げてきましたが、現在SUPER GTが開催されているサーキットの中で、小さなダウンフォースを必要とするのは富士スピードウェイだけで、言い換えればHSV-010 GTは富士以外のすべてのサーキットを得意としているといえます。というわけで、第7戦オートポリス大会では優勝を含む上位入賞を期待しています。

 個々のチームについて見ていくと、先のオートポリスでのテストで、Honda勢としてトップタイムを記録した#100 RAYBRIG HSV-010が最も優勢でしょう。ブリヂストンタイヤはここのところ復調が著しく、ミシュランタイヤに対して後れを取っていた部分についても次々と改善を図っています。それでいて、もともと持っていた強みは失っていないのですから、より幅広いコンディションに対応できるタイヤに仕上がってきたと感じています。というわけで、まずは#100 RAYBRIG HSV-010を本命として推しておきたいと思います。

 もっとも、だからといってミシュランがブリヂストンに劣っているわけではありません。先日のタイヤテストでミシュランタイヤを装着する#18 ウイダー モデューロ HSV-010が好調だったことは前述の通りなので、彼らにも優勝のチャンスは十分にあります。特にウエットコンディションとなったときには、彼らが強みを発揮するでしょう。

 #17 KEIHIN HSV-010にも期待が持てます。ただし、タイヤテストに参加できるのは「各自動車メーカーについて、タイヤメーカーごとに1台ずつ」という規定があるため、#100 RAYBRIG HSV-010と同じブリヂストンタイヤを履く#17 KEIHIN HSV-010は参加できませんでした。そういう意味では、#100 RAYBRIG HSV-010よりもやや不利な立場に立たされています。

 同様に#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/松浦孝亮組)もタイヤテストには参加できませんでした。ただし、結果には結びつかなかったものの、第6戦富士大会でのマシンの仕上がりは極めて良好でした。この好調ぶりをオートポリスでも維持できれば、大量得点も望めると思います。

 タイヤテストの結果は芳しくなかった#32 Epson HSV-010ですが、昨年は雨のオートポリスで優勝まであと一歩に迫りました。というわけで、ウエットレースになれば#32 Epson HSV-010の上位入賞に期待がかかります。

 今も申し上げた通り、昨年の第7戦オートポリス大会はウエットコンディションでした。阿蘇山系に囲まれたオートポリスはやはり「山の天気」なので、晴れていると思ったら急に雨が降り出したということも珍しくありません。特に、この時期はなおさらです。というわけで、個々のチームとしては上述したような傾向がありますが、最後はこのコンディションの変化にどれだけ的確に対処できたかが勝敗を分けることになるでしょう。タイトル獲得を目指して第7戦オートポリス大会に臨む5台のHSV-010 GTに、どうか力強い声援をお送りくださいますよう、お願い申し上げます。