SUPER GT 2013 GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.71 Rd.6 富士レビュー 第6戦富士大会で#17 KEIHIN HSV-010が2位表彰台を獲得 HSV-010 GTのパフォーマンスが大幅に向上したことを証明

 富士スピードウェイで開催されたSUPER GT第6戦で#17 KEIHIN HSV-010(塚越広大/金石年弘組)が2位入賞を果たしてくれました。HSV-010 GTが富士で2位表彰台を手に入れたのは2012年の第2戦以来ですが、あのときはウェットコンディション絡みでタイヤ戦略が結果を大きく左右するレースとなりました。今回も、多少小雨がパラつくことはありましたが、全車が最初から最後までスリックタイヤで走り続ける、いわば力と力のぶつかり合いとなるレースでした。そこで2位に食い込んだのですから、富士におけるHSV-010 GTのパフォーマンスが大幅に向上したことは間違いありません。もはや「富士に苦手意識なし」と言いきってもいいと思います。

 今回は#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/小暮卓史組)と#18 ウイダー モデューロ HSV-010(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)の2台が好調で、予選では#18 ウイダー モデューロ HSV-010が3番グリッド、#100 RAYBRIG HSV-010は4番グリッドを手に入れました。決勝レースの序盤、2台はこのポジションを守って周回していましたが、19周目のストレート上で#32 Epson HSV-010(道上龍/中嶋大祐組)の左リアタイヤが破損。#32 Epson HSV-010はガードレールと接触し、コース上にパーツが散乱した状態となってセーフティカーが導入されました。これによるセーフティカーランが、今回はレースの流れを大きく変えました。

 たまたまレースの折り返し地点が近づいていたため、GT500クラスではライバルの1台を除く全車が同時にピットインし、タイヤ交換、給油、ドライバー交代を行いました。もちろん5台のHSV-010 GTもピットストップを行いましたが、ピットの割り当てにより、有利なチームと不利なチームに分かれました。有利となったのは、隣がGT300クラスのピットで、自分たちが作業しているときに十分なスペースを確保できたチーム。反対に、両側がGT500クラスで占められているチームは混雑のため作業に手間取り、ピットストップが長引いてしまう傾向が見られました。Honda勢でいえば、有利だったのは#17 KEIHIN HSV-010、#18 ウイダー モデューロ HSV-010、#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/松浦孝亮組)の3チームで、#100 RAYBRIG HSV-010は反対に難しい状況で作業を行わなければいけませんでした。このため、彼らはセーフティカーラン直前の3番手から9番手まで後退することになってしまいます。反対に#17 KEIHIN HSV-010は8番手から4番手にジャンプアップ。そして#18 ウイダー モデューロ HSV-010は2つ、#8 ARTA HSV-010は1つポジションを上げてコースに復帰しました。

 これだけ順位が大きく変わると、レースの流れもガラっと変わるものです。この影響で、#17 KEIHIN HSV-010は前述の通り、2位フィニッシュを果たしましたが、ポジションを落とした#100 RAYBRIG HSV-010は間もなくGT300車両と接触してラジエーターにダメージを負い、これが原因でリタイアに追い込まれることになります。まさにピットストップ一つで天国と地獄の差が出たといえるでしょう。もっとも、今回のセーフティカーランは、Honda陣営のチームがきっかけを作ったものですから、だれかを恨むことはできません。

 第6戦での#100 RAYBRIG HSV-010の仕上がりは絶好調で、74kgのハンディウエイトを積みながらも前述の通り予選4番手に食い込みました。おかげでドライバーは明確に優勝を意識していましたし、たとえ優勝できなかったとしても、ここでポイントを積み重ねることができれば、今後のチャンピオンシップ争いを有利に戦えたことでしょう。それを考えると残念でなりません。

 予選で好調だったのは#18 ウイダー モデューロ HSV-010も同じですが、彼らはレース序盤に急激なグリップダウンに見舞われ、ピットストップ直前には9番手まで順位を落としていました。もっとも、タイヤを交換して臨んだ後半戦はまずまずのペースで走行できたので、タイヤもしくは路面コンディションからなんらかの影響を受けたのかもしれません。この点は今後の調査を待たなければいけませんが、7番手となって走り始めた第2スティントでは、最終的に5位まで追い上げ、チャンピオンシップ争いではライバル勢の1台と同点でトップに立ちました。残る2戦の戦績次第では十分にタイトルを狙えると考えています。

 今回は#8 ARTA HSV-010の仕上がりも順調で、ファーマン選手は大いに意気込んで決勝レースに臨みましたが、こちらは第2スティントのペースが伸び悩み、8位に終わりました。安定したペースを保つことができたら、もう少し上位に食い込めたはずなので、この結果はいささか残念です。

 ところで、不得意なはずの富士で2位に入った割に私の気持ちが今一つ晴れないのは、今回は優勝を狙えたという思いがあったからです。繰り返しになりますが、セーフティカーラン絡みのピットストップで大きく順位を落とすことがなかったら、#100 RAYBRIG HSV-010がアクシデントに遭うこともなかったでしょうし、そのあとの追い上げで優勝争いに絡んだはずです。このことは返す返すも残念です。

 一方で、結果的に2位に終わった#17 KEIHIN HSV-010にも十分に優勝のチャンスはありました。実際、彼らは1周だけとはいえ42周目には首位に立っていますし、それ以外にもトップを走るライバルに1秒を切る僅差まで迫ったことが何度かありました。従って、「あともう一歩というところで富士での栄冠が手に入ったのに……」という思いをぬぐいきることはできません。

 #17 KEIHIN HSV-010が優勝できなかったことは、チャンピオンシップのことを考えても残念といえます。今回、優勝したライバルは、これでポイントを43点に伸ばし、ランキング4位に浮上しました。一方の#17 KEIHIN HSV-010は41点で5番手です。ところが、もしも#17 KEIHIN HSV-010が優勝していたら、彼らは通算46点を獲得し、#18 ウイダー モデューロ HSV-010と同点でポイントリーダーに浮上できたのです。この場合、ライバルのポイントは38点。つまり、#17 KEIHIN HSV-010が優勝するかしないかで、両者の立場は正反対となっていたのです。

 もっとも、終わったことをいつまでもくよくよ考えてみても仕方ありません。今シーズンも、残すところオートポリスとツインリンクもてぎの2戦のみ。Hondaは#18 ウイダー モデューロ HSV-010、#17 KEIHIN HSV-010、#100 RAYBRIG HSV-010の3台にタイトル獲得の大きな可能性を残したまま、この最終決戦に挑むことになります。しかも、次戦オートポリスではハンディウエイトが半減され、最終戦もてぎ大会では完全に撤廃されるので、徹底的に熟成されたHSV-010 GTの本当の速さをご披露できるはずです。引き続き5台のHSV-010 GTに熱い声援をお送りくださいますよう、重ねてお願い申し上げます。