SUPER GT 2013 GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.69 Rd.5 鈴鹿レビュー #18 ウイダー モデューロ HSV-010が圧倒的な強さを示して今季初優勝 チャンピオン争いは混沌とした状況に……

 シリーズ第5戦の鈴鹿1000kmで#18 ウイダー モデューロ HSV-010(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)が優勝しました。#18 ウイダー モデューロ HSV-010を走らせる童夢チームは、ドライバーが2人とも入れ替わっただけでなく、タイヤもブリヂストンからミシュランに切り替わるなど、今季は文字通り大改革を受けました。その新体制になって初の優勝です。第3戦セパン大会や第4戦菅生大会では勝利まであと一歩と迫りながら、そのたびに不運に見舞われて栄冠を逃してきたため、チームもドライバーも大きなプレッシャーを感じていたようです。しかし、今回はこれを跳ね返して鮮やかに勝利をつかみ取りました。しかも、山本選手とマコヴィキィ選手にとってはSUPER GTでの初優勝です。チーム、そしてドライバーの2人に、心より「おめでとう」と申し上げます。

 今回、#18 ウイダー モデューロ HSV-010は予選から好調で、ポールシッターと0.2秒差で2番グリッドを手に入れます。そして決勝では、オープニングラップにライバルの1台に攻略されて3番手となったものの、実力では#18 ウイダー モデューロ HSV-010の方が確実に一枚上手でした。従って、3番手となってからも、私たちは安心してその様子を見守っていることができました。

 にもかかわらず、#18 ウイダー モデューロ HSV-010が2番手に返り咲くまでにどうして13周も要したかといえば、今回のレースは燃費が厳しく、燃料を一切無駄遣いできない状況だったことが理由として挙げられます。

 1000kmレースは4ストップ/5スティントで走りきるのが最も効率的です。もし、5ストップ/6スティントで走るのであれば、1回余分となるピットストップのロスタイムを解消するため、1周あたりの平均ラップタイムをコンマ4秒速くしなければいけません。しかし、これは極めて困難な目標です。裏を返せば、4ストップ/5スティントを守りながら、最も速いペースを保つことが優勝への近道となるのです。

 1000km=173ラップのレースを5スティントで均等割りすると、一スティントは34.6ラップとなります。ただし、一回の満タンで鈴鹿を35ラップ走るのは、燃費の面からいってギリギリの線です。パワー重視のエンジン・マップだけで35ラップを走破できるチームは、おそらく存在しないでしょう。ですから、多少なりともミクスチャーを薄くした“省燃費モード”で走ることが必要となります。その上でストレートエンドでは少し早めにスロットルペダルを戻すなどの“省燃費運転”をしなければ35ラップは走りきれません。

 また、タイヤの面からいっても、35ラップの連続走行は容易ではありません。タイヤのスライドをギリギリまで抑え、過度なストレスを与えないように気をつけなければ、35ラップを走りきる前にペースが大きく落ち込み、5スティントで走りきるそもそもの意味がなくなってしまいます。つまり、5スティントの作戦を成功させるには、燃費にもタイヤにも十分配慮した走行をしなければいけないのです。

 3番手に後退した#18 ウイダー モデューロ HSV-010が、あえて2番手攻略を急がなかった背景には、上記のような事情があったのです。また、この作戦を成功させるためには、特にレース序盤を慎重に走る必要がありました。そこで、#18 ウイダー モデューロ HSV-010はじっくりと状況を見極め、13周を費やした上で2番手に返り咲いたのです。

 これでペースをつかんだ#18 ウイダー モデューロ HSV-010は23周目にポールポジションからスタートしたライバルも攻略し、ついにトップに立ちます。このときステアリングを握っていた山本選手は、そのあとわずか3周で、2番手となったライバルを5.7秒も突き放しています。#18 ウイダー モデューロ HSV-010の圧倒的な速さは、この時点で明らかとなりました。そこで、このあとは無理にペースを上げることなく、燃費とタイヤをいたわりながら残り周回数をこなすことにしました。なにしろ、まだゴールまで150周近くもあるのですから。

 異変が起きたのは、1回目のピットストップを無事に終え、2回目のピットストップのタイミングが迫ってきた65周目のことでした。GT300クラス車両のマシンがタイヤトラブルによりボディカウルを壊し、その破片やオイルがバックストレートにまき散らされるアクシデントが起こったのです。幸い、ドライバーは無事でしたが、コースを清掃する関係でセーフティカーが導入されました。このとき、ライバル陣営の何台かは素早くピットストップを行いました。一方、#18 ウイダー モデューロ HSV-010はルールに従って全車が一旦ホームストレート上に整列して停止し、隊列を整えた上でセーフティカーランが再開したあとにピットストップを行いました。この結果、なにが起きたかといえば、先にピットストップを行ったライバル陣営の2台がトップ2に立ち、#18 ウイダー モデューロ HSV-010は3番手となってしまったのです。しかも、トップ2との間にはGT300車両が何台も列をなしており、セーフティカーランが終わって競技が再開されたとき、トップ2とのギャップは30秒前後にも広がっていました。

 いくらルール通りとはいえ、セーフティカーランのどのタイミングでピットインしたかによってポジションが大きく変わるのはいかにも不自然です。この点はなんらかの改善を期待したいところですが、#18 ウイダー モデューロ HSV-010が3番手で、トップに30秒ほどの差をつけられている事実には変わりありません。ただし、燃費やタイヤの都合から、むやみに飛ばすことは許されませんでした。そこで、このときステアリングを握っていた山本選手には、引き続き燃料をセーブするよう指示。104周目にピットストップし、給油とタイヤ交換を実施し、マコヴィッキィ選手に代わったところで、ピットからペースアップを指示しました。この期待に応えて、マコヴィッキィ選手はトップとの差をジワジワと削り取り、そして116周目にトップを走るライバルがスプーンコーナーでわずかに姿勢を乱したすきを見逃さず、首位に返り咲きました。そして残る57周を危なげなく走りきり、うれしい初優勝を果たしたのです。

 今回の優勝は、シーズン半ばに入ってHSV-010 GTの速さにいよいよ磨きがかかったことが要因として挙げられます。第3戦セパン大会から導入したスワンネック式リアウイング、そして本大会から新型のフロントフェンダーを投入したことで、エアロダイナミクスを改良しました。また、フロントラジエーターとサイドエキゾーストを採用した2013年モデルのセッティングも、ここまでの4戦を戦う中で大きく進化しました。そうした進歩が、5戦を終えて通算3勝を挙げる原動力になったと考えています。勝率60%とは、3メーカーがしのぎを削るGT500クラスとしては異例に高い数値といえるでしょう。

 では、残る4台のHSV-010 GTにとってはどんなレースだったのでしょうか?

 予選で#18 ウイダー モデューロ HSV-010に続く6番手となった#17 KEIHIN HSV-010(塚越広大/金石年弘組)は、今回ブリヂストンタイヤの性能を十分に引き出すことができず、またレース中に黄旗追い越しがあってドライブスルーペナルティーを科せられたため、7位に終わりました。今回はハンディウエイトが42kgと比較的軽く、表彰台獲得の期待もかかっていましたが、これを結果に結びつけられなかったのは予想外でした。

 ポイントリーダーの#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/小暮卓史組)は72kgという重いハンディウエイトを背負って第5戦鈴鹿大会に臨みました。彼らは予選で8番手と健闘。あとは決勝で5〜6位に入れれば非常に好ましい展開となったのですが、レース中に他車との接触があり、その責任を問われる形となってドライビングスルーペナルティーを科せられました。この結果、10位に終わり、鈴鹿では2点を獲得するにとどまりました。というわけで、彼らにとってもやや残念なレースとなりました。

 前戦優勝の#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/松浦孝亮組)は、セッティングが決まらなかったためにペースが上がらず、今回は12位に終わりました。また、#32 Epson HSV-010(道上龍/中嶋大祐組)はレース序盤に予定外のタイヤ交換を強いられ、本領を発揮できないまま13位でフィニッシュしました。

 鈴鹿では#18 ウイダー モデューロ HSV-010が優勝するといううれしいニュースがあった一方で、ランキングの上位にいた#100 RAYBRIG HSV-010と#8 ARTA HSV-010が大量得点を果たせなかったので、チャンピオン争いを考えるとあまり好ましい結果とはいえません。ただ、ライバルメーカーの上位ランカーもほとんどが好成績を収められなかったため、ポイントテーブル上の1位から5位までが5点差に入る接戦となりました。今季も残るは3戦。チャンピオン争いのことを考えると、もはや一戦も気を抜くことのできない展開になったといえます。

 さて、本大会ではトヨタ、ニッサン、Hondaの3メーカーが2014年からのSUPER GTに投入する新型GT500クラス車両を持ち込み、ニッサンとHondaは開幕前日の金曜日と決勝レース直前の2回にわたり、テスト走行(日曜日はデモ走行)を行いました。2014年からドイツのDTM(ドイツツーリングカー選手権)とSUPER GTが車両規則の広範な部分に関して、共通化を図ることは各種メディアで報道されている通りですが、今回公開した新型車両もこの新しいレギュレーションに則して開発されたものです。ただし、DTMではフロントエンジン・後輪駆動(FR方式)が主体のため、日独の全メーカーが使用する共通モノコックに関しても、FR方式を前提に設計されています。一方、Hondaが来季より投入するのは「NSX CONCEPT-GT」で、この場合、ドライブトレーンのレイアウトは量産車と同じミッドシップ・後輪駆動(MR方式)となります。スポーツカーの運動性能を向上させるのにMR方式が有利なことはいうまでもありませんが、それはMR方式に最適化されたモノコックやシャシーがあって初めて実現できることであり、今回のようにFR用に開発されたモノコックでMR方式とすると極端なリアヘビーとなり、かえってバランスの悪い車両となってしまう恐れがあります。実際にはそうならないよう懸命の開発を行っているところですが、今回に限っては「MR=有利」という方程式が単純には成り立たないことを皆さまにもご理解いただきたいと思います。

 「NSX CONCEPT-GT」は、レース専用に開発した「レーシングハイブリッドシステム」を搭載しています。少し気が早いようですが、この点も含め、2014年からのSUPER GTを戦う「NSX CONCEPT-GT」にも注目していただくよう、お願い申し上げます。