SUPER GT 2013 GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.67 Rd.4 菅生レビュー 菅生の大混戦を制した#8 ARTA HSV-010難関の最終コーナーで期待どおりの速さを見せつける

 SUPER GT第4戦菅生大会で、#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/松浦孝亮組)が、今季初優勝を果たしてくれました。雨が降ったり止んだりの難しいコンディションの中、トップと同一周回でフィニッシュしたのがわずか3台という波乱のレースとなりましたが、ファーマン選手と松浦選手は終始安定したドライビングをみせ、一つのミスを犯すこともなく最後まで走りきってくれました。マシンを最高の状態に整え、レース中も完ぺきなレース戦略とピット作業で、この栄冠を支えてくれたチームの皆さんにも、心から拍手をお送りしたいと思います。

 昨年は悔しい結果に終わった菅生大会ですが、今回のレースでHSV-010 GTのパフォーマンスが大幅に向上したことを証明できました。予選では#18 ウイダー モデューロ HSV-010(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)が3番手で、#17 KEIHIN HSV-010(塚越広大/金石年弘組)が4番手となりましたが、どちらもトップとの差はわずかで、決勝では十分に優勝が狙えると期待していました。その決勝では、残念ながら#17 KEIHIN HSV-010は、レース序盤で駆動系のトラブルのためリタイアしてしまいましたが、#18 ウイダー モデューロ HSV-010はトップグループの一員として周回を重ねていき、レース後半には2番手に浮上します。さらに、ここにポイントリーダーの#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/小暮卓史組)も4番手で追いつき、レース終盤はトップ4が2秒弱の僅差でバトルを繰り広げることとなります。ところが、あろうことかトップグループの間で複数のアクシデントが発生。結果的に優勝争いを演じていた4台は、いずれも周回遅れとなってしまいました。

 一方、この時点で5番手を走行していた#8 ARTA HSV-010は、トップ4が脱落すると目の前を走行していたライバルの1台を攻略。こうしてトップに浮上すると、降り始めた雨によりウエットコンディションとなったコースをスリックタイヤで走るという難しい状況ながら、松浦選手は後続を引き離す快走で優勝を果たしたのです。

 #8 ARTA HSV-010は、上位陣の脱落によって幸運を手に入れたという見方もできますが、なにかあったときに勝てるポジションにいるというのも重要な戦法の一つであり、ファーマン選手と松浦選手の2人は、まさにそれを実践したといえます。ただし、レース終盤の松浦選手は相当なプレッシャーとも戦っていたようで、普段は無線でピットと頻繁に会話する彼が、トップに立ってからは一言も口にしなかったことは印象的でした。同じくピットで見守るファーマン選手も、見るからに緊張した面持ちを浮かべていました。昨年、今年と彼らは苦戦続きでしたので、喜びもひとしおだったと思います。しかも、同じチームでGT300クラスにエントリーしている#55 ARTA CR-Z GT(高木真一/小林崇志組)も優勝し、2階級制覇を成し遂げたのですから、鈴木亜久里代表にとっては文字通り最良の一日になったことでしょう。ここでチームの皆さんには改めて「おめでとう」と申し上げておきます。

 菅生でのHSV-010 GTのパフォーマンスが大きく向上した理由は、どこにあったのでしょうか? 上り10%勾配のメインストレートに続く高速の最終コーナーは、勝負どころとなる1コーナーでのスピードを左右する重要なポイントです。ところが、昨年のこのレースでは、アクセルペダルを踏み込んだまま最終コーナーに進入すると、徐々にアウト側にはらんでしまうためにスロットルを戻さざるを得ず、これがタイムロスにつながっていました。そこで2013年モデルでは、フロントのエアロダイナミクスを見直し、これまで以上にフロントで大きなダウンフォースを生み出すように改良。高速コーナーでのアンダーステアを軽減しました。このため、今年のレースでは思いっきりスロットルを踏み込んだまま最終コーナーをクリアできるようになり、これがラップタイムの大幅な短縮につながりました。

 高い性能を維持したまま、エアロダイナミクスの特性をよりマイルドにしたことも、最終コーナーのスピードを向上させるのに役立ちました。菅生の最終コーナーには大きめのギャップがあり、ここで姿勢を乱すケースが少なくありません。ところが、エアロダイナミクスがピーキーだと、ギャップに乗り上げてマシンが跳ね上がった瞬間にアンダーステアとなるため、少しマージンをもってコーナーに進入することになります。そこで今年は比較的なだらかな空力特性にすることで、こうした問題を解消し、より高いスピードを保てるようになりました。これもHSV-010 GTのパフォーマンスを向上させるのに大きく貢献しました。

 HSV-010 GTの進化を確認でき、その結果として#8 ARTA HSV-010が優勝できたことは大変うれしかったのですが、その一方で、ポイントリーダーの#100 RAYBRIG HSV-010、そしてランキング5位につけていた#17 KEIHIN HSV-010がともに入賞圏外に終わり、ポイントを上乗せできなかったことは残念でした。幸い、前戦までに35点を獲得した#100 RAYBRIG HSV-010は1点差でポイントリーダーの座を守っていますが、シーズン中盤での1点差はないも同然です。例えば、次の第5戦は伝統の鈴鹿1000kmとして開催されるため、ウイナーは5点のボーナスを含め25点を獲得できます。ということは、現在15点のチームでさえ、展開によってはポイントリーダーに浮上する可能性があるのです。こうした事態を想定し、私たちはシーズン中盤まで、最低でも2台のHSV-010 GTが常にポイントテーブルの上位にとどまっている状態を目標としてきましたが、前戦までHonda勢の2番手につけていた#17 KEIHIN HSV-010が今回ノーポイントに終わったため、ランキング9位と大きく後退してしまいました。これも私たちにとっては非常に残念なことだったといえます。

 一方で、チャンピオン争いを演じるライバルチームの多くが今回無得点に終わったことは、私たちにとって不幸中の幸いだったといえます。しかし、ライバルの不運を期待するような戦い方では勝利は望めません。やはり、ここは正々堂々と自分たちでポイントを積み重ね、自分たちで勝利を引き寄せる戦い方が正攻法でしょう。従ってチャンピオン争いという観点からいえば、今回は反省すべき点の多い一戦だったと捉えています。

 夏休み終盤の週末は是非、鈴鹿サーキットを訪れ、5台のHSV-010 GTに熱いご声援をお送りくださいますよう、お願い申し上げます。