SUPER GT 2013 GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.65 Rd.3 セパン・レビュー 大きな収穫を得た“灼熱の戦い”重くなっても速さを維持した#100 RAYBRIG HSV-010

 第3戦セパン大会が終わりました。今年は予選が33℃で決勝が32℃と、例年よりいくぶん気温は低めでしたが、それでもじっとりと肌にまとわりつく湿度のせいで、日本よりはるかに暑く感じられました。これらはあとで述べるようにタイヤチョイスに微妙な影を落とすことになりました。

 このセパン大会に向けて、Hondaは新しいパーツを開発し、実戦投入しました。それは一般に“スワンネック”と呼ばれるリアウイングです。従来のHSV-010 GTはウイングを下側からステーで支える一般的な構造を採用してきましたが、スワンネックでは、下から伸びてきたステーが一度前方にぐるりと回り、そこから折り返してリアウイングをつり下げる形となります。このステーを曲げた形状が、すらっと伸びた白鳥(スワン)の首を思わせることから、スワンネックという呼び名がつきました。

 こうすると、ダウンフォースを下げずにドラッグ(空気抵抗)を減らすことができ、いわゆる空力効率が改善されます。なぜ、そうなるかというと、ダウンフォースを生み出すウイングでは、実は下側を流れるエアフローが重要であって、ウイングの上側を流れるエアフローはこれを引っ張り上げる役割をしているだけといっても過言ではありません。そこで、上からステーでつり下げる構造にして、ウイングの下側をできるだけ滑らかな形状としたのがスワンネックなのです。

 もっとも、V字形をしたHSV-010 GTのウイングステーは、デザインが複雑なために基本形状はそのまま残し、スワンの“顔”にあたる部分のみ新設計しましたが、この影響で、我々のスワンネックはステーに比べると“顔”が小さく見えるバランスとなりました。そこで、我々は「白鳥ほどの優雅さはなく、せいぜいアヒルでしょう」ということで、これを“ダックネック”という愛称で呼んでいます。

 第3戦セパン大会には製造の都合で3台分しかダックネックを用意できず、開発を担当した#32 Epson HSV-010(道上龍/中嶋大祐組)、ポイントリーダーである#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/小暮卓史組)、そしてHonda勢で唯一ミシュランタイヤを装着した#18 ウイダー モデューロ HSV-010(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)の3台に装着しましたが、いずれも期待通りの効果を発揮してくれました。なお、第4戦菅生大会からは5台すべてへの装着を予定していますので、HSV-010 GTのパフォーマンスが一層底上げされるものとして期待しています。

 第3戦セパン大会では、惜しくも優勝こそ逃しましたが、48kgのハンディウエイトを積むポイントリーダーの#100 RAYBRIG HSV-010が見事3位表彰台を獲得してくれました。ランキング2位にはセパン大会で優勝したニッサン勢の1台がつけていますが、現在#100 RAYBRIG HSV-010はこのライバルを4点リードしています。これまでは1点差だったので、それに比べればいくぶんリードは広がりましたが、この程度の差は簡単にばん回される恐れがあります。いずれにせよ、今後もポイントリーダーの座を守るためには、懸命の努力をしなければいけないと考えています。

 今回、#100 RAYBRIG HSV-010は当初セッティングの仕上がりが完全とはいえず、予選は5番手と伸び悩んでいましたが、土曜日の夜から日曜日にかけてセッティングを見直し、いくつかの修正を行ったところ、日曜日のウォームアップでは前日とは見違えるようなハンドリングとなりました。決勝レースで3位に入る上で、セッティングの見直しが大きな効果を発揮したことは間違いありません。

 また、伊沢選手と小暮選手の2人も本当によくがんばってくれました。伊沢選手は非常に丁寧なドライビングで重いマシンを正確にコントロールし、無駄のない走りをしてくれました。一方の小暮選手は、#18 ウイダー HSV-010に乗っていたころから、セパンでは抜群の速さをみせていましたが、今回も期待に違わぬスピードを発揮しました。実は、セパンにおける小暮選手のラインは、ほかのドライバーとは少し違っている部分があります。また、セパンはコースの性格上、周回を重ねていくとコース上に多くのタイヤかすが現れ、これを踏むとタイヤに付着してラップタイムが伸び悩む傾向があります。小暮選手自身がほかのドライバーと違うラインを走行すること自体は一向に構いませんが、そのズレがあまりに大きくなると、多くのドライバーが通るラインの外側に点在するタイヤかすを拾い、これがマシンのペースダウンを引き起こさないとも限りません。そのため、小暮選手にはくれぐれも走行ラインを大きくは外さないようにアドバイスをしましたが、今回はこれをしっかり守ってくれたようで、安定して速いラップタイムを刻んでくれました。

 #100 RAYBRIG HSV-010に続く4位に入ったのは#18 ウイダー モデューロ HSV-010でした。今回、彼らには優勝が狙える圧倒的な速さがありましたが、運がありませんでした。例えば、予選1回目はマコヴィッキィ選手が2番手タイムをマークし、予選2回目でも山本選手が途中までトップとなる区間タイムを記録しましたが、アタック中でコースアウトを喫し、8番グリッドからのスタートとなりました。決勝ではスタートドライバーを務めた山本選手が序盤から激しい追い上げをみせ、18周目にはなんとトップに立ちます。そのあとも2番手をぐいぐいと引き離す快走をみせ、GT500クラスでは一番遅い26周目にピットストップを行いました。ところが、ピット作業が順調に終わり、マコヴィッキィ選手がエンジンを再始動しようとしたところ、エンジンがかからずマコヴィッキィ選手は2度、3度、4度とスターターを回し、ようやくエンジンは息を吹き返しましたが、この間におよそ20秒を費やし、7番手へと転落してしまいました。

 ところがこのあと、マコヴィッキィ選手は1分58秒台という信じられないタイムを連発。あっという間に5番手に浮上します。そのあとは前を走るライバルを攻略できず、このまま終わるかに思えましたが、4番手のドライバーがファイナルラップにほかの車両と接触してコースアウトしたため、#18 ウイダー モデューロ HSV-010は4位に浮上してチェッカーフラッグを受けました。

 今回、#18 ウイダー モデューロ HSV-010はミシュランタイヤの特性をうまく引き出し、ライバルを圧倒する速さをみせました。そのことは、彼らが記録した1分58秒207に続くGT500クラスのベストタイムが、これより1秒も遅い1分59秒279だったことからも分かります(マシンは#100 RAYBRIG HSV-010)。順調にいけば、彼らがセパンのウイナーとなったことは間違いなかったでしょう。ただし、彼らは運命の糸にもてあそばれ、4位に終わってしまいました。次戦ではぜひ、そのパフォーマンスをフルに発揮してほしいものです。

 5位には、#17 KEIHIN HSV-010(塚越広大/金石年弘組)が入りました。これまでの経験から週末は暑くなると予想し、ほかのチームより1ランクほど硬めのミディアムタイヤで出走しましたが、今回はこれが裏目に出て表彰台には手が届きませんでした。

 予選で7番手と久しぶりにかつてのスピードを取り戻した#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/松浦孝亮組)は、決勝レースでは残念ながらそのスピードを保つことができず、結果的に8位に終わりました。ひょっとすると、前述したタイヤかすを拾ってしまったかもしれませんが、いずれにせよ残念な結果に終わりました。

 #32 Epson HSV-010はまたしてもタイヤとコンディションがマッチせず、予選13番手、決勝12位と苦戦しました。ただし、彼らについては次戦に向けて光明が見えているので、第4戦菅生大会を楽しみにしているところです。その詳細は、第4戦菅生プレビューでお知らせしましょう。

 繰り返しになりますが、第3戦セパン大会では優勝こそ逃したものの、#100 RAYBRIG HSV-010がしっかり表彰台に上ってポイントリーダーの座を守ってくれました。また、#18 ウイダー モデューロ HSV-010が抜群の速さを示してくれたことにも強い手応えを感じています。今後もこの勢いを守り、2010年以来となるタイトルの奪還にまい進していきますので、引き続き5台のHSV-010 GTに熱いご声援をくださいますよう、お願い申し上げます。