SUPER GT 2013 GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.62 Rd.2 富士プレビュー HSV-010 GT本来のよさを生かした戦い方 コーナリング性能の高さで富士大会に挑む

 開幕戦を1-2フィニッシュで終えたHSV-010 GTが次に臨むのは富士スピードウェイでの一戦。ダウンフォースが大きく、このため空気抵抗(ドラッグ)も大きめのHSV-010 GTは、ライバルメーカーに比べてストレートスピードの伸びがいいとは言えず、これまで富士スピードウェイでは少なからず苦戦を強いられてきました。さて、今年はどんな戦い方で挑みましょうか?

 すでにお伝えしている通り、2013年モデルのHSV-010 GTは低重心化と重量配分の適正化により、従来型よりも素早くセッティング作業を行うことができ、スライドを起こしてもドライバーがコントロールしやすい特性を手に入れました。この結果、マシンのポテンシャルもさることながら、実戦で実際に発揮できるパフォーマンスが大きく向上しました。開幕戦では、この効果が遺憾なく発揮されたと受け止めています。

 繰り返しになりますが、HSV-010 GT本来の強みは、大きなダウンフォースに支えられた高速コーナーでのスタビリティーであり、優れたシャシー性能が生み出すコーナリングパフォーマンスにあります。つまり、低速でも高速でもコーナリング性能でライバルをしのぐ点にHSV-010 GTの最大のアドバンテージがあるのです。

 一方、これまではストレートスピードの伸びでライバルに引けをとっていたため、これを最大限カバーする空力パーツなどを用意して富士大会に臨んできましたが、裏を返すと、これはHSV-010 GTのよさを損なうことにつながりかねません。つまり、ドラッグを削ればダウンフォースが減り、HSV-010 GTのコーナリング性能が低下するかもしれないのです。これは本末転倒というものでしょう。

 今シーズン、私たちHondaはHSV-010 GT本来のよさを引き出す戦略で富士大会に臨みます。ご存じの通り、富士スピードウェイには高速コーナーが中心となる第2セクターがあり、低速コーナーが連続する第3セクターがあります。こうした部分は本来HSV-010 GTのアドバンテージを発揮できるところであり、ここでの速さを引き出すことでライバルを上回る速さを実現したいと考えています。つまり、背伸びをすることなく、HSV-010 GTらしい戦い方で好成績を狙うという戦略です。

 基本的にはこの考え方で予選と決勝に挑みますが、HSV-010 GTのコーナリング性能を生かして、ベストなラップタイムを追求する予選用セッティングに対し、決勝ではそのバランスを崩さない範囲でダウンフォースを削って、ストレートスピードを伸ばす作業が必要になるでしょう。なぜなら、いくらコーナリングが速くても、ライバルに行く手を阻まれていては本来の性能を発揮できないからです。こうした事態を防ぐには、少なくとも容易には抜かれない程度のストレートスピードを手に入れる必要があります。また、決勝レース中にGT300クラスの車両を安全に追い抜くためにも、ある程度のストレートスピードは必要となります。決勝でダウンフォースを少しだけ削るのは、このような理由があるからです。

 では、5台のHSV-010 GTはそれぞれ富士大会でどんな戦いを見せてくれるでしょうか?

 #100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/小暮卓史組)と#17 KEIHIN HSV-010(塚越広大/金石年弘組)については、全く心配していません。富士大会でも優勝に向かって突き進んでくれることでしょう。#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/松浦孝亮組)は、開幕戦岡山国際大会でファステストラップを記録したことからも分かる通り、速さに関しては全く心配ありません。その岡山国際では、予選での遅れを取り戻すためにハードコンパウンドを装着してスタートしましたが、ウォームアップに予想以上の時間を要してしまったことが上位入賞を逃す最大の原因となりました。従って、セッティングさえうまくまとめることができれば、富士では#100 RAYBRIG HSV-010や#17 KEIHIN HSV-010に迫るスピードを示してくれるものと期待しています。

 今季よりミシュランタイヤを装着する#18 ウイダー モデューロ HSV-010(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)については、タイヤの影響を見極めるまでエキゾースト系を実績ある8-4-2-1仕様のままとしてきました。しかし、開幕戦で示したパフォーマンスを見ると、もはやマシンバランスのことで頭を悩ませることはなさそうです。一方、#18 ウイダー モデューロ HSV-010は3月27〜28日に富士で行われたタイヤテストに8-4-2-1エキゾーストで参加し、良好なデータを収集しているので、第2戦も彼らのみ8-4-2-1エキゾーストで出走する予定です。

 #32 Epson HSV-010(道上龍/中嶋大祐組)は、コンディションにマッチしたタイヤを用意できるかどうかで戦績が決まるでしょう。昨年の第2戦富士大会では雨の予選でポールポジションを獲得しているので、ウエットになれば間違いなく上位争いに絡んでくるはずです。また、開幕戦の岡山国際大会ではドライコンディションでもパフォーマンスの改善が確認されたので、たとえドライになっても健闘してくれるものと信じています。

「勝って兜の緒を締めよ」のことわざ通り、1-2フィニッシュを果たした直後の第2戦富士大会は、今シーズンのタイトル奪還をより確実なものとするために、極めて重要な一戦であると考えています。今年はゴールデンウイーク前半の4月28〜29日に開催されますので、どうかご家族連れで霊峰富士のふもとにたたずむ富士スピードウェイに足を運んでいただき、5台のHSV-010 GTに熱い声援をお送りください。皆さまと富士スピードウェイでお目にかかることを楽しみにしています。