SUPER GT 2013 GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.61 Rd.1 岡山国際レビュー 開幕戦で1-2フィニッシュを達成! 速さに“扱いやすさ”が加わった今年のHSV-010 GT

 SUPER GT開幕戦の岡山国際大会で#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/小暮卓史組)が優勝、そして#17 KEIHIN HSV-010(塚越広大/金石年弘組)が2位に入り、Hondaは1-2フィニッシュを達成しました。HSV-010 GTの1-2フィニッシュは2010年第5戦菅生大会以来なので、およそ3年ぶりとなります。同じく2010年以来3年ぶりとなるタイトル奪還に向けて最高のスタートを切ることができ、大きな手応えをつかんでいます。HSV-010 GTに熱い声援を送ってくださったファンの皆さまには心からお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。

 開幕戦は予選がウエット、決勝はドライと、異なるコンディションのもとで開催されました。予選ではダンロップタイヤを履く#32 Epson HSV-010(道上龍/中嶋大祐組)がフロントローを獲得したものの、土曜日の段階で決勝レースはドライとなるとみられていたため、予選とはまた違った戦いになると考えられました。

 日曜日の朝に行われたフリー走行は、雨で濡れていた路面が次第に乾いていくコンディションとなりました。当然、ここでの結果が決勝レースに色濃く反映されると予想されます。そのフリー走行において、5台のHSV-010 GTが上位に名を連ねることはありませんでしたが、ドライバーのコメントなどからマシンの調子が非常にいいことがうかがえたので、決勝に向けて大きな手応えをつかんでいました。

 その一方で、唯一見通せなかったのがミシュランタイヤの動向です。すでにお知らせした通り、今シーズンより、#18 ウイダー モデューロ HSV-010(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)がHonda勢として初めてミシュランタイヤを装着しますが、彼ら以外にも2台のニッサンGT-Rがミシュランタイヤを使用しています。しかも、うち1台は昨年のチャンピオンカーで、今年も我々の強敵となることが予想されていました。そしてこの日のフリー走行でも、#18 ウイダー モデューロ HSV-010を含む3台のミシュランタイヤ装着車が速いタイムを刻んでいたのです。従って、あとは彼らがどれだけ長くこのペースを維持できるかによって、勝負の行方は決まると予想されました。

 午後2時にスタートが切られると、案の定、ミシュランを履くGT-Rの1台がレースをリードしていきます。そして5周目までには、#17 KEIHIN HSV-010、#100 RAYBRIG HSV-010、#18 ウイダー モデューロ HSV-010の3台がこれを追う構図が出来上がります。実は、この4台による戦いはそのあとも延々と続きましたが、レース半ばのタイヤ交換を行うタイミングが近づいても、ライバルはペースを落とす気配がありません。さらに、こうした状況はレース後半に入っても変わりませんでした。「もしかすると逃げきられてしまうかもしれない」。 そんなかすかな思いが脳裏をよぎったレース終盤、戦いの様相が大きく動きました。

 時刻は午後3時30分過ぎ。このころになると厚い雲で日差しが遮られ、時折り雨がぱらつくようになります。気温は真冬並みの8℃で、一時は20℃近かった路面温度も急激に下がりつつありました。すると、先頭を走るライバルと#18 ウイダー モデューロ HSV-010のペースがじわじわと落ち始めたのです。一方でブリヂストンタイヤを装着する#100 RAYBRIG HSV-010と#17 KEIHIN HSV-010は比較的コンスタントなペースを守っていたので、2台は2番手を走る#18 ウイダー モデューロ HSV-010に急速に追いついていきました。

 #18 ウイダー モデューロ HSV-010に乗るのは新加入のマコヴィッキィ選手。彼にとってはこれがSUPER GTのデビューレースですが、そんなことが信じられないくらい安定した戦いぶりをみせてくれました。おかげで、直後を走る#100 RAYBRIG HSV-010の小暮選手がさまざまなテクニックを駆使して仕掛けても動じることなく、付け入るすきを与えません。そうこうするうちに、それまで0.2〜0.3秒だった2人の差が67周目に0.7秒まで広がります。これがマコヴィッキィ選手の心に油断を生じさせたようです。彼はアトウッドカーブで姿勢を乱すと軽いスピン。すぐに体勢を立て直したものの、このすきに#100 RAYBRIG HSV-010と#17 KEIHIN HSV-010が先行。#18 ウイダー モデューロ HSV-010は4番手となってレースを続けました。

 このあと、#100 RAYBRIG HSV-010と#17 KEIHIN HSV-010の2台は先頭をいくライバルを追走していきます。そしてレースが残り10周を切ったところでテールトゥノーズに追い込むと、そこから3台は緊張感あふれる戦いを5周にわたって繰り広げ、77周目に#100 RAYBRIG HSV-010はライバルと軽く接触しながらオーバーテイク。直後に#17 KEIHIN HSV-010の塚越選手も小暮選手に続き、HSV-010 GTの1-2フォーメーションが出来上がります。これは実に見応えのあるバトルで、サーキットはおおいに沸きました。

 残るは4周。タイヤにまだ余裕のある#17 KEIHIN HSV-010は何度か#100 RAYBRIG HSV-010に襲いかかりましたが、結果的には時間切れとなって#100 RAYBRIG HSV-010が優勝、#17 KEIHIN HSV-010は2位入賞を果たしました。とてもドラマチックで、手に汗握る一戦だったと思います。

 最終的に#18 ウイダー モデューロ HSV-010は5位フィニッシュ。そして#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/松浦孝亮組)はファーマン選手がファステストラップを記録した上で9位完走に漕ぎつけました。#32 Epson HSV-010はポイント獲得にあと一歩及ばない11位に終わりましたが、レース半ばでライバルと接触するアクシデントに巻き込まれなければ、入賞できていたかもしれません。いずれにせよ、#32 Epson HSV-010のドライコンディションでのパフォーマンスが向上してきたことは明らかです。

 5台中3台のHSV-010 GTが優勝争いを繰り広げ、最終的に1-2フィニッシュを果たした開幕戦の結果は、マシンの扱いやすさとセッティングのしやすさを目標とした今シーズンの開発目標が、間違っていなかったことを証明するものです。今後も、優れたエアロダイナミクスとコーナリング性能の高さを武器にして白星を積み重ね、HSV-010 GTで挑む最後のシーズンを栄冠で飾りたいと考えています。引き続き、SUPER GTを戦うHondaに熱い声援をお送りくださいますよう、お願い申し上げます。