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HSV-010 GTの最終仕様でタイトル奪還に挑む、高回転化・高出力化を果たした新エンジンを開発[松本雅彦:GTプロジェクトリーダー]

2010年のデビューシーズンにダブルタイトル獲得の快挙を
成し遂げたHonda HSV-010 GT。
ただし、2014年には新マシンへの切り替えが予定されているため、
HSV-010 GTの勇姿をSUPER GTで見られるのは今シーズンが最後となります。
果たして、最終仕様のHSV-010 GTはどんな姿に生まれ変わったのでしょうか?
GTプロジェクトリーダーの松本雅彦が
その開発のコンセプトと今季の目標について語ります。

 HSV-010 GTをサイドラジエーター化して2シーズン目を迎えた2012年、Hondaは残念ながらタイトルを奪還できませんでした。シーズン序盤は自分たちの思い描いていたストーリーでレースを戦うことができ、強い手応えを感じていましたが、中盤以降は開発が思うように進まなくなり、これにともなって成績も伸び悩んでしまいました。また、マシンのセットアップに時間がかかり、コースへの合わせ込みが完了する前に予選や決勝を迎えるケースが少なからずあったことも、苦戦を強いられた理由の一つでした。

 こうした反省を踏まえ、2013年は一層のパフォーマンスアップを図るとともにトータルバランスを磨き、ドライバビリティーの優れた扱いやすいマシンに仕上げることを目標としました。

 ここで開発の具体的な内容をご紹介しましょう。

 まず、エンジンはエキゾースト系を従来の8-4-2-1集合から8-4-2集合に改めました。そしてテールパイプを前輪の直後に置くことでエキゾーストパイプの全長を短縮し、エンジンの高回転化・高出力化に対応しました。

 Hondaは、これまで甲高いエンジン音を生み出す8-4-2-1集合と性能のバランスにこだわって開発をしてきました。今年の開発のコンセプトとして、エンジンと車体を見直した結果、エンジンは8-4-2集合を採用することにしました。

 これにともない、車体側のラジエーターは前輪直後から一般的な車両前部へと移動しました。つまり、サイドラジエーター・レイアウトからフロントラジエーターに変更したわけです。サイドラジエーターには、Z軸回りのヨーモーメントを減少させるなど、いくつかのメリットがありますが、前輪の直後はサイド・バイ・サイドのバトルでダメージを受けやすい場所でもあり、昨年も実際に3〜4回ほどラジエーターがつぶれてしまうアクシデントに遭っています。また、サイドラジエーターにすることでエアロダイナミクスがやや扱いにくくなるという傾向も認められました。もっとも、フロントラジエーター方式に戻す決め手となったのは、あくまでもエンジンの高回転化・高出力化を可能にする8-4-2集合を採用できる点にありました。また、エキゾースト系がより軽量にできることも8-4-2集合のメリットといえます。

 しかし、ただフロントラジエーター方式に戻すだけでは進歩がありません。そこで我々はラジエーターの軽量化に取り組むとともに、搭載位置をより低くすることで低重心化も同時に成し遂げました。つまり、ヨーモーメントも極力小さくしているわけで、これによってフロントラジエーターのデメリットを最小化できたと考えています。

 エアロダイナミクスについても一層の改善を図りました。“サイドラジエーター2年目”の昨年は、ダウンフォースの絶対量を上乗せするとともに、その特性についてもより扱いやすい方向に改良しました。しかし、フロントラジエーター方式を採用した2013年モデルは、現時点ですでに前年モデルを上回るエアロダイナミクスを実現しています。その上でエンジンのパワーアップを果たしたので、HSV-010 GTのパフォーマンスが大幅に向上したことは間違いないでしょう。

 2013年は参戦体制の面でも大幅な見直しを実施しました。5チーム5台体制でエントリーすることは今季も変わりませんが、ドライバーの組み合わせは大きく変更しています。まず、SUPER GTにデビューした2005年以来、これまで童夢レーシングより参戦し続けてきた小暮卓史選手がチームクニミツに移籍し、伊沢拓也選手とタッグを組みます。一方、昨年までチームクニミツに在籍していた山本尚貴選手はウィダー モデューロ 童夢レーシングに移籍し、新加入のフレデリック・マコヴィッキィ選手とともにHSV-010 GTを駆ります。フランス出身のマコヴィッキィ選手は、昨年のFIA GT1選手権でシリーズ2位の好成績を残しているドライバーです。なお、童夢レーシングはHonda勢として唯一ミシュランのタイヤを装着してSUPER GTを戦うことになります。また、オートバックス・レーシング・チーム・アグリには松浦孝亮選手が新たに加わり、ラルフ・ファーマン選手のチームメートとなります。そしてエプソン・ナカジマ・レーシングは、今年からGT500クラスに参戦する中嶋大祐選手と道上龍選手がコンビを組みます。ケーヒン リアル レーシングでは塚越広大選手と金石年弘選手が続投します。

 また、タイヤメーカーについてはこれまでのブリヂストンとダンロップの2社体制から、ミシュランを加えた3社体制へと改めました。昨年、そして一昨年と、レースによってはミシュランが侮れない強さを示し、結果として2年連続のタイトル獲得を成し遂げています。「我々もミシュランを装着すればタイトルを獲得できる」と安易に考えているわけではありませんが、タイヤメーカーの競争力がより激化する中で同じ土俵に立って競うことも必要であると考えています。

 シーズンを通じての戦い方ではどうでしょうか? HSV-010 GTはデビュー当初より富士スピードウェイを苦手としていると言われ続けてきました。この点に関しては状況の改善に取り組み、一定の成果を挙げることができたと認識しています。

 やはり得意なサーキットで確実に勝てるようにしたいですね。具体的にいえば、岡山国際、セパン、そして鈴鹿の3コースで確実に優勝する。そうすることでチャンピオン争いを有利に進めたいと思います。

 前述の通り、HSV-010 GTがSUPER GTを戦うのは今シーズンが最後となります。あの甲高い官能的なエキゾーストサウンドを失ったことは残念ですが、ファンの皆さまにはなによりも成績でご期待にお応えしたいと考えています。今シーズンもサーキットを疾走する5台のHSV-010 GTに厚い声援をお送りくださいますよう、心からお願い申し上げます。

松本雅彦からファンの皆様へ