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レーシングハイブリッドの可能性をさらに高めるために……[平沼英勇:CR-Z GT パワープラント責任者]

2012年第4戦スポーツランドSUGO大会で
SUPER GTのGT300クラスにデビューしたHonda CR-Z GT。
Honda初の本格的なレーシングハイブリッドマシンとなったCR-Z GTは、
第5戦鈴鹿大会でポールポジションを獲得、第6戦富士大会で3位表彰台を
勝ち取るなど、デビューシーズンとは思えない目覚ましい活躍を示しました。
ここでは、2シーズン目となる2013年に向けての抱負を
CR-Z GT パワープラント責任者である平沼英勇が語ります。

 皆さまの目からご覧になると「CR-Z GTは完成度が高い」と思われたかもしれませんが、実際に現場を受け持っている我々は、マシンの挙動を含め、実はヒヤヒヤの連続でした。そもそも、構想から完成までわずか半年ほどでこぎ着けましたから、レーシングカーの開発としてはかなりあわただしいスケジュールだったといえます。

 それでも致命的なトラブルが発生することもなく、まずまず順調に戦えたのは、車体、エンジン、トランスミッションを含め、既存のパーツをできるだけ利用したことが理由として挙げられます。例えば、車体面でいえばロールケージのデザインはオーソドックスで、そのほかにもHSV-010 GTで使っているパーツを流用するなどして信頼性を確保しました。

 一方、ハイブリッドシステムのパフォーマンスは期待通りのもので、レースではそれなりに活躍してくれたと認識しています。もっとも、弱点がなかったわけではありません。その最たるものが熱害でした。

 ハイブリッドシステムの要であるモーター、バッテリー、インバーターは、いずれも使えば使うほど熱を発生します。しかも、これらは電機部品の特性上、あまり温度が高くなると十分に性能を発揮しなくなったり、最悪の場合には破損することも考えられます。そこで我々はシステムの冷却に細心の注意を払っているのですが、それでも使用状況や外気温などの条件によっては、システムの使用を一時中断しなければいけないケースが出てきます。

 そうでなくとも、CR-Z GTはキャビン後方のエンジンルームという冷却面で極めて不利な場所にモーターを搭載しています。そこでできるだけ多くのエアフローを導くなど、冷却効果を最大限に高めるように取り組んでいますが、システムに用いるリチウムイオン・バッテリーの冷却は困難を極めます。具体的には、車体前部のエンジン冷却用ラジエーターの脇にバッテリー冷却用のラジエーターを置き、電動ポンプで冷却水を循環させてバッテリーを冷やす水冷方式を採用していますが、どんなに冷却効率を高めても外気温以下までバッテリーを冷やすことはできません。ところが、夏場のレースでは路面温度が50℃近くまで上がることになり、そうなると、いくら冷やそうとしてもバッテリーはかなり厳しい環境に追い込まれ、最悪の場合には一時的に使えなくなってしまいます。

 SUPER GTに出場するハイブリッドカーは、ハイブリッドシステムが一ラップあたりに生み出す平均出力分が相殺されるようにエアリストリクターの径が絞られています。裏を返せば、ハイブリッドシステムが正常に作動している状態で初めてほかのレーシングカーと性能が釣り合うようにエアリストリクター径が設定されているのです。にもかかわらず、バッテリーの温度が高くなりすぎてハイブリッドシステムが使えなくなると、システムが発生していた出力をまるまる失うことになり、相対的な競争力は大きく落ち込みます。例えば、ポールポジションを獲得した第5戦鈴鹿大会の決勝では、裏ストレートで次々とライバルたちに抜かれてしまいましたが、あのときがまさにこれでした。なにしろ、あのレースでは路面温度が45℃まで上昇し、ハイブリッドシステムをほとんど使えない状態に追い込まれたのです。こうなると、重さ57kgのハイブリッドシステムはただの重りでしかありません。しかも、エアリストリクター径はあらかじめ絞り込まれています。ライバルたちに太刀打ちできなかったのは、このためでした。

 これとは対照的に、気温が12〜13℃まで下がった特別戦のJAFグランプリ富士スプリントカップでは、ハイブリッドシステムを有効に使用できました。第1レースを戦った中嶋大祐選手はこれまでで最高位となる2位、第2レースを戦った武藤英紀選手も7位という結果を残してくれました。

 Hondaとしては、2012年シーズン中の仕様変更はありませんでしたが、今年はバッテリーの冷却能力改善に向けて、引き続き向き合っていく予定です。そうした中で、2013年はレースでの優勝を目標に、全力で戦っていく覚悟でいます。

 参戦体制としてはチーム 無限が昨年に続いてエントリーするほか、新たにオートバックス・レーシング・チーム・アグリが加わり、2台体制となります。ドライバーはチーム 無限が武藤選手と中山友貴選手、オートバックス・レーシング・チーム・アグリは高木真一選手と小林崇志選手が務めます。

 ところで、ハイブリッドシステムの制御プログラムはレースごとに用意しますが、どのモードを選択するか、もしくはどこで追加のアシストを使用するかについてはすべてドライバーが判断します。システムを使えば当然、温度が上がり、場合によってはそれ以上使えない状況に追い込まれることもあります。そこでドライバーには、目の前の勝負を優先してハイブリッドを使うのか、それともコンスタントなハイブリッドの使用を優先して我慢するのか、という今までになかった判断が求められることになります。これはレースに新たな要素が増えることにつながり、エンジニアのみならずモータースポーツの人気を高めるのに役立つのではないかと思っています。

 ハイブリッドシステムを搭載してSUPER GTに挑むCR-Z GTの活躍に、今シーズンもどうかご期待ください。

平沼英勇からファンの皆様へ