2012年シーズン総集編の後編は、まず、前編とは少し違った視点からHondaの戦いぶりを振り返ってみることにしましょう。
前編では、多くのハンディウエイトを積むシーズン後半になってからセッティングに苦しみ、HSV-010 GT本来のパフォーマンスを発揮できなくなったとお伝えしました。また、車重が重くなったときにラップタイムが低下するのは自然の摂理であり、一定の範囲内であればやむを得ないこともご説明しました。
12年のHonda勢は、セッティングのスイートスポットが狭いことからハンディウエイトの影響を必要以上に大きく受けましたが、タイトルを狙うマシンがシーズン後半に入って上位入賞が難しくなったとき、同じメーカーの僚友が代わりに上位に食い込むことで、ライバル陣営にポイントを奪われるのを防ぎ、結果としてチャンピオン争いを有利に進めるという戦略があります。昔から「攻撃は最大の防御なり」といいますが、SUPER GTでも同じことが当てはまるのです。
こういった面からいえば、自陣営の1チームだけを突出して速くさせるのではなく、全チームのパフォーマンスを平均して高くさせることが、タイトルを獲得する上で重要であることが分かります。前任者の瀧敬之介がプロジェクトリーダーを務めていた時代から「Hondaチーム全体の底上げ」を目標に掲げてきたのは、このような背景があったからです。
この点、12年のHondaチームは、ハードウエア面のトラブルに苦しめられた#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/小林崇志組)を除くと、各チームの競争力はある程度そろっていたと考えられます。ただ惜しむらくは、もう少し高いレベルで足並みをそろえたかった。それができれば、タイトル獲得のチャンスがもう少し広がったと思います。
シーズンを通じての戦い方という面でいえば、タイヤの特性も大きな影響を及ぼします。現在、SUPER GTのGT500クラスにタイヤを供給しているのは全部で4メーカー。このうち、Hondaはブリヂストンとダンロップの2メーカーを使用していますが、やはり各メーカーにはそれぞれの特色があり、強みと弱みがあります。
まず、ブリヂストンについていえば、シーズンを通じて安定して強いという特性がありますが、とりわけ温度が比較的低いときに優れた性能を発揮する傾向があります。弱点はほとんどありませんが、あえていえばウエットタイヤの性能がライバルメーカーにやや劣っていたことでしょう。ただし、これは13年に向けて大きな進歩を遂げました。
もう一つのメーカーであるダンロップは、安定したパフォーマンスを長く発揮し続けるという特徴がありますが、ドライコンディションにおける絶対的なパフォーマンスではブリヂストンに後れを取ります。ただし、ウエットコンディションで抜群の性能を発揮することは、終盤の2戦で#32 EPSON HSV-010(道上龍/中山友貴組)が2戦連続の表彰台を勝ち取ったことからも明らかです。
12年のチャンピオンチームが装着したタイヤメーカーの特性は、ブリヂストンとは対照的に、気温の高い夏場に強い傾向が見受けられます。例えば、今年でいえば、まだあまり暖かくない第1戦と第2戦は8位、7位という結果に終わったものの、第4戦以降は5戦連続でトップ3に食い込み、チャンピオンを勝ち取ったという具合です。
なにを申し上げたいかといえば、自分たちにとって有利なときに積極的に勝ちにいくことができれば、タイトル獲得の可能性は広がるということです。その意味からも、比較的気温の低い第1戦と第2戦で#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)が2戦連続の2位に入ったことは、大変好ましい展開でした。しかし、再び気温が下がる第6戦、第7戦、第8戦でも好成績が期待されましたが、結果的にはそれができませんでした。シーズン後半戦の成績が伸び悩んだことを問題視する理由は、この点にもあります。
では、13年に向けて我々がすべきことはなにか?
チームが短時間でセッティングをまとめられる扱いやすいマシンにすること。そして、ドライバーが状況を理解しやすいマシンにすること。この2点が、13年に向けた最大の開発テーマとなる見通しです。
セッティングに時間がかかるという傾向は、11年にサイドラジエター化を実施してから顕著になってきました。実際のところ、現在のHSV-010 GTは数値的にすばらしい空力特性を実現しています。しかし、ピークの性能を追いすぎた結果、ちょっとしたコンディションの変化でも特性が大きく変わるマシンになっていたのかもしれません。そこで13年シーズンに向けては、空力特性や重量配分などを見直し、前述した「扱いやすいHSV-010 GT」の開発を目指していく予定です。
12年も残すところわずかとなりました。我々は今後も2013年モデルの開発を進め、年明けからテストを行う計画を立てています。目標がタイトルの奪還にあることはいうまでもありません。今年一年間、温かいご声援をいただき、本当にありがとうございました。13年も引き続きHSV-010 GTを応援してくださいますよう、心からお願い申し上げます。