GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.58 2012年シーズン総集編 前編 シーズン後半の苦戦でタイトル奪還のチャンスを逃す鍵を握ったのは“セッティングのスイートスポット”

 2012年シーズンが幕を閉じて1カ月半ほどが過ぎました。我々Honda GTプロジェクトのメンバーは、早くも来シーズンに向けた準備に全力で取り組んでいるところですが、今回と次回はシーズン総集編と題し、長く苦しい戦いとなった12年を振り返ることにしましょう。

 まず、12年の成績をかいつまんでご紹介すると、優勝は#18 ウイダー HSV-010(小暮卓史/カルロ・ヴァン・ダム組)が第3戦セパン大会で挙げた1勝のみ。表彰台は#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)が第1戦岡山国際大会(2位)と第2戦富士大会(2位)の2度、#32 EPSON HSV-010(道上龍/中山友貴組)は第7戦オートポリス大会(2位)と第8戦もてぎ大会(3位)の同じく2度、#18 ウイダー HSV-010は優勝した第3戦セパン大会での1度のみ、そして#17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大組)は第1戦岡山国際大会で3位表彰台を手に入れています。ドライバーズランキングでは#100 RAYBRIG HSV-010が43点で5位、#18 ウイダー HSV-010は40点で6位、#17 KEIHIN HSV-010は30点で12位、#32 EPSON HSV-010は26点で14位、#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/小林崇志組)は12点で16位という結果です。

 目標だったタイトル奪還はかなわず、優勝も1度だけという成績は、Hondaとして不本意なものだったと言わざるを得ません。プロジェクトを預かる身としては、なぜこのような結果に終わったかを分析し、その対策を講じることが当面の最重要任務であると考えています。

 では、Hondaにとっての12年はどのようなシーズンだったのでしょうか? 私なりの視点でまとめてみたいと思います。

 まず、前半戦の展開はほぼ予定通りでした。開幕戦では2台のHSV-010 GTが表彰台に上り、第2戦富士大会でも2位を獲得。第3戦セパン大会では優勝を遂げたのですから、決して悪い流れではありません。目標とするタイトル奪還も不可能ではないと、この段階では捉えていました。

 シーズン前半に好成績を挙げることができたのは、チームとドライバーの奮闘もさることながら、12年に向けて行ったマシン開発の成果でもありました。今シーズンは、特にドラッグ(空気抵抗)の削減とダウンフォース量の維持を目標に開発を進め、新型のリアウイングなどを完成させていましたが、これらが狙い通りの性能を発揮した結果、第3戦までに優勝1度、表彰台3度という好成績を収めることができたのです。

 しかし、第4戦菅生大会以降、我々は勝利の女神から見放されてしまいます。その第4戦では、ミドルアンダーというハンドリングの不調に悩まされ、最上位は#18 ウイダー HSV-010の7位。続く第5戦鈴鹿大会では、#17 KEIHIN HSV-010が優勝に向けて突き進んでいましたが、2度のパンクに見舞われてしまいます。このレースにおけるHonda勢の最上位は#8 ARTA HSV-010の7位でした。

 これ以降も苦戦が続きましたが、そうした中、数少ない救いとなったのが、終盤の2レースで#32 EPSON HSV-010が2戦連続の表彰台を獲得したことでした。どちらも、ウエットコンディションのレースでダンロップタイヤがすばらしいパフォーマンスを発揮したことが大きな要因となりましたが、これを好機と捉え、しっかりと好成績を挙げてくれたエプソン・ナカジマ・レーシング、並びに道上、中山の両選手の奮闘も賞賛に値すると思います。

 このように、ときに光る部分もありながら、シーズンを通して見ると残念な結果に終わってしまいました。その理由はどこにあったのでしょうか?

 レース展開や天候などの面で、自分たちの思い通りにならなかったのは事実です。しかし、それらとともに、各マシンに積まれるハンディウエイトが重さを増したシーズン中盤戦以降、HSV-010 GTは次第に本来の速さを発揮できなくなってしまいました。ハンディウエイトが累積していけばスピードが低下するのは自然の摂理であり、当然のことです。しかし、HSV-010 GTはどのライバルマシンよりも、ハンディウエイトの影響を強く受けていたように見えました。

 その最大の理由は、ハンディウエイトを積んだ状態でのHSV-010 GTのセッティングが難しいことにありました。これについては「vol.55 Rd.8 ツインリンクもてぎレビュー」でも触れていますが、ハンディウエイトを積むとセットアップの幅が狭くなり、セッティングに長い時間がかかるようになってしまったのです。

 では、その原因はどこにあったのでしょうか? そして、来季に向けてどのような対策をするのでしょうか? まだあまり詳しくはご説明できませんが、次回はその一部をご紹介することにしましょう。