GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.57 富士スプリントカップ・レビュー “冬の富士”に強いHSV-010 GTが総合3位に食い込む 2013年シーズンに向けた開発の新たなヒントを掴む

 SUPER GTとフォーミュラ・ニッポンが同日開催されるモータースポーツの祝祭「JAF Grand Prix 富士スプリントカップ」が、今年も富士スピードウェイを舞台に、11月16〜18日の3日間にわたって開かれました。

 SUPER GTのGT500クラスでは、第1レースで#17 KEIHIN HSV-010に乗る塚越広大選手が2位、そして第2レースで#100 RAYBRIG HSV-010に乗る伊沢拓也選手が3位に入り、総合成績では#100 RAYBRIG HSV-010が合計14ポイント(山本尚貴選手/5位、伊沢選手/3位)を獲得して3位になりました。

 これらは、苦手意識の残る富士スピードウェイでの成績としては決して悪くありませんが、昨年の富士スプリントカップでは、同じ#100 RAYBRIG HSV-010が総合2位(山本選手/8位、伊沢選手/優勝)の成績を残していますので、昨年に比べれば一歩後退といえなくもありません。

 その一因は、第1レースもしくは第2レースのいずれかで優勝ができなかったことにもありますが、これには天候というファクターも大きく影響していました。というのも、雨が強く降る中で行われた第1レースでは、塚越選手が終始トップを走行していたものの、コンディションのあまりの悪化から主催者がセーフティカーの導入を決定。この直前に塚越選手はハイドロプレーニング現象を起こしてスピンを喫し、ライバルの一台にトップの座を奪われていました。その後、レースは数周のセーフティカーランを行ったところで赤旗中断とされ、結局そのまま終了となります。つまり、塚越選手は惜しいところで優勝のチャンスを逃したのです。

 さらに残念なことに、レースが当初の半分に満たない10周で打ち切られたことにより、獲得できるポイントも半分となり、2位の塚越選手は7.5点、5位の山本選手は3点を手に入れるにとどまりました。実は、総合2位となったチームと#100 RAYBRIG HSV-010はわずか1点差。従って、もしもポイントが100%与えられていれば、#100 RAYBRIG HSV-010は総合2位となっていたでしょうし、塚越選手が2位に入った#17 KEIHIN HSV-010は3位になっていたはずなのです。

 こういった計算はレースで禁物の“たられば”に過ぎず、いまさら考えても仕方のないことですが、どちらかといえば富士を苦手としているHSV-010 GTが、今年も富士スプリントカップでライバルに匹敵するパフォーマンスを発揮したことは、このようなデータにも表れていると思います。

 では、どうしてHSV-010 GTは富士スプリントカップで通常のシリーズ戦を上回るパフォーマンスを発揮できるのでしょうか?

 理由としては気温や路面温度、さらにはこれらにともなうダウンフォース量の変化などが考えられますが、まだ完全に解明できたわけではありません。いずれにしても、こうしたメカニズムを正確に理解することができれば、シリーズ戦におけるHSV-010 GTのパフォーマンスをより高めるのに役立つと思われます。つまり、富士スプリントカップの結果には、今後の開発のヒントになることが隠されているかもしれないのです。

 ここで、今年の富士スプリントカップでの成績を改めて振り返ってみると、最上位は第1レースにおける#17 KEIHIN HSV-010の2位、それに続くのは第2レースにおける#100 RAYBRIG HSV-010の3位で、以下、成績順に挙げると#100 RAYBRIG HSV-010の第1レースの5位、第1レースならびに第2レースで#18 ウイダー HSV-010が挙げた7位、#8 ARTA HSV-010の第1レースの8位、#8 ARTA HSV-010の第2レースの9位、#32 EPSON HSV-010の第1レースの10位、#32 EPSON HSV-010の第2レースの12位、#17 KEIHIN HSV-010の第2レースの15位となります。#17 KEIHIN HSV-010は第2レースで原因不明のバイブレーションに見舞われ、本来は必要のないピットストップを行ったために最下位に沈みましたが、これを別にしても、好成績を収めたチームとそうでないチームがはっきりと分かれていることが分かります。その理由はさまざまですが、私自身は、チームの実力を底上げするという我々の目標が、まだ十分に達成できていないからだと捉えています。

 毎戦のレース結果に応じてハンディウエイトが課せられるSUPER GTでは、たとえ1台のパフォーマンスが優れていても、メーカーとしての平均的な実力が高くなければタイトル獲得は困難になります。なぜなら、シーズン前半に好成績を収めるとハンディウエイトが急速に加算され、後半戦で苦戦することになるからです。このときに重要となるのが他チームからのサポートです。つまり、ハンディウエイトが累積して自力による上位入賞が難しくなったとき、同じHonda陣営の他チームが好成績を収められれば、ライバルチームにポイントがわたるのを阻止できるのです。そのため、すべてのHondaチームの実力を向上させることが重要となるのです。

 今回の富士スプリントカップを通じ、私たちは多くのことを学びました。ここで得られた知見は、来年以降のHondaの戦い方に生かされるはずです。それらについては、次回以降にお届けするシーズン総集編でご紹介することにしましょう。

 いずれにせよ、富士スプリントカップをもって、2012年シーズンは幕を閉じました。今年も一年間、Hondaを応援いただき、誠にありがとうございました。来年もタイトル獲得を目標としてシリーズに挑みますので、引き続きSUPER GTを戦うHSV-010 GTに温かいご声援をいただきますよう、心よりお願い申し上げます。