GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.56 富士スプリントカップ・プレビュー 100kmスプリントレースならではの“富士攻略法”HSV-010 GTの速さを最大限生かすセッティングで今年も栄冠を目指す

 SUPER GTはシリーズ戦の全日程を終え、あとは11月16〜18日に富士スピードウェイで開催される「JAF Grand Prix 富士スプリントカップ」を残すのみとなりました。今年の富士スピードウェイで開催されたシリーズ戦では、第2戦で#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)が挙げた2位が最上位となっており、そのほかのHSV-010 GTは引き続き苦戦を強いられています。しかし、富士スプリントカップではこれまであまり見られなかったような戦い方をすることで、昨年に続く栄冠の獲得に挑戦します。

 ここで富士スプリントカップについて簡単にご説明しましょう。レース距離はいつもの300kmより格段に短い100km。スプリントレースなので、シリーズ戦のようなピットストップもありません。スタートしたら100km先のゴールを目指してひたすら走る。それが富士スプリントカップの醍醐味です。

 ただし、このままでは1レースにつきドライバー1人しか出場できません。そこで富士スプリントカップでは、SUPER GTを土曜日と日曜日に1レースずつ開催。それぞれのレースに1人ずつが出走し、その成績をチームごとに合算して順位を決めます。ちなみに、昨年の第2レースでは伊沢拓也選手が#100 RAYBRIG HSV-010を駆って優勝。#100 RAYBRIG HSV-010は、総合でも2位に食い込む好成績を挙げてくれました。今年もこれと肩を並べる成績が目標となります。

 一方、マシンに関してはこれまで富士スピードウェイを戦ってきた仕様がベースとなります。ただし、富士スプリントカップの特色を考慮に入れ、HSV-010 GTのパフォーマンスを最大限生かす戦術でこの一戦に挑むことになります。

 すでに皆さんご存じの通り、HSV-010 GTはコーナリング性能の高さに最大の特徴があります。富士でいえば、コーナーが連続する第2セクターから第3セクターにかけてが、HSV-010 GTが最も得意とするセクションです。その一方で、ダウンフォースが大きいためにドラッグも大きく、この影響でストレートスピードの伸びはライバルチームに一歩譲るというのが、富士におけるHSV-010 GTの傾向でした。これを補うため、これまではダウンフォースをギリギリまで削ってドラッグを減らし、コーナリング性能とストレートスピードの最良の妥協点を追い求めるセッティングを実施してきました。

 実は、ストレートスピードの伸びを追求したのは、ラップタイムを縮めることが目的だったわけではありません。ストレートでのスピードが伸びないと、いくらラップタイムは速くても、何かの拍子でライバルに追いつかれた際に抜かれてしまう恐れがあったため、そうしたセッティングを採用したのです。また、GT300クラスのマシンをスムーズにオーバーテイクするという意味でも、ストレートスピードの伸びは重要でした。

 しかし、富士スプリントカップは100kmレースの一発勝負です。また、シリーズ戦とは異なり、GT500クラスとGT300クラスのレースは別々に行われます。このため、戦術を考慮してストレートスピードを追求する必要はあまりありません。そこで今回は、コーナリングスピードをできるだけ速くしてラップタイムを縮め、予選でポールポジション(PP)を獲得するとともに、決勝ではライバルたちに追いつかれる前に逃げきって優勝するという展開を期待しています。

 また、たとえPPが獲得できなかったとしても、富士スプリントカップのもう一つの見どころであるスタンディングスタートを利用し、ここでポジションを上げて自分たちに有利なレース展開に持ち込むという作戦も考えられます。

 チーム別にいえば、ドライコンディションの場合は#17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大組)、#18 ウイダー HSV-010(小暮卓史/カルロ・ヴァン・ダム組)、#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)がトップ争いを演じてくれるでしょう。また、ウエットコンディションとなれば、第7戦オートポリス大会や第8戦もてぎ大会のように#32 EPSON HSV-010(道上龍/中山友貴組)が大活躍してくれるはずです。今季は不運続きだった#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/小林崇志組)も、富士のセッティングは決まっているだけに、これまでの不振を吹き飛ばすような快走をみせてほしいところです。

 いずれにしても、富士スプリントカップではチャンピオン争いのプレッシャーから解放されたドライバーたちによるエキサイティングなレースが見られます。11月中旬の富士周辺はやや肌寒く感じられるかもしれませんが、どうか暖かい服装をなさって、富士スプリントカップを戦う5台のHSV-010 GTに熱い声援をお送りください。皆さんのご来場を心よりお待ち申し上げております。