GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.51 rd.6 富士レビュー 指の間をすり抜けていった表彰台獲得のチャンス #17 KEIHIN HSV-010を襲ったオープニングラップの不運

 またもや悔しいレースとなってしまいました。Honda勢の最上位は、#17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大組)が記録した予選8番手、決勝5位という成績。彼らを含め、どのチームも全力を振り絞ってくれたことは承知しており、その点は心から感謝していますが、それにしてもHondaにとっては到底受け入れることのできない不本意な結果でした。どうしてこのような結果に終わってしまったのか、順を追って振り返ってみることにしましょう。

 引き続き苦手意識の強い富士スピードウェイですが、前回のプレビューでもお知らせした通り、今回は空気抵抗を低く抑える新しいフロントフェンダー周りのパーツを投入しました。これは、後方を確認するためのドアミラーをフロントフェンダー上部に移設するとともに、この部分の形状を利用してスムーズなエアフローを実現しようとしたもので、前回もお知らせした通り、8月9日・10日に富士スピードウェイで行われた公式テストで効果を有していることが確認されていました。

 これも前回お伝えしたように、我々は富士スピードウェイだからといっていたずらにストレートスピードの伸びを追い求めるのではなく、コーナリング性能の優れたHSV-010 GTの特質を生かしながら、無理のない範囲でストレートスピードも改善するスタンスでセッティングを進めました。これは今年の第2戦富士大会で用いた考え方で、このときに一定の成果を収めていたことから、今回も採用することにしました。

 しかし、レースウイークに入ってからも、5台のHSV-010 GTは期待されたスピードを見せることができませんでした。初日の公式練習では#17 KEIHIN HSV-010が8番手に食い込んだのを除くと、残る4台は10〜15番手に沈み込んでいる状態。原因を一つに絞り込むことはできませんが、セットアップをうまくまとめきれなかったことと、Honda勢を覆う富士スピードウェイへの全般的な苦手意識が、このような結果を招くきっかけとなったように思います。

 こうした状況は公式予選でも変わらず、Honda勢のベストは#17 KEIHIN HSV-010の8番手にとどまり、続いて#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/小林崇志組)の10番手、#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)の12番手、#32 EPSON HSV-010(道上龍/中山友貴組)の14番手、#18 ウイダー HSV-010(小暮卓史/カルロ・ヴァン・ダム組)の15番手となりました。

 このうち、ハンディウエイトが20kgと軽い#8 ARTA HSV-010は、シーズン前半に苦しんでいた問題点が解消されたこともあり、今回は優勝も視野に入れていたのですが、予選では路面の凹凸でマシンが跳ねる症状が治まらず、予想外の結果に終わってしまいました。「予想外」という意味では#18 ウイダー HSV-010の15番手も同様で、なぜ、彼らが本来の実力を発揮できなかったのかについて、我々エンジニア陣は頭を悩ますこととなりました。

 ところが、決勝のスタートでこうした状況は一変します。予選12番手だった#100 RAYBRIG HSV-010がジャンプアップを果たし、7番手となってオープニングラップを走りきったのです。しかも、ポイントテーブルで現在トップのライバルはこのとき9番手だったので、チャンピオン争いの形勢逆転を図るには絶好の展開でした。

 しかし、そのあと#100 RAYBRIG HSV-010のペースは伸び悩み、徐々に順位を落としていってしまいます。スタート時には予選で使用したソフトタイヤを装着していましたが、76kgのハンディウエイトによる影響が大きく、思ったよりも早くペースが落ち始めてしまったのです。そこで23周目にピットストップし、ハードタイヤへの交換を行いましたが、ペースを上げることができず、最後まで巻き返しを図れないまま12位でフィニッシュすることになりました。

 一方、8番グリッドからの追い上げが期待された#17 KEIHIN HSV-010は、オープニングラップのダンロップコーナーでライバルたちに囲まれて行き場を失い、縁石に乗り上げてハーフスピンを喫してしまいます。これで一時は14番手までポジションを落としましたが、そのあとは金石選手と塚越選手が安定したペースで走り続けてくれたこともあり、5番手まで追い上げてチェッカーフラッグを受けました。このとき、3位でフィニッシュしたライバルとの差は17秒ほど。レースに“たられば”が禁物であることはいうまでもありませんが、「もしもオープニングラップでハーフスピンをせず、そのまま走りきっていたら……」と思わずにはいられませんでした。

 #8 ARTA HSV-010は淡々と走りきって9位完走を果たしました。一連のトラブルが解消されたとはいえ、その間、シャシーのセットアップが思うように進まなかったことが、今回の不振に結びついてしまいました。予選で彼らを苦しませた“跳ね”の症状を完全には打ち消せなかったことも、ファーマン選手と小林選手を苦しませました。20kgと軽いハンディウエイトのメリットを生かしきれなかったのは、この辺りに理由があったと思われます。

 14位で完走した#32 EPSON HSV-010は引き続きタイヤとマシンのマッチングが最大の課題です。また、レース序盤にドライビングスルーペナルティを科せられましたが、これは決勝当日の朝に行われたフリー走行において、マーキングを行っていないタイヤで走行した責任を問われたものです。全く初歩的なミスで、お恥ずかしい限りです。

 後方グリッドからスタートした#18 ウイダー HSV-010は、レース半ばにパワーステアリングのトラブルが発生。その原因がエレクトロニクス系ではなくメカニカル系だったために修復に時間がかかることが予想されたので、26周を走行したところでリタイアしました。

 これでHonda勢が表彰台に上っていないレースが3戦続いてしまいました。チャンピオン争いの面でも一層厳しい状況になったと言わざるを得ません。残るは2戦。Honda勢としては、一台でも多くのHSV-010 GTがタイトル獲得の可能性を残して最終戦に臨むことを目指し、次戦オートポリス大会でも全力を投じることになります。幸い、8月29日・30日にオートポリスで行われたタイヤメーカーテストでは好感触が得られました。この点は、次回オートポリスのプレビューでお伝えすることにしましょう。引き続き、5台のHSV-010 GTに熱いご声援をお送りくださいますよう、お願い申し上げます。