今シーズンも、残すところ公式戦は3戦のみ。一方、Honda陣営はSUPER GT第3戦セパン大会以来、勝ち星のないレースが2戦続いてしまいました。チャンピオンシップのことを考えても、次戦で形勢逆転を図りたいところですが、戦いの舞台はストレートスピードが勝負のカギを握る富士スピードウェイです。この大切な一戦における我々の戦い方を、ここでご説明しましょう。
コーナリングを得意とするHSV-010 GTは、空力特性もダウンフォースを大きめに設定することで、その能力を最大限に引き出しています。裏を返せば空気抵抗はどうしても大きめとなり、これがストレートスピードの高さが求められる富士スピードウェイで苦戦を強いられる理由となっていました。いくらエンジン出力が大きくても、空気抵抗が大きければ最高速度は伸び悩みます。
「富士スピードウェイでは空力抵抗が小さいエアロダイナミクスにすればいいのでは?」 きっと、同じことを多くの人たちが考えることでしょう。我々にしても、もしもこれが実現できるのであれば、すぐにでも採用します。けれども、ウイングなどの空力デバイスより、ボディそのものの形状がエアロダイナミクスに決定的な影響を及ぼすGTマシンでは、コースに合わせて特性を大きく変化させることは、事実上不可能です。各社ともコースによって得意不得意が分かれるのはこのためです。
では、どうして私たちはダウンフォースの大きなエアロダイナミクスにしたかといえば、これは前述の通り、HSV-010 GTのコーナリング性能を最大限に引き出すためです。幸い、SUPER GTの舞台となる各サーキットは、富士スピードウェイを除けばどこも大きめのダウンフォースを必要とするところばかりです。チャンピオンシップのことを考えても、この方が有利であるという判断に立っての決定でした。
とはいえ、年2回開催される富士スピードウェイでの戦いを捨てるわけにはいきません。そこで、ここでは空力抵抗を減少させるさまざまなデバイスを投入し、少しでもストレートスピードを伸ばす工夫を施してきました。8月9日・10日に同サーキットで行われたSUPER GT公式テストでは、ドラッグを削減するフロントフェンダー周りのパーツを試したところ、一定の効果が得られたので、第6戦富士大会でもこのデバイスを投入するつもりです。
ただし、本来HSV-010 GTが持っているバランスのよさを壊してまでストレートスピードを追求するつもりはありません。それをしても、ストレートスピードの伸びには限界があるばかりか、HSV-010 GTの大切な武器であるコーナリング性能が大きく損なわれる恐れがあるからです。確かに富士スピードウェイは全長1.5km近くもある長いストレートが勝負どころになりますが、コーナーが連続するセクター2からセクター3にかけての通過スピードもラップタイムに見逃せない影響を与えます。ですから、我々としては、セクター2からセクター3にかけてのタイムがあまり落ち込まない範囲でドラッグを減らし、富士スピードウェイでの戦いをより有利に進められるように準備を進めているところです。この戦法は、今年の第2戦富士大会でも採用し、#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)が2位入賞を果たす原動力となったものです。
一方、第6戦富士大会は、ハンディウエイトがフルにかけられるシーズン最後のレースでもあります。ここで#100 RAYBRIG HSV-010は76kg、第3戦セパン大会で優勝した#18 ウイダー HSV-010(小暮卓史/カルロ・ヴァン・ダム組)は68kgの重いハンディウエイトを積んで挑むことになりますが、昨年のデータを見ても、ウイナーは30kg、2位は62kgと、ハンディウエイトの軽さが上位入賞のカギを握っていることが分かります。ちなみに、昨年の3位は60kgを積んだ#17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大組)でしたが、今年も表彰台を狙うにはハンディウエイト60kg前後、できれば50kg以下であることが、一つの目安になりそうです。
この点からいえば、第5戦鈴鹿大会でも首位を快走した#17 KEIHIN HSV-010(ハンディウエイト48kg)には昨年に続く表彰台を期待したいところです。そして、彼らと並んで大きなチャンスがあると思われるのが、ハンディウエイトが20kgと軽い#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/小林崇志組)です。すでにお知らせしたように、彼らはシーズン前半に苦しんだトラブルを第4戦SUGO大会の週末に解決しているので、富士スピードウェイでは本来のパフォーマンスを発揮してくれるでしょう。20kgのハンディウエイトが、そのとき、大きくものをいってくれるはずです。
#32 EPSON HSV-010(道上龍/中山友貴組)に関しては、引き続きタイヤとマシンのマッチングがポイントとなります。とはいえ、今年の第2戦富士大会ではポールポジションを獲得しているので、コンディションによっては大暴れしてくれることでしょう。ちなみに、ハンディウエイトは0kg(!)です。
#100 RAYBRIG HSV-010と#18 ウイダー HSV-010にとって苦しい戦いとなるのはまず間違いのないところですが、チャンピオンシップのことを考えれば、ここではライバルより1点でも多く獲得することが強く望まれます。実力に関しては全く不安のない2台ですが、今大会でもミスなく、そしてねばり強く戦い続けてほしいものです。
第6戦富士大会は9月9日(日)に決勝レースが行われます。行楽シーズン真っ盛りのこの時季、霊峰富士に抱かれた富士スピードウェイにお越しいただき、5台のHSV-010 GTに力強いご声援をお送りください。どうぞよろしくお願いします。